第2話 北の森の魔女

「ブライアンしっかりして、ブライアンってば」

「ぶはッ……うっ、ごほっげほっ」


 咳き込みつつ肺に空気を目一杯吸い込むブライアンは生理的に浮かんでいた涙を拭いクレアを見上げた。クレアは心底安堵して表情を緩める。


「良かった……馬鹿、心配させないでよ」

「え、何で、クレアの顔が俺より高い位置に……?」


 クレアとブライアンは同い年だが身長は彼の方がもう高い。並んだ時はクレアより目線が頭半分高い彼なのでこんな位置関係が心底不思議だったのだろう。


「何でって言われても……もう大丈夫なの? だったら早く起きてほしいんだけど」


 怪訝な様子と心配そうな声音を受けて、ブライアンもようやく冷静に自分の置かれた状況を把握したのか、


「のわっ膝枕!?」


 焦ったように目を見開いて勢いよく身を起こした。

 ゴッと、鈍い音を立てクレアの顎とブライアンの額がぶつかったのは言うまでもない。アゴデコ激突事件の当事者たちは石畳の上で患部を押さえてしばし身悶えした。


「いっっったああああーーーーいっ! あなたこそ石頭じゃないのっ! 顎が割れたらどうしてくれるのよ」

「づっっっ……こっちだって額が割れたらどうしてくれるんだよ」

「そんなの第三の目でも生み出したらいいのよ。開眼しなさいよ」

「はん、そしたら見てろよ? 透視能力獲得してお前の脳みそがいかに取るに足らないちっちぇー脳みそか暴いてやるからな」


 低レベルな馬鹿馬鹿しい会話が聞こえていたニコラスは苦笑いした。


「全くもう、ブライアンのおかげで寿命が縮まったわよ」


 涙目のクレアがまだジンジンと痛む赤い顎をさすりながらも立ち上がると、ブライアンもよろりと立ち上がった。こちらはこちらでデコが赤いが何故だか頬まで赤かった。


「悪かったよ。さてと、店に入るか。ケーキさんも悪かったな。予約してたの受け取りに来たんだけど、いいか?」

「え? わざわざ予約なんてしてたの?」


 意表を突かれ、クレアは大きく瞬いた。


「ってことはキーッ悔しいわニコラスちゃんの花束ってあなたのなのねっ」


 オネエケーキ屋にキッと睨まれたクレアは反射的に一歩引いて軽く引き攣った笑みを浮かべる。


(どうしろってのよ!)


「予約のケーキならすぐに渡せるから、ニコラスちゃんも一緒に店内で待ってたらいいわ。新作の試食なんかしてくれると助かるしぃ」

「僕は構わないよ。じゃあ三人で一緒に帰ろうか」

「時間取らせて悪いな兄貴。それと助かった」

「いえいえ。でもあまりクレアを心配させては駄目だよ」

「わぁかってるよ」


 にこりと笑顔を作る兄に弟は面白くなさそうに答えた。


 オネエ店長がニコラスの同意にスキップで一足先に店内へ戻る。続いてニコラスが扉を潜る。扉に括りつけられた町の酪農家から譲ってもらったというカウベルがカランと音を立てた。


「予約してたなら最初に言ってくれたらよかったのに」


 クレアが拗ねたように唇をすぼめて言うと、兄に続いて店内に入ろうとしていたブライアンが肩越しに振り返る。


「サプライズだったんだよ。まっ祝われる奴が余計な気を遣うなってわけだ」


 じっと見つめられクレアは降参の溜息をつくと、その珊瑚色の唇に小さな苦笑を浮かべる。


「わかったわよーだ」


 話がついてホッとしたのか微笑んでクレアの赤毛をくしゃりと撫でると、ブライアンは前を向く。

 クレアは乱された髪を手で撫でつけた。


「……何の気なしにこういうことするから」


 嬉しくなったのを何故か少し悔しく思いながら唇を尖らせ後に続く。

 と、髪を整えるその手が何かに触れた。


(何だろ……?)


