第68話 委員長
委員長視点
意味があるのかわからない訓練を続けていたある日、ダンジョンから出たところで兵士長に私だけ残るように言われる。
遂に私だけ洗脳されていないことがバレてしまったのかと、いつでも逃げれるように周りに注意を向けながら話を聞く。
「聖女様には王国の使者として、新しく建国されたルシフェル国に行っていただくことになった。出発は3日後の朝、馬車や荷物など必要な物はこちらで用意する」
とりあえず洗脳されていないことがバレていたわけではないことに安堵するが、なぜ私が行かなければならないのだろうか?
「用件はわかりましたが、何故私が行かなければならないのですか?」
洗脳されたクラスメイトを残して城を離れたくはない。
「これは王命です。断ることは許されません。先程使者としてと言いましたが、聖女様にはルシフェル国に滞在し、ルシフェル国の偵察をしていただきます。表向きには友好関係を築く為となっていますので、聖女という肩書きを持ったあなたが選ばれました」
友好を結ぶ為の使者を演じて、他国にスパイとして潜り込めということか。
やりたくはないが、断ることは出来ないのだろう。
ただ、ルシフェル国がどんなところかわからないけど、助けを求めることが出来るかもしれない。
「わかりました」
「優秀な兵士を3人同行させる。道中魔物に襲われても安心していい」
護衛兼監視役だろう。
「わかりました」
3日後、予定通りルシフェル国を目指して出発することになった。
兵士の1人に宰相があの黒い球を渡しているのを目にしている。
兵士達を説得して味方になってもらうのが難しくなっただけでなく、洗脳されていないことがバレないようにあの兵士の言葉には特に注意を払っておかなければならない。
洗脳されていないと気付かれないままルシフェル国に到着する。
兵士の言うことは全て素直に聞いていたけど、多分、洗脳して無理矢理言うことを聞かせようとはしていなかったと思う。
建造中ではあるのに、王国の城よりも既に立派な城へと向かい、門兵に王国の使者であることを伝える。
「暫し待たれよ」
門兵は駆け足で城の中へと消えていき、少し待った後城の中へと通されることになった。
待合室というには豪華な部屋でしばらく待っていると、
初老の男性が部屋に入ってくる。
話したことはないけど、この人のことは知っている。
ルシフェル国がここに建国されたきっかけを作った人物であるルマンダ元侯爵だ。
「これはこれは聖女様、ようこそおいで下さいました。ルシフェル国宰相ルマンダと申します。王国の使者とは聖女様でよろしいでしょうか?」
ルマンダさんは兵士達を見てから確認する。
「はい、私が使者として派遣されました」
「謁見の準備は整っておりますが、他国の兵士を王の御前に立たせるわけにはいきません。お三方はここでお待ちいただけますか。私どもが信用ならないという話であれば、ここで私に用件を伝えてくださっても構いません」
「わかりました。1人で行ってきますので謁見を終えるまで待っていてください」
ルシフェル国の人がどんな人か知らないけど、王国の兵士がいないとろこで話が出来るのは都合がいい。
兵士達が答える前に私は返事をする。
「それでは聖女様のみ案内致します。付いてきてくたさい」
ルマンダさんに付いていき、王の間へと入る。
王の間には兵士が左右に並んでおり、王座の左横に女の子が立っている。
あの頭に生えている角……あれが魔族だろうか。
「マ王様を呼んでまいります。そこでお待ちください」
ルマンダさんに言われ、王座の前に膝をつき、頭を下げて魔王?が来るのを待つことにする。
「おもてをあげよ」
ルマンダさんの声を聞いて顔を上げると、石川君が王座に座っていた。
──────────────
カゲさんがうまくやってくれたおかげで、委員長が王国の使者として来ることになった。
兵士が3人同行しており、僕の顔を覚えている可能性がある為、まずはルマンダさんに委員長1人で謁見するように話をしに行ってもらう。
少し待っているとルマンダさんが戻ってきて、委員長1人だけと謁見することになったことを聞く。
王座に座り、ルマンダさんに目で合図を送る。
「おもてをあげよ」
「……石川君?」
顔を上げた委員長は僕を見て驚き、名前を呟く。
「王国の使者殿。発言を許します」
委員長の驚きは無視され、ルマンダさんは王国の使者としての扱いをする。
これは形式上必要なことだ。
「……グラングル王国、デルキア陛下より書状を預かっております」
委員長は王国の王印で封された封筒を取り出し、受け取りに向かった兵士に渡す。
「拝見致します」
兵士から書状を受け取ったルマンダさんは、僕の許可を得てから封を開け、中身を確認する。
委員長が洗脳されていないというのが勘違いの可能性もあるし、考えたくはないけどカゲさんが裏切って罠を仕掛けた可能性もゼロではないので、念の為に先にルマンダさんが開けた。
