第41話:悪役令嬢の離宮デート
「——ということがありまして」
「へえ、流石はティア。すごいね。それでひとりの平民を救ったんだ」
「救っただなんて。私の実験に付き合わせて、たまたま成功しただけですわ」
私がそう言うと、目の前の少年は、穏やかな笑みになる。
場所は離宮。
今日は久々の、第一王子殿下との離宮デートの日だ。
窓の外に見える中庭の木々が、眩しい緑に染まり、夏の訪れが近いことを示していた。
「うん。でも、その平民の子の気持ちは少しわかるかな」
「殿下も魔法が格好良いとお思いで?」
「格好良いとはとは違うけど、神々が僕らに与えてくれた素晴らしい力。特に僕らは王族、義務としてその力を行使しなければならないのだからね。陛下をみて尊敬の念を抱くことは、当然だよ。僕が、こんな体でなければ、いつかその方法とやらも試してみたいものだよ」
「アレク様」
「まあ、そのおかげで、ティアとこうして出会えているのだから、存外悪いものではなかったのかもしれないね」
「ええ、私もアレク様とお会いできましたこと、大変感謝しております」
あの
感謝してもしきれませんよ、本当に。
第二王子殿下は、最近わりと評判がよい(当社比)。
横暴で自分勝手で空気を読まないところは相変わらずだが、ラスティーネ様が側にいて、都度第二王子殿下を嗜めている。
第二王子殿下も、それなりに忠言を受け入れているようで、傍から見るとおふたりの関係は良好のようだ。
おふたりに取り入ろうとする者は、いまだ少なくないものの、空気を読まない第二王子殿下のお陰で、彼らのその試みが成功している様子はない。
そんな話をマルチナさんから聞いた。
マルチナネットワーク侮りがたし。
冒頭話題の出た平民、トラヴィス・ドーズだが、その後無事に魔法を使えるようになり、長年の苦悩から解放されたのか、以前にもまして陽気で面倒見のよい、頼れる兄貴分としてクラスの皆に好かれているようだ。
もっとも、皆、私の言いつけ通り口には出さないが、トラヴィスの中二病的発言にを覚えていて、彼を生暖かい目で見守っているふしもある。
しょぼい魔法を笑われても、へこたれないトラヴィスの今後に期待しよう。
えたぱ攻略キャラは、私の知っている情報に限って言うと、隠しキャラ1名を含め6名。
そのうちの半数である3名、第二第三王子殿下とトラヴィスとは接触済み。
そして、今現在の彼らは皆、えたぱで登場した彼らとは大きく印象が異なる。
私の高等部入学までに、彼らの性格が変わるようなイベントが発生しないよう、今後も注視するべきだろう。
もっとも、その場合、被害に遭う悪役令嬢は私ではなく、ラスティーネ様になってしまう気もするので、余計に気を付けねば。
さて、残る3名の攻略キャラについても、いい機会なので記しておく。
ハレクシー・ワーグナス、通称ハリー。
我が家と同じ公爵家のご令息で私と同い年。
熱血直情系で融通の利かない悪役令嬢と対立する。
アルバレス・ケシャ・ジーム、通称アール。
以前も話したが、隣国との戦後処理の一環で、人質外交として高等部へ入学、第二王子殿下と同い年。
一見優男だが冷酷で、この国を恨んでいる。
カーリーライト・ストレフス、通称カール先生。
高等部生物学講師で25歳。
ストーリーモードで魔獣関連イベントに進むと登場する隠しキャラで束縛系ストーカー。
私と同い年で公爵家ご令息のハレクシーは、私同様初等部入学しているかと思ったのだが、見かけなかった。
お父様に伺ったところ、第二王子が初等部にご入学する以前より、他国へ留学されているそうで、おそらく中等部にて学院へ戻って来るとのこと。
いっそ帰ってこなければいいのにとは、口が裂けても言えないが思うくらいは自由なはずだ。
なにはともあれ、出来ることなら出会いたくない方々であり、このまましばらくはそこそこ平穏な日常を満喫したいところだ。
さて、上で語っていなかった接触済みえたぱ攻略キャラのひとり、ウェルナッド第三王子殿下。
