第71話 専属契約

くだんの商隊がルシフェル国に入ったと連絡が入りました」


委員長と明人達と合流し、情報交換をしながらこれからの計画をたてていると、ルマンダさんから報告を受ける。


「ありがとう。怪しまれないように城に呼んでもらえるかな?僕が個人的に会いにいくのはやめたほうがいいんだよね?」


「はい。王が突然訪ねてくるのは正直迷惑であり、王だと隠して接触することは後々の不信感に繋がります。また、秘薬を作ることが出来るのであれば、ルシフェル国にとって大きな利益となりますので、国として対応したく思います」


「そうだね。それじゃあ手配の方は任せるけど、くれぐれも手荒な真似はしないようにね」


「承知しております」



三日後、商隊を率いていた三人のうちの一人が城にやってくる。


「おもてをあげよ。発言を許可する」

王の間にて、片膝をつき頭を下げる商人にルマンダさんが言う。


「この度は数ある商会の中から私どもブラン商会にお声がけ頂き感謝致します。わたくしは会長のブランと申します。マ王陛下とは末永いお付き合いをしたく思っておりますゆえ、なんなりとおっしゃってください」

ブランさんが言うが、内心はわからない。

大金を掴みたいと思っているのであれば、王との会談というのは大きなチャンスではあるが、堅実に稼ごうとしているのであれば、迷惑でしかない。


「悪意は感じないのじゃ」

ブランさんからは見えないように、王座の後ろにいるオボロが教えてくれる。


「任せます」

僕はルマンダさんに小声で伝える。


「陛下は魔国との貿易に力を入れたいとおっしゃっている。その足がかりとして此度は魔族である其方を城に招き、対等な取引を望んでいらっしゃる。早速になるが、取り扱っている商品を見せてもらえるか?」

ルマンダさんがブランさんに伝える。


「はい。その前にこちらをマ王陛下に献上させて頂きたく思います」

ブランさんが大きな木箱から小箱を取り出し、こちらに差し出す。


兵士の一人が受け取り、ルマンダさんのところに持ってくる。


「開けさせていただいてもよろしいですか?」

ルマンダさんに聞かれる。


「お願いします」

小声で返事をする。

中身が危険なものでないことは、オボロが動かない時点でわかっているが、形式上必要なことだ。


「これは……宝石ですかな」

ルマンダさんが小箱に入っていた小さな石を見てブランさんに確認する。


「魔封石なのじゃ。貴重なものなのじゃ」


「魔封石ですね」

オボロから聞いた情報を、あたかも僕が博識であるかのように答える。


「陛下のおっしゃるとおり、そちらは魔封石になります。邪を払う魔導具を作成するのに必須な鉱石です。お納めください」


「親交の証として受け取らせてもらいます」


「それでは、私共が取り扱っている商品を並べさせていただきます」

ブランさんがまずは長い机を立てて、その上に木箱から取り出した商品を並べていく。

そのほとんどは瓶に入った薬品だ。


「まずこちら、エクスポーションになります。大銀貨五枚で販売しております。次にこちら、マジックポーションになります。こちらは大銀貨ニ枚になります。次に…」


「待たれよ」

説明の途中でルマンダさんが待ったをかける。


「どうかしたの?」

止めた理由がわからない僕は、ルマンダさんに尋ねる。


「安すぎます。本当にエクスポーションであれば、金貨一枚程度が相場です。質が悪くとも大銀貨八枚はします。マジックポーションも同様に相場からかけ離れています」


「嘘を言っているようには聞こえないのじゃ」

ルマンダさんから答えを聞くが、オボロからは問題ないと言われる。

あれがエクスポーションとマジックポーションだと、少なくともブランさんは思っているということだ。


「随分と安いですが、こちらは対等な取引を望んでいます。気遣いは不要です」

例え偽物だろうと、今回の本当の目的は別にあるので、相手にその気がないなら追求する気はない。

ただ、安すぎる金額で買うのは権力で脅しているようなものなので、僕の気持ち的なこともだけど、今後もお付き合いをしていくことを考えると遠慮したい。


「良い物を安くがブラン商会のモットーです。この価格でも十分な利益がとれております。後ほどきちんと説明をする予定ではいましたが、これらの商品は仕入れたのではなく、私共の商会で作ったものになります。材料費と運搬費以外に費用が掛かっていないからこそ、この価格でお売り出来るのです」


「優秀な錬金術を使える方が商会にいるということか?」

ルマンダさんが尋ねる。


「副会長である私の弟が魔導具を作り、魔導具を使いこれらの商品を作っております」


「エクスポーションの錬金方法は利益を独占する為に秘匿されていたはず。魔導具を作る技術があったとしても、作れる物ではないのでは?」


「それにつきましては、今ここでお話しすることはできません。陛下相手だとしても、自らの手の内を全て明かすことは出来ません。ご容赦ください。また、悪に手を染めていないことはお約束致します」

話せない手の内というのが、霊峰の秘薬を複製出来るかもしれないやつだろうか。


「とりあえず、買えるだけ買って。安過ぎるってことなら損はないと思うし、信頼関係を作るのを最優先で」

ルマンダさんに小声で伝える。


「それでは、それにつきましては話していただけますようこちらも誠意を見せることにしましょう。中断しましたが、残りの商品の説明を」


「はい。こちらはハイポーションになります────」

ブランさんから残りの商品について説明を聞く。


「これだけ希少なものばかりを安価で売っているのに、なんで会長自らが行商する程度の商会なのかな?」

ルマンダさんに気になったことを小声できく。


やっぱり安くしすぎてあまり利益がないのだろうか。


「失礼だが、ブラン商会の名をこれまで聞いたことがない。これだけの品をこの価格で販売していればすぐに私の耳に入ってくるはず。問題なければ理由をお答えいただきたい」


「立ち上げたばかりの商会だからです。仲間を集め、準備を整え、やっと動き出すことがかないました。商会を売り込むために帝都に向かう途中でしたので、まだ名を知らないのは当然です」


「専属契約を結ぶことを勧めます」

ルマンダさんから小声で言われる。

最終的な決定権は僕にあるので、その確認だ。


「可能な限りの待遇で。霊峰の秘薬を量産出来ればブラン商会にとっても大きな利益になるはずだけど、タイミングを誤って逃げられないようにして」

ルマンダさんに答える。

霊峰の秘薬を抜きにしても、大きな利益をもたらせてくれそうだ。


「陛下は其方達ブラン商会を高く評価しておられ、専属契約を結びたいとおっしゃっておられる。詳しい条件に関してはこの後別室で詰めることになるが、最大限の待遇を約束する」


「…………大変ありがたい話ではあるのですが、既に帝都にて土地を確保し、店舗の建設に取り掛かっておりますゆえ、ご容赦ください」

王の前でも意見を言えるのはさすが商人と言ったところか。

オボロが何も言わないから舐められているというわけでもないし……。


「土地と店舗は無償で提供。準備している土地と店舗に掛かった費用もこちらで負担でいいんじゃないかな?」

ルマンダさんに伝える。


「陛下は最大限の待遇をお約束されている。帝都にて開店するにあたり既に掛かった費用は補填し、ルシフェル国内であれば土地と店舗を無償で提供すると仰っている。陛下はそれだけの価値がブラン商会にあるとお考えであるとご理解ください」


「……わかりました。そこまで仰って頂いてこのまま帰るわけにはいきません」


「それでは場所を移して詳細を詰めさせていただきます」

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