第19話 英霊に飲み込まれるヴァルキリー

「くそがぁあああああああ! 女王のクセになんでそんな身体能力高いんだよぉおおおおおおおおおお!」

「ふふ、ワタクシの分類、ジョブはキングとライダーとアタッカーだということをお忘れかしら? ほら」


 戦場を駆けまわった直隆の足についてくる健脚ぶり、のふとももがあらわになった。


 ゼノビアが走りながらドレスのスカートを持ちあげて、褐色の程良い肉付きのふとももは、男ならば一度は挟まれたいだろう。


 ――うっわ、超挟まれたい。


 路地裏や民家の屋根を駆け抜けて跳んで、大通りへ着地。

 ゼノビアが目の前に着地して、直隆は一歩あとずさる。


「ウフフ、直隆、是非ワタクシの家臣に」

「だから俺はもう誰かに仕える気は……」

「見つけたわよ直隆!」


 背後からエイルが猛スピードで駆け寄って来る。

 前門の虎後門の狼。

 挟み撃ちになって悲鳴をあげたい直隆だが、その頭に閃くものがあった。


「お、おーここにいたのかギルドマスター!」

「へ?」


 直隆はエイルの両肩をわしづかに気さくに話しかける。


「いやぁ、はぐれちまってどこにいるか探したぜギルドマスター。あ、ゼノビア、紹介するよ。こいつが俺のギルドマスターのエイル。実はあれから色々あって俺もギルドに加盟することになってさ、もうフリーじゃないんだよ」


 直隆はわざとらしく頭をかきながら作り笑いをする。


「いやぁ、もうフリーじゃない以上、お前の家臣にはなれないなー、武士として二君に仕えるなんていけないぜー。いやー残念残念、はっはっはっ」

「は? ちょっと待ってよ直隆、あんたさっきモガ」


 エイルの口を押さえ黙らせる。

 手足をばたつかせ抵抗するエイルを抱き上げて、直隆は逃走経路を確認。


「まっ、そういうわけだから家来は他を当たってくれ、じゃ、俺は」

「なーんだ、ではその子を家臣にすれば直隆もおまけでついてきますのね?」

「「へ?」」


 直隆とエイルは目をぱちくりさせる。


「二週間後のフェスタというのに興味がありましたが、ワタクシ、フリーなのでヴァルキリーの家臣も必要だと思っていましたの。手間が省けましたわ、そ・れ・に」


 ゼノビアはエイルの顔を覗きこむ。


「綺麗な肌と髪、目も大きくて、綺麗系? いえ、まだ可愛い系かしら?」

「ひゃん」


 ゼノビアの細い指が、エイルの豊満な胸と尻をなで、肉に食い込む。


「やわらかさ、弾力、質感OK。あむ」

「はわわ」


 ゼノビアに耳を噛まれ、エイルの顔が羞恥で赤くそまり、体が小刻みに震える。


「あむ、はむ、ふふ、感度もOK。いいわ、貴女をワタクシのヴァルキリーにしてあげる」

「っ、ふざけんじゃないわよあんた! 直隆なんなのよこいつ」


 エイルは耳と胸を解放されて勝気さを取り戻した。


「ゼノビアだよ、中東パルミラ、今のシリア一帯を治めていた女王様だ」

「ゼノビア?…………って、あのゼノビア!?」


 エイルが目を丸くして驚く。

 そのままポカンとした顔でゼノビアを眺めてしまう。


「で、でも家臣って何よ、あたしは神に仕えるヴァルキリーなのよ! それを人間の分際で」

「ふぅ、これでフェスタに出られるわ、直隆も手に入ったし、今日は良い日ですわ」

「え? フェスタ?」


 エイルが聞き直した。


「ええ、先程も言いましたわよ。二週間後のフェスタに出るのにギルドマスターとなるヴァルキリーが必要だと。ワタクシが貴女のギルドに加盟すれば問題ないのでしょう?」


 エイルがフリーズした。


 ――やばい、今エイルに折れられたら俺の計画が。頑張れエイル。ヴァルキリーの矜持を忘れるな。一時の欲に負けたら駄目だ。断るんだ。


「あ、あたしは、その」

「ところでエイル。貴女他のベルセルクは?」

「え? 直隆だけだけど」

「じゃあワタクシの家に行きましょう。仲間を紹介しますわ、ささ、こちらですわ」


 ゼノビアは、自分とそう身長の変わらないエイルを小脇に抱え歩き出す。

 エイルはわけもわからずフリーズしたまま運ばれて行った。


「何をしていますの直隆、早くきなさい。貴女、この子のベルセルクって、さっき自分で言っていたでしょう」

「あ、う、うん、はい……」


 直隆は心の中で、


 ――俺、日本人だけど……オーマイゴッド‼‼


 エイルとゼノビアから逃げたかったのに、直隆はなしくずしてきにゼノビアの家臣になりながらギルドに加盟する事になってしまった。


「最悪だ」

  

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