第20話 渡りに泥船


「ここがわたくしの家ですわ」


 ゼノビアの家は結構な邸宅だった。

 大きめの門に広い庭、その先には一〇人以上が楽に住めそうな家が建っている。でも、


「あれ? 女王だからお屋敷でも当てがわれていると思ってたんだけど」

「それなら向こうですわ」


 促され、エイルが窓の外見ると、庭の先に立派なお屋敷が建っている。


「こっちは離れみたいなものですわ。あちらのほうがゴージャスですが、カティ一人二あのお屋敷を掃除させるのは可愛そうなのでこちらに住んでいますの」

エイルが聞き返す。

「カティ?」

「ええ、今紹介致しますわ。カティー、ご主人様のお帰りですわよー♪ 直隆のヴァルキリーもいますわ♪」


 ゼノビアが上機嫌に呼ぶと、奥からテンガロンハットをかぶったメイド姿の少女がぱたぱたを走って来る。

 茶髪の小柄な少女で、エイルとは対照的にスレンダーなボディラインだ。

 左右の腰には、何故かホルスターと拳銃が挿さっている。


「お、なんだよ直隆、お前結局捕まったのか? だらしねーなー」


 両手をひらひらさせて直隆をバカにする少女。

 直隆は大人の対応で溜息を返す。


「借金のかたにメイドさせられているお前に言われたくねぇよ」

「う、うるせぇ! すぐに負けを返してこんな家とっとと出てってやる! おいゼノビア、さっさと準備しやがれ!」


 顔を真っ赤にしてカティはポケットからトランプを取り出す。


「ふふ、またケチョンケチョンにして差し上げますわ♪」


 ゼノビアとカティはリビングのソファに座ると、トランプゲームの準備を始めた。


「ねぇ直隆、あのカティって」

「本名カラミティ・ジェーン。アメリカ西部開拓時代の女ガンマンだ」

「じゃあ近代の人なんだ。銃が武器ならジョブはシューターかしら。ふーん」


 エイルは下唇に指を添えて思案。


「直隆をアタッカーにしてシューターのカラミティが援護。ゼノビアをライダーとして移動サポート要員に使えば……」

「あ、言っとくけど俺もカラミティも馬は召喚できるぞ」

「ほんと♪ じゃあうちのギルドの武器は機動力ね♪」


 エイルの顔がぱぁっとはなやいで、直隆はちょっと胸がしめつけらえる。

 なんだかどんどん『やっぱギルドやめる』と言い出しにくい感じになっている。

 でもその場の流れに流されて後で取り返しのつかない事になるのはいやだ。


「ぐあっ! ババじゃねぇか!」

「あんたらババ抜きやってんの!?」


 カラミティの悲鳴に、エイルが鋭くつっこんだ。


「おう、ゼノビアの野郎がババ抜きしか相手にしてくれねぇんだよ。ようっし、絶対このババをお前につっ返してやるぜ」


 やる気十分のカラミティ。状況が理解できない直隆はエイルの肩を叩いた。


「おい、ババ抜きって何か駄目なのか? トランプって俺らの花札みたいなもんじゃないのか?」

「そっか、あんたの時代の日本にはトランプないんだっけ? ようするにババ抜きは子供の遊びなのよ。大人ならポーカーやブラックジャックかしら。神経衰弱や大富豪はギリギリ、でもババ抜きなんて子供っぽすぎ……て……え?」


 ゼノビアがカラミティの手札の一枚をつまんで、カラミティが満面の笑みになっている。

 となりの手札をつまむと、この世の終わりのような顔をする。

 そのカードをゼノビアに取られて、ゼノビアは上がり、勝利した。


「ぐぎゃああ、また負けたー!」


 カラミティは最後に残ったジョーカーを投げ出して悲鳴をあげた。

 エイルは『なんてバカな子なの』と無言で語った。


「ウフフ、これでとうとう再来年のお給料に突入よ♪」

「ちっくしょう! あっ!」


 怒りに任せてふるった手が、テーブルの花瓶に当たり床に落下。花瓶は粉々に砕け散った。


「ウフフフフフフ♪ 割ったわね? 割ったわね? これでもう三カ月プラスよ♪」

「うにゃー!」


 涙目になって叫ぶカラミティを、ゼノビアは愉快な笑顔で眺めた。


「カティはもうこんな感じで英霊なのにずっとゼノビアのメイドをやっているんだよ」

「でもさ直隆、カティも英霊なら献金貰ってるでしょ?」

「ダメよ、この子、献金は全部お酒にしてしまいますの」


 ゼノビアが口をはさんでくる。


「この子への献金は決して多くは無いけれど、それを全てワタシへ借金返済に当てれば返済期間は減るのに」

「だってビールとかワインとか吞みたいじゃんかよお」


 カラミティは唇をとがらせてブーブー文句を言う。


「お前なぁ、蜂蜜酒ならタダだろ」

「いやだ! あたしはビールとワインが吞みたいんだ! ノービールワインノーライフだ!」

「だからいつまで経っても借金地獄から抜け出せないんだろうが」

「なんだと直隆、お前あたしに文句あるのか!」


 両腰から抜き構えた二丁拳銃の引き金が絞られる。

 ためらいなく放たれた二発の弾丸を、直隆は動体視力と反射神経でひらりとかわして、二発の弾丸は二つの壺を破壊した。


「にぎゃー!」


 ゼノビアの顔が邪悪な笑みを浮かべ、カラミティはその足下にすがりつく。


「た、頼むゼノビア! あの壺は安物だと言ってくれ! お前だってたまには安物の壺を飾りたくなるだろ!? お願いだからあれは安物だと」

「ささ来年いっぱいはメイド服、脱げませんので」

「にゃああああああああああああジーーーーザーーーーース‼」


 カラミティは、頭を抱えて泣き崩れる。


「ウフフ、本当にカティは可愛いですわ♪」


 直隆とエイルは、カラミティに同情の眼差しを送った。

   

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