第70話 再会

「マオ様、ご友人をお連れしました」

ネフィリムさんが帝国に帰り、話をつけて戻ってくるまでの間、委員長からクラスメイトの状況やこれからのことについて話していると、フェレスさんが帰ってきた。


戻る最中に本当に隷属されていないのかはフェレスさんが確認してくれることになっているので、委員長の時とは違いそのまま僕の部屋に案内してもらった。


「ありがとう。長旅に疲れたと思うから、フェレスさんは下がっていいよ。また何かあったら頼むからよろしくね」


「わかりました。研究室にいますので何かあれば声を掛けてください」


フェレスさんと入れ替わりで明人達が部屋に入ってくる。


「移動中に話は聞いたが、何はともあれ無事で安心した。委員長もここにいることに驚きだが、元気そうで良かった」


「明人も無事で良かった。疲れてるでしょ?適当に座って。橋本さんと宮本さんもね」

僕の方に近付いて話をする明人と違って、扉の前でどうしたらいいのかわからず立ったままの橋本さんと宮本さんに楽にしていいと声を掛けて、委員長が座っている椅子の横に座ってもらう。


「しかし、こんな立派な城の主になってるとは驚きだな。そっちの魔族の女の子と、俺をずっと睨んでる狐を紹介してくれるか?」


「こっちの女の子はシトリー。僕専属の使用人ってことになってるけど、こっちの世界で出来た一番信頼出来る友人だよ」


「マオ様よりお話は伺っています。何かお困りごとがあれば遠慮なく仰ってください」

シトリーが挨拶をする。


「この子はオボロ、あっちのカゴで丸まってるのがユメで、こっちがクロとシロ、それからこの子がピュアで、いつも僕のフードに入っているのがクルミ、扉の外で番をしてくれていたのがシンクだよ」

みんなを明人に紹介する。


「よろしくな。痛っ」

明人がオボロの頭を撫でようとして、尻尾ではたかれる。


「妾を撫でていいのは主だけなのじゃ」

オボロが言うけど、シトリーに気を許しているのを僕は知っている。

ご飯をもらっているからだろうか。


「初対面で警戒しているだけだから気を悪くしないでね」


「ああ、馴れ馴れし過ぎたな。それにしても、モフモフに囲まれて夢が叶ったみたいだな」


「クルミ以外は魔物なんだけどね」


「そうなのか。まあ、襲ってこないなら魔物だろうと動物だろうと俺はどっちでもいいな。挨拶はこのくらいにして、これからのことを話そうぜ。城の様子は委員長から聞いているだろうが、俺達の方でも真偽は確かではないが情報は手に入れてきた。隷属の術式を解く方法だ」


「ちょうどそのことで頭を悩ませていたんだよ。隷属されたみんなを無事に救出する方法と、帰還方法を探さないといけなかったんだけど、明人が片方を見つけてくれたんだね」


「噂の域を出ていないけどな。魔国の酒場で仕事をしていた時に商人らしき男達が話していたんだが、どんな病気でも一瞬で治る薬があるそうで、その薬は病気だけでなく、石化や呪いなんかにも効果があるらしいんだ」


「霊峰の秘薬のことかな。誰が作ってるのかわからなくて、買いに行く事が出来ないんだよね」


「なんだ知ってたのか。一つあれば培養して増やせるのにとその商人が言ってたが、その一つが見つからないようなことを言っていたな」


「え!?増やせるの?」


「酒場で話していたことが聞こえてきて耳を澄ませていただけだから本当かどうかはわからないが、確かに言っていた。だが、それが本当だろうと、その一つが見つからないんだからどうしようもないだろ」


「一つだけなら持ってるんだ。追放された時に盗んだみたいで」


「マジか」


「それじゃあその商人の人に増やして貰えば問題は解決しそうだね。酒場にいたんだよね。魔国に行けば会えるのかな?」


「魔族のようには見えたが、それ以外はなにもわからないな。商人らしいっていうのも、商売の話をしていたからそう思っただけで、商人ですらないかもしれない。働いていた酒場で待ってれば会える可能性はあるが、顔を見てわかるかどうか……。せめて名前がわかれば探せるんだけどな、すまない」