 耳の少し上辺りの髪に差し込まれていた物を手に取ったクレアは、目を瞠った。


(嘘、不可能の青い薔薇? あ……ううんこれって)


「ああそれ道端に落ちてたやつ。お前にやるよ」

「道端って!」


 とんでもなく失礼な発言にクレアは信じられないとブライアンを睨んだ。

 正直手の中の物を投げつけてやろうかと思ったけれど、思いとどまった。

 手に握っている小ぶりの青い薔薇は植物そのものではなく、花の形をした綺麗な髪飾りだった。


 これはきっとブライアンが町の雑貨店から購入したものだとクレアは直感した。


 いくら彼が女心もわからない朴念仁でも、まさか本当に道端の落とし物をクレアに贈ったりはしないだろう。


 ――今日はクレアの誕生日。


(プレゼント、かも)


 戸惑いがちに彼を見れば、やや緊張した面持ちでクレアを見る眼差しと合う。


(やっぱり、あたしのために)


 堪え切れず頬が緩む。初めて家族全員としてではなくブライアン個人から贈り物をもらった。

 何だか足元がふわふわした心地になる。


「ちょっと待ってブライアン」

「何だよ……?」


 店に入ろうとしていた少年を呼び止め、クレアは髪飾りを今度は自分で頭に付けて、くるりとターンして見せた。

 白いブラウスの下でチャコールグレイのスカートの裾が広がる。

 靡く髪の真紅と青い薔薇の色はまるで互いのためにあるかのように映えていた。


「ふふっ、ど? 可愛い?」


 少し小首を傾げるクレアの少女らしい仕種と笑みにブライアンは、ぼーっとなった。


「あっちょっと何よう、その珍獣でも見たみたいな間抜けた顔は。失礼しちゃう!」

「へ? あ、いや、そんなつもりは……」


 ハッと我に返ってあたふたと取り繕うブライアンの様子が何だか可笑しくて、クレアはくすくすと笑った。


「まあいいわ。これ、大事にするわね。どうもありがとう、ブライアン」


 彼はホッとした様子で一息つくと柔らかく微笑んだ。

 こういう笑み一つを取っても、表情の作り方は兄弟二人よく似ていた。


「ケチ臭い俺がわざわざ奮発したんだからな、当っ然大事に使えよ」

「……」


 こういう部分は人望厚いニコラスとは雲泥の差だったけれども。


「――ニコラスちゃんどうかした? 外なんて見て笑って」

「いや、ちょっと微笑ましくて」


 試食を出してきたケーキがニコラスをうっとりと見つめる。


「そうねその微笑ましいあなたに私も微笑んじゃう。ケーキを包んでる間これを食べて、後で感想を聞かせてくれると有難いわあ。んふ、ケーキを包むって私を包むって言ってるみたいで嫌だわ~……嫌じゃないけど。あはーんニコラスちゃんになら私食べられてもいい」


 試食の載った三人分の小皿をショーケースの上に置くと、両腕で自分を抱きしめる店主ケーキ。一体どんな力で自らを抱きしめているのかぎゅむぎゅむぎゅむぎゅむと筋肉が圧される奇音が聞こえてくる。


「ありがとう、いつにも増して美味しそうだね」


 気にならないのかスルーしたのか感情を読ませない柔和な笑みでニコラスは返した。

 そのうちクレアとブライアンが入って来て店内の恐怖の光景に凍り付いたが、二人は気力で持ち直した。

 予約のケーキを受け取ると三人は試食の感想を告げて店を出た。


「さ、早く帰りましょ。お屋敷の皆が待ってるんでしょ」


 髪飾りは気に入ったし試食ケーキは美味しかったしで上機嫌なクレアは、一人弾むステップと共に駆け出す。


「あっおい」

「先に行ってるわねブライアン。ケーキよろしく!」

「全く……」


 と、既にケーキを片手にしている彼へ花束が押し付けられた。


「じゃあついでにこれもよろしく」


 ニコラスが悪戯めいた表情を向け先に歩いて行ってしまう。


「はあ? 何兄貴までそいつのノリに合わせてるんだよ」

「これでさっき助けた貸し借りはなしってことで」

「……ホント兄貴は抜け目ないよな。って、ちょっと待てよ二人共っ、置いてくなーっ」


 その晩クレアの前にはブライアンのせいで型崩れした無残なバースデーケーキと、伯爵夫人シシーに怒られる彼の姿があった。クレアとニコラスで取りなしてシシーを宥め、最後は何とか皆笑顔で締めくくられた。


