第69話 明人

竹原明人視点


委員長が騒ぎを起こしている間に橋本さんと宮本さんと一緒に王城から逃げ出した。


まずは最低限のお金を稼ぎ、クラスのみんなを助ける為に情報を集めないといけない。


橋本さんと宮本さんと一緒に逃げてきたので、生活基盤をつくる事を優先するが、個人的には今すぐにでも真央を探しにいきたい。



王城の近くに留まったほうが情報は集まるかもしれないが、とりあえず逃げる為に王都の端まで移動する。

本当は王都から出てしまいたいが、王都から出るだけの資金が足りていないので、王都でお金を稼ぐしかなかった。


目立つわけにはいかなかった為、この世界の人よりも優れているという特殊な力には頼らず、酒場で宮本さんと橋本さんは接客、俺は皿洗いをしてお金を貯めた。


酒場の店主が良い人で、雇ってもらった時に説明されたまかないだけでなく、寝るところがないのならと空いている部屋まで貸してくれたおかげで、思っていたよりも早く王都を出ることの出来るだけのお金が貯まった。


初めに決めた金額よりも多く貯まったので、ある程度余裕をもって行動が出来るようになった。

酒場のおやっさんには感謝しかない。


「王都からは出るわけだが、王国に残るか、帝国に行くか、魔国に行くか、どれがいいと思う?」

宮本さんと橋本さんに行き先の相談をする。


新たに建国されたルシフェル国は選択肢に入れていない。

内乱の準備をしているところに横槍を入れて建国する人物は良くも悪くも特殊すぎる。


仮に謁見が叶い、協力を頼むことが出来たとしても、それが決定的に状況を悪くする可能性がある。


劇的に状況が良くなる可能性もあるが、ルシフェル国に行くのは早計だ。


「行くのは少し怖いけど、やっぱり魔国にいくのがいいと私は思うな。魔国に帰還のゲートが本当にある可能性は高くないと思うけど、魔国と戦う為に呼ばれたのだから、何か元の世界に帰るヒントがあるなら魔国だと思う」

橋本さんが魔国に行く事を推す。


「私も魔国に行くのがいいと思う。それに、魔族の人達は最初に城で聞いたような人達じゃないと思う。城の人は私達に戦わせるためにわざと悪く言っていたんじゃないかな。本当に悪い人達だったら、もっと酒場で飲んでいた人達が悪く言っていると思う。どちらかというと、お客さんはこの国の貴族達のことを悪く言ってたよ」

宮本さんも魔国に行くことを推す。


宮本さんの言うとおり、城で聞いた事を無しで考えると、魔族の印象は決して悪くはない。

魔族を迫害している人を見ることは幾度かあったが、魔族が害をなしていることを見た記憶はない。


「俺も魔国がいいと思っていた。魔国に行って、信用出来る人に俺達のことを話して協力を頼むことにしよう」



長距離を移動し魔国に入る。


魔国に近付くにつれて魔族を見かけることが多くなり、魔国に入ってからはツノが生えていない人を見る方が珍しくなった。



魔国に入ってから、王国の酒場で働いていたことをアピールしてまた酒場で働かせてもらう。


酒場では色々な話が飛びかっている。

全てが真実とは限らないが、この世界のことを知るにはもってこいの職場だ。


お客さん達の話題として1番多いのは、やはりルシフェル国のことだ。


ルシフェル国の王は魔王というらしいが、魔族の人達にとって魔王というのはただのマという名前であり、それ以外の意味はないそうだ。


ただ、マという名前は魔族に多く人族には珍しいそうなので、ルシフェル国の王は実は魔族又は、魔族と親しい人物なのではと噂になっている。


魔王の体長は5メートルを超え、口から火炎を吹くという噂も流れているが、多分こちらはガセだと思う。


それから、王国で召喚が行われたことは魔国まで伝わっていた。

何故か召喚された者が化け物のような力を持っていることになっていたが、鍛錬すれば本当にそれほどの力を俺も得ることになるのか、意図的に流されたガセ情報なのかはわからない。



色々な情報を耳にする機会には恵まれてはいたが、決定的な情報は手に入らず、自分が王国で召喚されたと明かせるような存在とも出会えぬまま時間だけが過ぎていき、このまま酒場にいても事態は好転せず、何か策を考えないといけないと頭を悩ませている時、男に声を掛けられる。


「少し話を聞いてもよろしいか?」

声を掛けてきた男はローブのフードを深く被っており、あからさまに怪しい。


「はい……。なんでしょうか?」

お客であることには変わりなく、ツノが折れている等の理由からフードを被ったまま酒を飲む人もいることは知っているので、怪しいと思いながらも返事をする。


「アキトという人族がどこにいるか知っているか?」

自分の名前を呼ばれて心臓がドキッと跳ねる。


「知っているようだな。……いや、アキト本人だな」

ビクッとしてしまったことで、相手に俺が明人だとバレてしまう。


「……確かに俺が明人だが、あんたは何者だ?」

バレた以上認めないのは悪手だと判断して本人だと認め、相手の素性を聞く。


「私はフェレス。ルシフェル国でマ王陛下の相談役をしながら、魔法の研究をしている者です」

王国からの追手ではないことには安心するが、色々な噂が飛び交うルシフェル国の人間だというのは警戒を緩めることができない。


「ルシフェル国の研究者様が俺に何のようですか?」

宮本さんと橋本さんの存在までバレているのかわからないので、とりあえず2人の存在は明かさずに用を聞く。


「マ王陛下が御三方をお探しになられています。ルシフェル国までご案内致しますので、荷物をまとめてください」

宮本さんと橋本さんの存在はバレているようだ。

噂の魔王が何故俺達を探すのか。

異世界人の力を利用しようとしているということだろうか。


「探している理由を聞いてもいいですか?」


「私は詳しくありませんが、マ王陛下はアキト殿のことをいたく心配されていました。古くからのご友人だと聞いています」


「…………ルシフェル国の王は真央なのか?」


「今はマ王と名乗っています」


「真央は無事なのか?怪我はしてないか?」

死ぬようなところに飛ばされたのはわかっている。

やはり生きてはいるようだが、大怪我をしていないか心配だ。


「安心してください。マ王陛下にお怪我はありません」


「そうですか。よかったです。ルシフェル国にとのことですが、急に仕事を辞めるわけにもいかないので、少し待っていただけますか?」

真央が俺達を見つけてくれたからと、急に仕事を放り出すわけにはいかない。

魔国についてから長いことお世話になったのだから。


「すぐにでもお連れしたいので、店主と話をさせてもらえますか?」


「……わかりました」



フェレスという人が店主にお金を渡したことで、俺達はその日を最後に酒場での仕事を辞めることになった。


「ルシフェル国まではしばらく掛かります。窮屈な思いをさせますが長旅にお付き合いください」


全く狭くない豪華な馬車に乗せられ、真央の待つルシフェル国に向けて出発した。

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