「見つかるかはわからないけど、ユメに聞いてみるのがいいかな。明人達もユメの力で見つけたんだよ。ユメ、こっちに来てくれる?」

ユメに頼ってばかりだけど、ユメ以上に人探しに適したひとはいないので、今回も頼らせてもらう。


「話は聞こえてたにゃ。商人を見つければいいにゃ?」


「うん、明人が見たっていう秘薬を培養出来るっていう商人っぽい人に会いたいんだ。なんとか出来ないかな?」

僕の膝で仰向けに寝転んだユメのお腹を撫でつつ、明人が言ったことはユメは理解出来ていないはずなので、補足を入れつつ頼む。


「やってみるにゃ」

ユメがいつものように後ろ足で立ち上がり、前足の肉球を合わせてドリームのスキルを発動させると、以前に王国の城の様子を映してくれたように、壁に映像が映し出される。


映像には3人の男性がおり、2人には角が生えているのが確認出来ることから魔族と思われる。

背景はどこかの街道沿いで、遠くに山と川もしくは湖らしきものが見える。


目立つ建物等が見えず、ここがどこかわからないまま映像は消える。


「ありがとう」

定位置となっているカゴには戻らず、僕の膝の上で丸まったユメを撫でてお礼を言う。


「なあ、一応確認なんだが、猫と話せるようになったのか?」

明人に聞かれる。


「うん、オボロとシンクとも話せるよ。オボロは人の言葉は話せないけど、人の言葉を理解出来るから、明人が何を言っているのか理解はしてるよ。他の猫や犬とも話は出来るけど、この子達が嫉妬するからあんまり話はしないかな。さっき映った男の人達が言っていた人達で合ってる?」


「そうだと思う。あの街道だが、ここにくる時に通った道に似ている気がする。もしかしたらここを通るかもしれないな」


「どのあたりかわかる?」

机の上に地図を広げる。


「見えた川がこの川なら、この辺りかな」

明人がギリギリ魔国内のそろそろルシフェル国の領土に入る辺りを指差す。


ルシフェル国は魔国と接してはいるけど、魔国の中心部からは離れており、接しているといっても地図上ではという話だ。


「目的地はここか帝国のどちらかの可能性が高いってことだね。帝国に行くにしても補給の為にこの国に立ち寄る可能性はあるね。入国税を払わないように遠回りする可能性はあるけど……」

マ王という名前が広まってから、魔族の行商人が訪れることが増えてきている。

目的地ではなくても立ち寄ってくれる可能性はあるけど、遠回りすればルシフェル国に入国税を払わずに帝国領に直接入れるので、利益を考える商人がどちらを選ぶかはわからない。


「王国に行くならこの道は通らないだろうから、俺の勘違いでなく、この道を通っているなら待ってれば向こうから来てくれるだろうな。都市部から離れてはいたが、魔国でのルシフェル国の評判は悪くなかった。わざわざ遠回りはしないだろうな。入国税より遠回りする為の物資と時間の方が痛手だ」


「それじゃあこの国に着いたら知らせが来るように手配しておかないとね。悪いけど、絵師の人を呼んできてもらえる?

シトリーに頼む。


「はい、呼んできます」



「オボロ、さっきの男の人に化けてくれる?」


「任せるのじゃ」

緊張しながら絵師が部屋に入ってきたところで、オボロに化けてもらい、それを見本として似顔絵を描いてもらう。



「ありがとう。下がっていいよ」

3人分描き終えたところで絵師の方には退出してもらい、描いてもらった似顔絵を持ってルマンダさんのところへと行く。


「霊峰の秘薬を培養出来るかもしれない人が、ここに向かっている可能性があります。この人達が入国したら城まで来るように手配をお願いします。ユメのスキルで調べた結果、今この辺りにいると思われるので、早ければ3日後には到着しそうです」


「わかりました。関所の者に周知させておきます」

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