第72話 専属契約②

「フェレスさんにまた店舗を作ってもらいたいです。とりあえず前に作ってもらった建物を相手に見せるので、その後に細かな要望を聞いて作ってください」

ブランさん相手の謁見が終わったあと、細かな取り決めはルマンダさんに任せて、僕はフェレスさんのところに行き、店舗の建設を頼む。


「その様子だと、話はうまくまとまったようですね」


「細かな取り決めは今ルマンダさんが会議室で話し合ってくれてます。霊峰の秘薬を作れるかもしれないという話がなくても、エクスポーションや魔力回復薬を安価で販売出来るそうなので、高待遇でルシフェル国と専属契約を結んでもらうつもりです。待遇の一つとして土地と店舗を無償で提供します。他の国に移りたいと思わせないように、全ての要望を聞くくらいの気持ちで建築をお願いします」


「わかりました」



ルマンダさんから店舗の確認が出来たのちに専属契約を結ぶことになったと報告を受けた後、ルマンダさんはフェレスさんも連れてブランさんを商店街へと案内し、建てると約束する建物がどのようなものなのか実際に見てもらう。

そして、フェレスさんが実際に建物を建てる所を実演したところで正式に専属契約を結ぶこととなり、三日後、ブラン商会の店が冒険者ギルドの横に開店した。



ブラン商会がルシフェル国に店を構えて十日、本来であればもう少しゆっくりと信頼関係を築いていきたいところだけど、ブランさんを城に呼び出して謁見の間ではなく会議室に通してもらう。


「忙しい時に足を運ばせて悪かったね。僕個人として困っていることがあって協力を頼みたい。先に断っても構わないと言っておくけど、これはブラン商会にとってもメリットのある話をだから、よく考えて答えを聞かせて欲しい」

今回は僕も会議に参加して、ルマンダさんを通してではなく、誠意を見せる意味も込めて僕が直接話をする。


「……はい。お聞き致します」

ブランさんは息をのんだ後、返事をする。


「正直に話すと、ブラン商会に声を掛けたのは魔国との貿易に力をいれたいからだけじゃないんだ。ある噂を耳にして、それが本当なら僕の願いを叶えてくれると思って城に呼びました。騙すようなことをしたことを謝ります。ただ、見せていただいた商品を高く評価したことに嘘はありません」


「あ、頭を上げてください。まずは、その噂というのをお聞かせ頂けますでしょうか?」

ブランさんは頭を下げる僕を見て慌てるが、その場の空気に流されて許すということはなく、状況確認を確認する為の質問をする。


「どんな病気や呪いでさえも一瞬で治す薬を探していて、ブラン商会では見つけさえすれば培養が出来るという噂です」

明人から聞いたことを噂ということにして説明する。


「………………ああ、確かにそのような話を口にしていたかもしれません。しかし、私の覚えている限りではお酒を飲みながら話していたことに過ぎません」

ブランさんは僕の言ったことにぴんときていない様子で考えた後、思い出したかのように答える。


「つまり、酒の席での話であり、実際には培養を考えていないということですか?」


「可能であれば培養したいとは思いますが、私どものような一介の商人が手に入れられるものではありません。それにリスクが大き過ぎます。そうなればいいという願望が酒の力もあり口から漏れてしまっていただけです」


「その薬は霊峰の秘薬のことだと思いますが、秘薬であれば僕が一つだけ持っています。製法が秘匿されているエクスポーションを生成する魔導具を作れたように、秘薬を生成する魔導具を作ることは出来ませんか?」


「…………この場で答えを出すには大き過ぎる事柄になりますので、少しお時間を頂くことは可能でしょうか?魔導具開発を担当している副会長と相談させてください」

ブランさんはこの場で結論を出すことを拒む。


「もちろんです。それでは、いくつか話だけしておきます。まず、断ったとしても無理矢理言うことを聞かせるつもりはないです。店舗を取り上げるつもりもありませんので、今日の話はなかったこととして今まで通りの取引をしたいと考えています」

大前提として、断っても悪い扱いはしないと断言しておく。


「次に秘薬の生成を引き受けてくれた場合についてです。秘薬の生成が叶えば莫大な利益が見込めます。売り上げから材料費や人件費などを引いた純利益の内五割をブラン商会が、残りの五割は霊峰の秘薬を提供したとして国が頂きます。この辺りはもう少し交渉は可能ですが、大きくは変わらないと考えてください」

あらかじめルマンダさんと決めていた話をする。


「……お持ちの秘薬を提供していただけなければ魔導具開発に取りかかれないわけではありますが、こちらの取り分が五割というのは少ないと感じています」

こちらが霊峰の秘薬を提供することに起因するとしても、霊峰の秘薬の利益に対しては五割の税が掛かるというのは、足元を見られていると思われても仕方のないことだ。


「お気持ちはわかります。それについても説明します。まず、魔導具の開発に掛かる費用に関しては国の事業として、人件費を含め全て国が持ちます。例え開発出来なかったとしても、ブラン商会の損益はありません」


「必ずしもうまく行くわけではありませんので、それ商会にとって魅力的な話です」


「次に、護衛についての話です。霊峰の秘薬という誰もが喉から手が出るほどに欲しいと感じる商品を扱えば、店主を殺してでも欲しいと考える人もいるでしょう。それは個人だけでなく、王国や帝国、魔国といった組織を相手にすることになるかもしれません。殺しはしなくても、拉致して奴隷のような扱いをして無理矢理作らされ続ける可能性が考えられます」


「マ王陛下の仰る通りです。私もそれを危惧しております。答えを後日とさせていただきたかった理由でもありました」


「ブラン商会が霊峰の秘薬を生成することによって危害が及ばないように、霊峰の秘薬の出所は秘匿し、全て国を介して販売する予定です。国の事業としてしまうわけです。ブラン商会の店に並べる際にも、国の商品を代理で扱っていることにすればリスクは軽減されると思います。また、そうした危機に対する費用は国の事業として行うのですから、当然国が支払うことになります。ブラン商会に費用を請求することはありません。それも含めての五割という割合を提示しました。他にも、安全に商売をする為に不安に思うことがあれば対応を考えます」


「マ王陛下のお考えは理解しました。仰って頂いたことを考慮し検討させてください」

こちらが出せる最大の提案をしたわけだけど、それでもやはり即決というわけにはいかないようだ。


「お待ちしてます。それから、国の発展の為にも霊峰の秘薬の販売という答えを聞けることが一番ですが、販売はしないという結論だとしても僕の願いを叶えるために霊峰の秘薬を五十個程手に入れたいです。販売をしないので利益はありませんが報酬は払いますので、そちらも検討お願いします」

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