 平和だった。


 きっとこの家の誰にとっても穏やかな日常が流れていた。


 それはなんて幸運で、幸福な時間だったのだろう。


 後になってクレアはそんな風に思ったものだ。






 クレアはかつてこのラクレア国の中心都市たる王都ラクレアに住んでいた。

 因みにクレアの名前はこの国の名とは関係ない。純粋に両親が選んでくれたものだと彼女はそう聞いている。


「クレア、例えばもしも森で迷ったら、その時は一番大きな木に訊ねるのよ。心を込めてお願いすればきっと最善の道を教えてくれるから」

「どうして一番大きな木なの?」

「長く生きていて物知りだからよ」


 自らそんな経験があるかのように語るのはクレアの母親だ。

 ここは白い宝玉とまで称される王都ラクレア。

 田畑の広がる平原中央に緩やかに盛り上がる丘上に、夢のように大きな白亜の王城を頂いている。

 丘下へと連なる白壁の城下町もとても広い。

 しかし大地はもっと広大だと、街をぐるりと囲む城壁に立って見晴かすれば気付かされるだろう。平原の先、郊外の森は遥か遠かった。

 そもそも兵士でもない限り、王都の民は獣のうろつく郊外の森へは滅多に行かないので、クレアが森で迷うなんてそうそう起きないだろうに、窓辺から降り注ぐ柔らかな陽光の中、珍しく体調が良いのかベッドを離れ長椅子に腰かけた母親は、万が一にもそんな可能性を思い付いたのだろうか。


 母親は頭を撫でてと甘えるクレアへと、他にもおまじないやわくわくする話をいくつもしてくれた。


 世にも美しい空の妖精の話や世にも珍しい獣の魔法使いの話、世にも恐ろしい海獣の話などなど、母親の話できちんと覚えているものは数える程だったけれど、そのどれもが何にも代え難い大切な思い出だ。


 母親は魔法の使い過ぎで体調を崩すまでは、国の魔法使いの中でも引っ張りだこだったらしい。

 母親亡き後も王都に住み続ける選択肢もあったが、父親は華の都を離れ、親友が治めるこの小さな町ウィーズに落ち着いた。

 ウィンストン家は伯爵家とは言っても歴史は浅く、王都やその近隣の貴族達のように一目置かれる家門ではない。

 一士官に過ぎなかった何代か前の先祖に大功を立てた者がいたために、たまたま空位となっていたウィズランド伯爵位を賜った。

 ただし領地はとても広い。


 実利には結び付かないが、ウィーズ北方の広大な森を所有しているためだ。


 人跡未踏のそこは、北の魔女の森、とそう呼ばれている。


 ともかく、そのウィーズの町でクレアは思春期の大半を過ごした。






「ねえクレア、本命は一体どっちなのよ」


 後にも先にも、一つの重要な問いが投じられた。


「クレアがはっきりしてくれないと私たち動けないじゃない」


 そうよそうよと口々に、学校の級友たちの真剣味を帯びた顔が近付く。


「どっちでもないわよ」


 ウィーズの町の高等学校のとある教室で、面倒臭いという感情丸出しでクレアは自分の席を囲む女子生徒達を仰いだ。


「悔しいけど、クレアはニコラス様と婚約するのよね? ニコラス様ってオーリ王子殿下に似てて超美形だし」

「違うわよ同い年のブライアン君に決まってるわ。誰似ってわけでもないけどイケメンだし運動はできるし、この先もっと男前に磨きがかかるわよ」

「とにかくどちらか一人とくっ付くのはわかってるんだから、さっさと白状しなさい」

「白状って……あのねえ、ブライアンもニック兄様も家族みたいなものよ。二人が当たり前のように仲良くしてくれるのだって、あたしが二人にとっても妹とか姉とか家族同然だからよ。あとは父親同士が知り合いだから粗相のないように、とか?」


