第73話 魔導具士
ブランさんに霊峰の秘薬の培養を打診してから数日後、返事を聞く為にブランさんに再度城まで足を運んでもらう。
「先日の答えを聞かせていただけますか?」
今日も会議室に集まり、ブランさんに早速答えをきく。
「副会長と相談し、前向きに考えさせていただきました。秘薬の販売に関しては副会長も試してみる価値はあるとの意見です」
「それでは霊峰の秘薬の培養に協力していただけるということでよかったですか?」
良い返事に少し気持ちが上がる。
「その前にお尋ねしたいことがあります」
「はい、なんでしょうか?」
「マ王陛下が霊峰の秘薬をいくつも手に入れようとしている理由をお聞かせ願えますでしょうか?一つや二つであれば一国の王として持っておきたいとお思いになるのは当然でありますが、五十個ほどというのは、理由を聞かずに協力するにはあまりにも数が多すぎます」
「話すのは構いませんが、話さなかったのはあなた達を巻き込まない為で、こちらに後ろめたいことがあるからではないです。聞かなければよかったと後悔するかもしれませんが、理由を話すことで協力していただけるなら、こちらが黙っている理由はないです」
霊峰の秘薬を欲している理由を説明すると、僕が異世界人であることを話すのはもちろん、王国の闇にまで踏み込むことになる。
知っていても知らなくても巻き込まれることもあるだろうけど、その可能性は増すはずだから、知らない方がいいこともある。
「それでもお聞かせ頂けますでしょうか?それだけの価値のある物の培養に関わるのですから、何も知らずにというわけにはいきません。それが商会としての結論です」
ブランさんが真剣な目をして話す。
安易に踏み込んではいけないとわかった上でこの話をしてきているのだから、僕もその覚悟に応えるべきだと思った。
「わかりました。それでは、霊峰の秘薬を何に使うのか順を追って説明します」
僕はブランさんに僕が異世界から召喚されたこと。
召喚されたのは僕だけではないこと。
そして王国に、友人が無理矢理隷属の呪法を掛けられて捕えられていることを説明する。
「隷属の呪法は一種の病であり、霊峰の秘薬を使うことで無効化することが出来ると考えています。もうおわかりだと思いますが、捉えられている友人を救出する為に霊峰の秘薬が人数分必要です。余裕をみて五十個と言いました」
「……王国が禁忌を犯し、召喚された者の噂は耳にしていましたが、そのようなことになっているとは知りませんでした。秘薬の培養、謹んでお受けさせていただきます」
「ありがとうございます。それでは必要な物を揃えます。場所ですが、出所を秘匿する為にも城の中に研究用の部屋を用意しようと思ってますがそれでいいですか?」
「はい、ありがたく使わせていただきます。作業に取り掛かる前にマ王陛下にお話したきことがあります」
作ってくれるということで話がまとまったと思ったけど、まだ何かあるのだろうか。
「なんでしょうか?」
「私共がどのように錬金方法が秘匿されているエクスポーションを量産しているのかです」
「以前お尋ねした時は口を閉ざしておりましたが、よろしいのですかな?」
ルマンダさんが尋ねる。
「マ王陛下が私共に話をしていただいたのにも関わらず、こちらは核となる部分を隠し続けるのは不義理にあたります」
「わかりました。聞かせてもらえますか?」
無理に話してもらわないといけないことはないけど、ブランさんは誠意を見せようとしてくれているので、その気持ちを無下にしない為にも話を聞かせてもらうことにする。
「以前に副会長である私の弟が魔道具を作っているというお話をしたと思いますが、覚えていらっしゃいますでしょうか?」
「覚えています」
「身内の私が言うことではありませんが、私には2人の弟がおり、どちらも天才です。副会長を兼任している上の弟は魔導具開発の天才でして、どこにどの魔石を組み込めばどのように作用するのかが少し考えるだけでわかります」
「確かにそれが本当であれば、天才といって間違いないでしょう。しかし、魔導具の開発が出来ても、秘匿されている薬を錬金するのは難しいはずでは?」
ルマンダさんが答え、疑問を口にする。
僕も同じ見解だ。
魔導具の開発にどれだけ長けていようとも、秘匿された技術を知ることとはまた別の問題な気がする。
「まだ完全ではありませんが、錬金法を分析する為の魔導具の開発に成功しております。魔導具に分析したい薬品を入れることで成分を分析することが出来ます。そしてそのデータを元に、末の弟が元となっている材料と錬金過程を推測して副会長と共に設計図を書きます。いきなり成功はしませんが、失敗を繰り返してエクスポーションを錬金する魔導具が完成しました。完成した魔導具 は倉庫の奥に隠してあります」
「にわかには信じがたいが、嘘を言っているようにも見えませんな」
ルマンダさんはそう言って僕の方もチラッと見る。
オボロが反応したのか知りたいようなので、僕は小さく頷き嘘は言っていないと示す。
「決して嘘は言っておりません」
「こちらから問いただしたことでもないので、この場で嘘を言う理由もないと思います。難しいことはわかりませんが、話を僕は信じます」
オボロが動かない時点で僕がブランさんを疑う理由はない。
「私も疑いたいわけではなく、ここでわざわざ陛下を騙す理由もないと理解しています。しかし、1つどうしても理解出来ないことがあります。錬金術で作られる薬品は一般的に売られている治癒ポーションなどと違い、長年の修練を積んだ錬金術師が作るからこそ高い効果が得られる代物です。仮に秘匿されているエクスポーションの錬金法を知り得たとして、魔導具により作れるとは到底思えないのです。魔導具ではなく、錬金術の天才と言っていただければ納得出来るのですが……」
理解が追いついていない僕は特に引っかからなかったが、知識豊富なルマンダさんにはブランさんが説明した魔導具は常軌を逸した性能のようだ。
「それを可能にする魔導具を開発出来るからこそ、天才とお伝えしました」
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