第二王子殿下に同伴し、当たり前のように我が家を訪れいてたが、私の学院入学後から、第二王子殿下とラスティーネ様の来訪頻度が減ったためか、いつの間にか我が家への来訪はなくなっていた。
第二王子殿下とラスティネ様が、婚約当初と比べるとそれなりに仲睦まじい姿を見せているせいかもしれない。
お兄ちゃんを追いかける甘えん坊も成長なさったのねと、ほろり涙を流す場面なのだろうが、そうは問屋が卸してくれない。
こんこん。
扉がノックされる。
部屋の隅で控えていた使用人が、来訪者の名を確認するよりも早く扉が開けられ、小さな体がするりと部屋の中に飛び込んできた。
「アレクシス兄様!レイティア姉様!!ご無沙汰しておりますっ」
出会った頃よりは伸びたものの、まだまだ小さな体に輝く笑顔の少年。
ウェルナッド第三王子殿下だ。
私は苦笑いを浮かべた。
アレク様は驚きも動揺もせず、いつも通りの優しい笑顔。
「ナッド、君も元気そうだね」
「はいっ、アレクシス兄様もお変わりなくっ!」
「元気なのはよいが、名乗りもせずの入室は頂けないね。不審者として切り捨てられても文句は言えないよ」
「はい……申し訳ございません」
「ナッドも来年には王立学院に入学するのだろう?ならば王族として、手本になるような行動を身につけなければいけないよ」
「ウェルナッド殿下も初等部に入学なさるのですか?」
私は驚いた。
奔放横暴な第二王子殿下であればともかく、ただでさえ人見知りの強いウェルナッド殿下が、動物園とも呼ばれる初等部に入学するとは。
えたぱでは登場時、中等部3年設定だったので、てっきり中等部からだと思っていたわ。
「はい。ディグニクス兄様とラスティーネ姉様、それに……レイティア姉様がいらっしゃいますので。早くお会いしたくて、無理を願いました」
私に問われた第三王子殿下は、頬を赤らめながら目を輝かせ、そう言った。
わんこか!!
お尻に、ぶんぶん振られた尻尾が見えるようだ。
結局、毎回の
第二第三王子殿下ならともかく、さすがに私の守備範囲にかすりそうな第一王子殿下とふたりきりというのは、私の精神衛生上あまりよろしくないので、第三王子には感謝している。
しているのだが。
「レイティア姉様」
「レイティア姉様♪」
「レイティア姉様!!」
「レイティア姉様?」
……うん、もう少し自重しようね、第三王子殿下。
私は思わず苦笑いを浮かべてしまう。
それを見ていた第一王子殿下は、変わらぬ優しい微笑み。
「ナッド。君がティアを慕ってくれるのは兄としても嬉しい。だがね、だからといってティアを困らせてはいけないよ。ティアは僕の大事な婚約者なのだから。将来僕に何かあったときは、ナッドにティアを任せたいと思っているのだから、ティアに甘えるだけでなく、ティアを支えられるくらい成長してくれないと、困るな」
「兄様っ……」
第三王子殿下、困ったような、嬉しいような顔するのやめてください。
そこは喜ぶ場面ではないでしょう。
「だからといって、早々に僕を暗殺しようとはしないでくれよ」
「そ、そんなことはしませんっ!」
第三王子殿下は顔を真っ赤にした。
第一王子殿下も、ご兄弟に恐ろしいことをしれっと言わないでいただきたい。
「アレク様、ウェルナッド殿下も、お待たせしている婚約者候補の方に相応しい殿方になろうと努力なさっているとお聞きします。いずれ、私などに興味はなくなりますわ。それに……」
私は微笑んだ。
「何かあったときはご一緒しますと、申し上げたではありませんか」
「そ、そんなこと言わないでくださいっ」
私の言葉に泣きそうな顔で叫んだ第三王子殿下の頭を、私は不敬と知りつつ優しくなでた。
「そんなことにならぬよう、ウェルナッド殿下には、お守りいただかなくてはなりませんね」
「は、はい!」
その後、第三王子殿下はおひとりで(無論従者は引き連れてだが)我が家を訪れすようになり、なぜかお母様に剣術の師事を乞うようになった。
……そういう意味じゃないんだけどなー、まぁいっか。
ほどほどに頑張れ、
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