「ルシフェル国と友好関係を深める為に、使者殿達を滞在させてほしいとの内容です。密に連絡を取り合えるようこちらからも王国に人員を送ってほしいとも書かれています。表向きは連絡を取り合う為とありますが、有事の際の人質としての意味も含まれていると思われます」
ルマンダさんから書状の内容を聞く。
予定していた通りの内容だ。
「予定通りに進めて大丈夫です」
ルマンダさんに耳打ちする。
「使者殿の滞在は許可します。しかし、別室に待たせている兵士の滞在は認められません。マ王様は他国の兵を受け入れるほどの関係にはまだないと判断されました。こちらから送る人員については私の責任とし、選任が終え次第向かわせることとする」
ルマンダさんが決めていたセリフを言う。
「カルロ」
「はっ!」
ルマンダさんに名前を呼ばれて、兵士のカルロさんが返事をする。
「応接室にてお待ちいただいているお三方への説明を任せます。友好関係を深める為に使者殿を寄越されたのですから、使者殿の護衛はルシフェル国の者が行っても問題ないと説明すればご納得頂けるでしょう。これも友好関係を深める第一歩となります。ご納得頂けなければ友好関係を深めるという話自体が疑わしくなりますので、あなたの判断で拘束して構いません。もちろん、こちらから送る使者の護衛もグラングル王国の者で構わないと必要であれば伝えてください」
「かしこまりました」
カルロさんが返事をして王の間を出て行く。
「さて、使者殿にはルシフェル国に滞在してもらうにあたり、まずは城の中の案内を致します。その間に寝泊まりする部屋の用意を致します。女性同士の方が落ち着かれますでしょうから、案内はシトリーに任せます」
ルマンダさんに名前を言われて、シトリーがお辞儀をする。
「お気遣いありがとうございます」
困惑した様子の委員長が礼を言い、謁見は終わりとなる。
僕は自室へと戻り、少し待っているとシトリーと委員長が入ってきた。
「さっきは驚かせてごめんね。久しぶり。元気にしてた?」
「なんとかね。石川君が生きてて良かったと思っているけど、どうして建国して王様になっているのか聞いてもいい?」
「もちろん説明するつもりだけど、その前に確認しないといけないことがあるんだ。大丈夫だと思ってはいるけど、手荒なことをすることになるかもしれないから先に謝っておくね」
「……何をする気?この子達は?」
シンクとオボロが逃げ道を塞ぐかのように委員長の背後に陣取り、シトリーが僕と委員長の間に移動する。
「その指輪を外してもらえる?」
委員長が隷属されているのか確認しないといけない。
委員長は聖女で特別らしいけど、たとえ指輪の力で暴れることになってもシトリー、シンク、オボロが囲んでいれば抑えられるだろう。
「……なんだ。大丈夫よ。私は洗脳されてないわ」
委員長はホッとした様子で答え、指輪を外して見せる。
「良かった。もし拒否して暴れるようなら、その指を切断することになってたから、そうならなくて良かったよ」
「手荒な事って、そんなことしようとしてたの?」
「隷属を解くには、まず体から術式の媒体となっている物を切り離さないといけないんだよ。ユメのスキルで指はくっ付ける予定ではいたけど、そんなことしたくはないからね。あ、ユメっていうのはあそこで丸まっている子のことね」
委員長に僕のベッドの上で丸まって寝ているユメを紹介しつつ、やろうとしていたことを説明する。
「怖いことをやろうとしていたのはわかったけど、石川君はこの指輪の外し方を知ってるってこと?」
「うん。僕の知っている方法は3つあって、核のなっている球を壊すか、体から切り離してから解呪するか、霊峰の秘薬という薬を飲むかだね。術式の核は1つとは限らないみたいだから、確実なのは残りの2つだけど、霊峰の秘薬は1つしか持ってないんだ」
国王から盗んだ物の中に秘薬が1つ混じっていたけど、首に媒体が付いている等ら体から切り離すことが出来ない場合に使用する為に委員長に使う事は出来なかった。
「あまりやりたくはないけど、みんなの指を切り落としていけば指輪は外せるわけね」
「流石にそんな方法はとりたくないから、別の方法を考えている最中だよ。本当にどうしようもなくなったらその選択をしないといけなくなるけど……」
「元の世界に帰る方法は見つかってない?」
「役目を終えれば帰還出来るみたいだよ。その役目が何かはわからないけどね」
「竹原君達もここにいるの?石川君を探しに行くって言っていたけど」
「どこにいるのかわかったから、今迎えに行ってもらっているところだよ。数日もすれば到着すると思うよ」
「良かったわ。石川君もだけど、竹原君達もいきなり知らない世界に放り出されることになったから心配してたのよ」
「他のみんなのことも色々と聞きたいから、お茶でも飲みながらゆっくり話をしようか」
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