 級友達からそんなわけないでしょっと声を揃えて突っ込まれたけれど、気にせずクレアは長い髪をさらりと揺らして席を立つ。

 過去にもう何度も何度も同じ問いをぶつけられた。いい加減この小さな町の友人達は理解してくれないものだろうか、なんて思うクレアだ。


「えーもう帰るの? クレアったら釣れないわね。この前貸した恋愛小説ちゃんと読んでる?」

「その鈍さが憎たらしくてその白くてすべすべの頬を引っ張ってやりたくなるわ。ああでもあなたの心臓の毛の太さはよーくわかってるから、もう無駄に意地悪なんてしないけど」

「クレアに意地悪なんて焼け石に水、ぬかに釘、暖簾のれんに腕押しだったもんね。この調子だと北の森の魔女に『クレアに恋心を下さい』って願った方が早そうだわ」


 うんうんと一様に頷く友人達にクレアはげんなりした。

 この町に来てからというもの、ウィンストン兄弟と仲が良いと知られた時と親同士の意向で同居すると決まった時、などなど、この地の女子達からの嫉妬による意地悪やら嫌がらせを山ほど経験してきたクレアだ。

 しかし王都在住の間、魔力なしの落ちこぼれと母方の親族から蔑視されていたクレアからすれば、魔法を使わない子供の悪戯など文字通り児戯じぎだった。

 母方の一族は優秀で物心ついた時から普通に魔法を使える逸材揃い。

 故に人を小馬鹿にするなんて朝飯前の連中で、そういう時も律儀に優位を示すためか魔法を使ってきた。

 用事があって訪れると、鎖の蛇を巻きつけられたり、人喰い魚がいる池の真上すれすれに浮かされたり、高い木の天辺に括りつけられたりと、魔法で散々な目に遭わされたものだった。

 ここの友人らは当然知らないが、そういうわけでクレア・ローランドはちょっとやそっとじゃ動じない強い子に育っていたのだ。


 かつて意地悪娘だった目の前の少女達は平然と受け流すクレアに根負けし、気付けば一部がこうして小姑と化した。過去にムカついたのは事実だし喧嘩だってした。

 しかしながら、変な道筋を辿ったとは言え不思議にも友情がクレアの胸には生まれている。彼女達の方はどうか知らないけれども。


(はあ。要らぬお節介って言葉知らないのかしら……)


 クレアはそう呆れつつも、無視して帰ったりと邪険に接したりはしない。こんな他愛ないやり取りが嫌いではなかった。


(皆の気の済むまで……とはいかないけど、図書館はまだやってるしもう少しだけ付き合おうかしら)


 そう思うクレアは帰り支度を続けつつ、話に耳を傾ける。

 学校の授業はとっくに終わっていて、現在は放課後。各々が自由に残っている時間だった。

 クレアも含めたこの町の娘は送迎や門限ありきの王都の貴族令嬢とは違いかなり自由だ。

 窓から見える青空にはゆっくりと進む白い雲が浮かんでいる。

 長閑な午後の、夏の初め。


 あと数日もすればクレアは十六歳になる。


 この国や近隣諸国では十六になれば一般に結婚も許されるとあって、そして十六での婚約や結婚も珍しくないとあって、クレアの周辺は落ち着かないのだろう。

 町で一番人気の美形で頭脳明晰かつ社交的なニコラスか、頭の出来は兄程ではないが武芸に秀で密かに憧れる女子の多いブライアンか、そのどちらかとクレアは結婚するだろうと誰もが思っている。

