三枚のおあげ

三枚のおあげ

 この作品はコンテスト応募作品である。


 カップうどん・カップそばと聞いた時、一番最初に連想されるディテールは、おそらくあの「上にのってるやつ」だろう。きつねの場合はおあげ、たぬきの場合は天ぷら。


 おれはうどんかそばかで言えば結構わかりやすいくらいの「うどん派」なので、必然的におあげを食うことになるのだが、おれの弟妹はどちらもこの「おあげ」特に「カップうどんにのっているおあげ」が嫌いで、3人で土曜日の昼などに赤いきつねを作って食うと、知らぬ間におれのどんぶりにおあげが3枚のっているという事態に出くわすことが多かった。


 おれ自身はおあげが好きなので何のデメリットもないどころかむしろ嬉しいくらいなのだが、主菜たる「おあげ」がのっていない素うどんで良いのかと弟妹に聞くと、めんとスープだけでおいしいので別にそれでもかまわないという。


 なぜ嫌いなのかと聞いてみると、スポンジみたいな食感があまり好きでないし(高野豆腐なども嫌いな部類とのこと)、味噌汁やいなりずしのおあげと違っておあげの質感が寸分の差もなくきっちり均一になっているため、どうしてもスポンジたわしなどの非食品を想像してしまい、食欲が落ちてしまうというのが原因なのだそうだ。


 あと「噛んだ時に熱い汁がブシャっと口内を襲う」のも嫌だという。まあ確かに、いきなり熱いのがワーッとくるので、事故の危険性もなくはないかもしれない。小籠包などと同じ理屈だろう。


 一方、天ぷらの場合はそういった心配がない。最初にのせて崩してもいいし、後からのせてサクサクと食べながらでも良い。事実、弟妹はどちらもそばのほうが好きだ。


 おあげは最初から入っていないと湯で戻らないので、物理的に食いづらいというただ一点においては喫食時のバリエーションのなさを痛感することはあるが、それでもおれはおあげのほうが好きだ。毎回3枚食べていればそりゃ好きにもなるかという気がしないでもないが、味も好きだ。


 おあげがのっている「きつねうどん」自体がどちらかというと関西(特に大阪)の食べ物であるという点も特筆すべきかもしれない。おれは昔から白だしの味が好きなので、必然的にきつねうどんも好きだし、違和感なく食べられる。ただ、おれも弟妹も元々のアドレスは東北なので、馴染みで考えれば「天ぷらそば」の方が気安いということはあろうかと思われる。


 今でも昼食などで「赤いきつね」を食べることがたまにあるが、おあげをかじる度に、この弟妹との思い出が蘇り、懐かしさに浸ることがある。おあげが1枚から2枚になっていた思い出。おあげが2枚から3枚になっていた思い出。またあるときは、後のせするはずだった天ぷらがいつのまにかなくなっていた思い出。


 きょうだいがそれぞれ歳を取り、世帯も持った今、改めて赤いきつねや緑のたぬきを囲む機会は早々無いかもしれない。だが、もしあるのなら、おれはまた弟妹から「おあげ」を貰おうと思う。少なくとも、年月が経って、弟妹がおあげを好きになり、美味しいと感じているのであげません(おあげだけに)と言われない限りは。

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