第74話 奇跡の素材

ブランさんから霊峰の秘薬の培養の協力を得られた翌日、さっそくブランさんに城に解析用の魔導具を持ち込んでもらう。


この魔導具の存在を知るのは、ブランさん側を除けば、あの時謁見の間にいた僕とルマンダさん、オボロにシトリーだけだ。

ブランさん達の安全も考えて、秘密裏に地下室へと運ぶ。


「これが霊峰の秘薬です。お願いします」

魔導具を開発したという、ブランさんの弟であるスケイルさんに秘薬を手渡す。

隣には末の弟だというガロンさんもいる。


「お任せください。最善を尽くします」

少し震えた手で秘薬を受け取ったスケイルさんは魔導具を起動させ、魔導具に秘薬を注ぐ。

全部は使わずに、まずは五分の一くらいを使って調べるようだ。


「解析が終わるまで早くとも一日は掛かります。進展がありましたらご報告致します」

ブランさんに言われる。

そんなことを実際に言ったわけではないが、要するに邪魔だということだろう。

貴族との対応も慣れていそうなブランさんに比べて、スケイルさんとガロンさんには緊張の色が見て取れる。


環境を整えて最大限の結果を出してもらう為、3人を残して地下室から出る。



霊峰の秘薬の培養が叶った後の計画を立てながら待ち続け、遂に秘薬の設計図が完成したとブランさんから報告が入る。


「設計図は完成しましたので、これから設計図を元に魔導具の開発を進めさせて頂くのですが、一つ大きな問題が発生しました」

ブランさんが心苦しそうな顔で話す。


「教えてください」


「霊峰の秘薬を生成するには、ガロンの知識には当てはまらない素材が必要だということがわかりました。ガロンは勉強家で覚えもよく、薬の素材となりえる素材については一通り記憶しています。加えて、場内の図書室を使わせて頂きましたが、素材の断定には至りませんでした」


「霊峰の秘薬の作り方はわかったけど、未知の素材が使われているから作るのは無理ってこと?」


「魔導具開発は失敗を繰り返して少しずつ完成に近付けていくものです。素材が判明しても秘薬が生成出来るかの確証はありませんが、現状では試してみることも出来ません」


「そっか…………」

なんでも治せる夢のような薬なのだから、未知の素材が使われていると言われても不思議ではない。


「ここからは確証のない話にはなりますが、いくつか秘薬の生成に必要な素材に心当たりはあります。しかし、どれも御伽話に出てくる都合のよい代物になりますので、実在している可能性すら薄いです」

ブランさんが浮かな表情のまま話す。


「このまま手をこまねくよりは良いでしょう。話してください」

お通夜のような空気を壊すようにルマンダさんが先を促す。


「はい。一つは世界樹の樹液です。次に、聖天使ミラルエ様の羽。それから、龍神王の涙。最後に七色の雫です。この四つに共通していえることは常識に当てはまらない力が秘められているということ。簡単に説明しますと、世界樹の樹液には死んだ者さえ蘇られる効果があり、聖天使ミラルエ様の羽には万物を創造する力、龍神王の涙を浴びた者は一度だけ死の淵から蘇り、七色の雫を飲んだ者は7回までなんでも願いを叶える力を得るそうです」


「確かにどれも御伽話として語られていたものでありますな。御伽話でも可能性を示していただけたのは良いことではありますが、そのような話を仰った理由をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


「御伽話の中には全てが空想ではなく、実際に過去に起きた史実が元となっているものもあります。事実として、聖天使ミラルエ様が実在していた形跡はあちこちに残されています。また、世界樹の樹液と聖天使ミラルエ様の羽につきましては少しではありますが情報を見つけました。世界樹は世界の中心にあるそうです。聖天使ミラルエ様の羽は、聖天使ミラルエ様が世界を終焉に導こうとした相手と対峙した際、羽をツルギとして相手に刺し込んだそうで、その体には消えることなく羽が刺さり続けているそうです」

ブランさんが根拠を説明する。

根拠と言っても、初めに可能性は薄いと言っていた通り、ブランさんの顔に自信の色はない。


しかし、世界樹については何も思い当たるところはないが、世界を終焉に導こうとしている者には心当たりがある。


「悩んでいても仕方ないので、ブランさんは他の物で代用出来ないか、他に可能性があるものがないか調べてもらえますか?霊峰の秘薬が実在している以上、不可能ということはないはずです。僕は今教えてもらった物が手に入らないか調べてみます」

ブランさんには引き続き霊峰の秘薬の開発を進めてもらい、僕は御伽話の代物を探しに行くことを決める。


「よろしくお願いします」

ブランさんは研究室へと戻っていく。



「そういうことで、僕は少しの間城を離れます。ルシフェル国のことをお願いします」


「かしこまりました」


「また付いてきてもらってもいいかな?」

黙って話を聞いてくれていたシトリーに確認する。


「もちろんです。どこまでもお仕えします」

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