第31話 テンプレテンプレ
「ったく、誰かさんのせいで後れちまったぜ」
「でもなんとか間に合いそうじゃねーか」
「ほんと、誰かさんのせいですわね」
「…………」
エイル達は他の駅まで走って行く。
元から人通りの少ない道も、フェスタの今日は一段と人通りが少なかった。
住民は皆、会場へ直接見に行くか、コロッセオの巨大スクリーンか家や喫茶店のテレビにかじりついているだろう。
この時間に外を出歩く人はまずいない。
直隆が道に立っているポール上の時計を見上げる。
「お、汽車時間には余裕だな、これなら歩いても間に合、止まれ!」
直隆の怒声にエイル達は立ち止まる。
同時に、足下の敷石に何本もの矢が突き刺さる。
「これは……ローマ軍の」
ゼノビアが矢だけ相手の正体を看破。
見上げれば、周囲の民家の屋根から一〇人の弓兵達が、路地裏から二〇人の歩兵達が姿を現した。
「悪いがここは通さないぜ」
「お前らはフェスタ一回戦敗退なんだよ」
「抵抗してもいいけど、俺らを全員倒そうと思ったらだいぶ消耗するんじゃないか」
「って、俺らが負けるの前提に話すなよ」
「お、そうか、悪い」
ちょっと間の抜けた奴もいるようだが、とにかく前方に二〇人、上に一〇人の敵。
背後へ逃げようとすれば、弓兵がすぐさま射かけて来るだろう。
エイルが歯噛みする。
「おいゼノビア、こいつら全員撃ち殺していいか?」
「まだよ」
両腰の拳銃を意識し始めるカラミティだが、いくらカラミティでも一〇人の弓兵全員を一射もさせず撃ち殺すのは難しいだろう。
その為には、なにかしら隙を作る必要がある。
ドサドサ、と大きな音がする。
ゼノビアはまだ何もしていない。
だが屋根の上に控えていた弓兵のうち四人の首が地面に転がっていた。
◆
『誰だ!?』
ローマ兵達が見上げると、彼女は屋根の上に立っていた。
モデル並のスラリとした長身に、セックスシンボルが擬人化したような規格外の超乳爆尻ボディ。
世界中のどんな高級娼婦でも、彼女の前では委縮してしまうだろう。
長い黒髪は絹のように美しく、風にやわらかくなびく。
けれどその目は戦人のそれ。手に持つソレは数多の男達の首を狩り飛ばしてきた大戟。凛とした眼差しから四肢に至るまで充溢した闘気。
彼女こそ、ベトナム最強の英雄、チュウ・アウその人だ。
「くだらない事をするのだな」
アウは死んだ弓兵の死体から矢を六本抜き取り、右手で立てつづけに投げつけた。
皆が呆気に取られている間に矢は、ドカ、という矢とは思えない音を立てて残りの弓兵の顔面を射ぬいた。
残るは槍や剣で武装した歩兵二〇人。
アウは屋根から降りて、ローマ兵達とエイル達の間に降り立った。
「ゼノビア。貴組達は手を出すな、貴君らには一切消耗する事なく、万全の状態でフェスタに挑んで欲しい。ここは私が」
アウが勇ましく戟を構える。すると、ローマ兵達はいやらしい笑みを浮かべた。
「おいおい知ってるぜ」
「お前、処女なんだろ?」
アウが赤面する。
姿勢が崩れ、額に汗を書き始める。
「なっ、そんな、わ、私は……」
同様するアウの前で、ローマ兵は次々腰から下の装備をはずし、全員下半身を露出した。
ちなみに古代ギリシャやローマは裸に寛容な土地柄なので、男達は気にする様子がない。
「くぁwせdrftgyふじこlp;@」
二〇人分の下半身を見て、アウは全身が固まってしまう。
あまりに見慣れない、そして恥ずかしいモノが目の前にズラリと並んでいる。
アウは震えるヒザを抑えられず、涙ぐむ。
ゼノビアとカラミティにお礼がしたくて、ローマ兵が何か企んでいないかと後をつけてきたのにこれだ。
情けない、そう自分を叱咤するが体が言う事を聞いてくれなかった。
アウは一生けん命奮い立とうとするが、でも、本当にでもだってどうしようもない。
その時、六発の銃声が鳴り、アウの前に並ぶモノが一三に減った。
見ると、二丁拳銃スタイルのカラミティの横で、ゼノビアが弓を握っていた。左手は、もう開かれている。
「カティ」
「おう」
ゼノビアが、魔王が如く笑みと深海のように暗く冷たい声音で歓喜した。
「もぎ取り放題よ」
「潰し放題だな!」
残りのローマ兵が両手で股間を抑えながら悲鳴をあげて逃げる、だが脱いだモノが足に絡まって全員転倒。
ゼノビアがアウに声をかける。
「今ですわアウ! あの馬鹿共を一掃しますのよ!」
「はっ、あ、ああ! はぁっああああああ!」
アウは戟の柄頭を掴み、最大射程で大きく遠心力を乗せて一薙ぎする。
その一撃は、転んだローマ兵達の下半身を見事に千切り、切断し、潰した。
何せ大型の戟とはいえこちらは円運動で、ローマ兵も綺麗に整列しているわけではないし、転んだ時の姿勢もまちまちだ。
戟の刃に当たった者は切断され、穂先の根元と柄の境界に当たった者は千切られ、柄に当たった者の下半身は汚く潰れてしまう。
阿鼻叫喚の地獄絵図と化した路上。
その惨劇を見ながらアウとゼノビア、カラミティとエイルは満足げに笑い、直隆は無言のままに青ざめる。
「さぁゼノビア。貴君らは早く会場に」
ゼノビアがアウの手を取った。
「一緒に行きましょう。ワタクシ達の活躍、見てくれるのでしょう?」
アウの顔が、パッと明るく弾けた。
「ああ、もちろんだ♪」
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