 現在二人の幼馴染みは学業の関係でこの町で暮らしてはいないにもかかわらずこうも話題にされるのは、クレアが二人の実家で暮らしているからだろう。

 皆はくっ付かない方を堂々狙うつもりなのだ。

 クレアはまだ誰かに恋するつもりはないので、いくら選べと迫られてもどうしようもない。


「ところで――北の森の魔女って、本当にいると思う?」


 ふと思い付いてクレアは訊ねた。


「えーいるんじゃない?」


 一人がそう言えばたちまち他の友人たちも私見を披露し合う。


「えー、北の森の魔女って迷信でしょ? ずっとそう思ってたけど」

「私も。まあいてもいなくても、欲塗れの願いには怖~い代償があるぞっていう教訓的なアレよね」

「じゃあクレアのこと頼めないわね」

「あー、確かに」

「ねー」


 くすくすあははと笑声が上がる。自分のことなのだがクレアも思わず口元を綻ばせていた。


 実はこの町の北部どころかウィズランド領全体から見ても北部を占める広大な森、北の森と呼ばれ千年以上前からあると言われているそこは、プロペラ機だって飛ぶ程文明が進んだ現在でもなお、人の手が入らない地だ。上空から見下ろそうとも何らかの広域妨害魔法でぼかされて詳細を観測する事ができないらしい。

 記録にある限り、他の地域の森のように開拓された事は一度としてないようだった。


 その理由は、そこには古の魔女が棲むとされ、森に手を付けると祟られる恐れられているからだ。


 いつからいるのか森の奥とは言えどこに居るのかどんな容姿なのかは一切不明。


 先住は魔女の方。


 よって誰だって自分の棲みかを荒らされれば腹を立てるように、過去に森を開拓しようとした者はほぼ例外なく魔女の怒りを買い不幸な顛末を迎えたという。

 ウィズランド領の領主一族がころころ変わってきたのはそれが理由ともされている。故にいつしか誰も森に手を出そうとはしなくなったのだ。

 存在の真偽はさておき、領民の間では幼子でさえ魔女の怖さを知っていた。

 余所者のクレアもいつの間にか誰かの会話の中でその話を聞き、自然とその存在を知るに至っている。


 一方、恐れられている裏で、古き魔女には密かな噂もあった。


 人を迷わせる北の森で運よく魔女の棲み家に辿り着けた者には、何でも一つ願いを叶えてくれるという。


 ……魔女に求められるまま対価さえ支払えば。


 しかもそれは恐ろしい程に高く付くらしく、莫大な金銀財宝はもちろん手足の一本二本は序の口、命までが要求の対象らしいと。


(嘘でも本当でも噂としての域を出ないあたり、この町は魔法と縁遠くて平和よね。隣国アルフォとの関係がきな臭くなってるみたいだし、ここがもし王都だったらそんな強大な力を持つ魔女を放置なんて絶対にしないわ。何らかの形で接触を試みてるはずよ。誰も積極的に探さない辺りは、王都から離れているのもあるだろうけど、やっぱりバートおじ様の影響よね)


 クレアは庭師に交じり、いつものんびりと土いじりをしている麦わら帽子の父の親友の姿を頭に思い浮かべた。


 クレアの見解としては、かつては本当に魔女が居たのかもしれないが、魔女にだって寿命がある。きっともうとっくに件の魔女は存在せず深い森に畏怖した人々が創り出した幻想なのだろうと思っている。

 それでも級友に問いかけたのは同年代の皆の意見も聞いてみたかったのだ。


「あたしそろそろ帰るわね」


 鞄を手にクレアが少女達の輪から抜けると、今日はもう満足したのか友人達はあっさりと解放してくれた。


「また明日ねクレア。恋はいつの間にか落ちてるものよ」

「同感。それに二人だってクレアに傍にいてほしいに決まってるわ」

「絶対そうよ。ああ何て純愛なの、クレアの気持ちを優先して、そのためにどちらかが身を引くのね」

「お前が幸せになれるなら俺は……! とかよね。きゃー切ないわ!」

「そう、これが僕の愛の形だよ、なんて素敵~!」

「あ・の・ね・え!」


 一応は恋敵に対する言動とは思えない。

 想像というか妄想してはしゃぎ合う友人達に呆気に取られるクレアはそれ以上の掛ける言葉が見つからず、とりあえず「それじゃ」と別れの挨拶を述べるにとどめた。

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