第35話 成長

「マオ様、おはようございます」

城に引っ越した翌日、シトリーに起こされる。


「うん、おはよう」


「朝食を持ってきました」


「ありがとう、一緒に食べようか」

王様とか使用人とか気にせずにいつも通り一緒に食べることにする。


「はい」


「ん?」


「どうかしましたか?」


「いや、なんでもないよ」

いつもより味付けが濃い気がしたけど、調理場が変わったから使い勝手が違ったのだろう。

美味しいことに変わりはないし、作ってくれたことに感謝しているからわざわざそんなこと言わなくていいだろう。


「……気を使わずに正直に言ってください」

シトリーが持っていたフォークを置いて、真剣な目をして言った。


言って欲しいのであれば、言った方がいいのかな?


「いつもより味付けが濃いなって思っただけだよ。まだ城の調理場に慣れてないんでしょ?これも普通に美味しいし、気にしなくていいと思ったから言わなかっただけだよ」


「……いつもより美味しいと思ったわけではないんですか?」

シトリーが心配そうに聞く。


「違うよ。これももちろん美味しいけど、正直に言うなら屋敷で作ってくれてた時の方が僕は好きだったよ」

なんでそんなに心配そうなのかわからないけど、嘘をつくのもよくないと思ったので正直に答える。


「本当ですか!?」

シトリーが満面の笑顔になる。


「……もしかしてこれってシトリーが作ってない?」

いつものようにシトリーが作って持ってきてくれたと思っていたけど、よく考えたら城には他にも使用人がいるんだった。


「はい」

やっぱり。


「だからだね。いつもは僕に合わせてもっと薄味にしてくれてるもんね」

シトリーは僕の好みを把握してくれているので、僕に合わせて調理してくれている。


毎日作ってもらってるのに気づかなかったのは申し訳ないな。


「そう言ってくれて嬉しいです」


「シトリーが作ってくれてると思ったけど、どうしたの?まだ旅の疲れが残ってる?」


「いえ、私が起きた時には既に準備されていました。私が作らなくても食事の準備はされていて、掃除も他にする人がいます。専門の人が働いてますので、マオ様の温情で雇ってもらった私の仕事はありません」

シトリーは残念そうだ。


「そっか。なら、シトリーに仕事を頼んでいいかな?」


「なんでしょうか?」


「僕専属の使用人になってもらえるかな?城にたくさん働いている人はいるけど、僕のことを1番分かってくれているのはシトリーだからね。シトリーに身の回りのことをやってもらうのが僕は1番落ち着くと思うから、頼むよ」


「私でいいんですか?」


「シトリーにしか出来ないことだよ」


「ありがとうございます。何をすればいいですか?」


「今まで通りでいいよ。とりあえずご飯をこれからも一緒に食べようか。他の人は僕を王として扱うからね。間違ってはないんだけど、畏まられても僕としては寂しいだけだからね」


「そうですね、わかりました。マオ様を1人にはしません。1人は寂しいですからね」


「これからもよろしくね」

シトリーが専属の使用人になったところで、食事を再開する。


「シトリーはこの後、何をする予定なの?」


「訓練するつもりでいました」


「なら僕も一緒に行こうかな。ずっと見れてなかったから、シトリーの成長を見せてもらうね」

内乱を阻止する為に屋敷を離れていたし、戻ってからは引っ越しの準備やら、挨拶回りをしていたりと忙しかった。


移動中に馬車の中で瞑想みたいなことをしているのは見たけど、どれだけ戦えるようになったのかを僕は知らない。


朝食を食べ終わり、少しゆっくりした後にみんなで城を出てシトリーの訓練を見守る。


シトリーの訓練相手はシンクだ。

オボロがいなかったこともあり、ずっとシンクが相手をしていたようだ。


前はシンクがずっとシトリーの後ろを取っていた。

今回はどうだろうか……。


前は全く2人が何をしているのかがわからなかったけど、今回は少しだけ違う。


シンクは相変わらず速すぎてよく見えないけど、シトリーは今回は見える。

なぜ見えるのかというと、僕の目が良くなったからではなく、シトリーがその場から動いてないからだ。


ただ、ずっと空気の裂ける音が聞こえ、地面がどんどんと抉れていく。

そして、シトリーの腕が見えない。

ずっとブレている。


そして、訓練開始から15秒程してシトリーが倒れて、前にも見たようにシンクがシトリーのおでこに手を当てていた。


今回は何をやっていたのかは想像はつく。

そんなことが出来るのかと驚きはしているけど……。


「お疲れ様。何をしていたのか教えてもらってもいい?」

シンクを撫でながら、シトリーに聞く。


「シンクちゃんに接近戦を挑んでも、姿を見失っていつの間にか背後を取られてしまうので、今回は距離をとることにしました。これまでの訓練で、腕を振ることで風魔法のように真空波を出すことが出来るようになったので、シンクちゃんに近づかれないようにすることを重視して、隙が出来た時に攻めようと思っていたのですが、結局そんなチャンスが訪れることはなく、どんどんと距離を縮められてしまいました」


「そんなことが出来るようになってたんだね」


「これもマオ様のおかげです」


「シトリーが頑張ってるからだよ。この後はどうするの?」


「シンクちゃんとの模擬戦は1日に1回と決めましたので、ここからは自主訓練をやります。どうやればシンクちゃんに勝てるのかを考えるのも訓練の内です。マオ様は何か予定はないのですか?専属にしていただいたのですから、マオ様のご予定に合わせます。自主訓練はいつでも出来ますので」


「そうだね……。それじゃあ街を見にいこうか。自分の国がどんな所か全然知らないから、買い物でもしながらね」


「わかりました。お供します」


「僕は部屋で待ってるから、汗を流して着替えたら呼びにきてね


「マオ様を待たせるわけにはいかないです。私はこのままでも大丈夫ですよ」


「僕も部屋で少しやることがあるから気にせずゆっくりしてきて。それに今は使用人の格好をしているでしょ?僕は王として街に行きたいわけではないから、目立たない格好に着替えてきてね」


「わかりました。準備してきます」

シトリーはギリギリ見えるくらいの速さで走っていった。

ゆっくりしてきてって言ったのに。


「ご主人様は部屋で何かやることがあるにゃ?」

断片的に話を聞いていたはずのユメに聞かれる。


「ないよ。シトリーが気を使わないように部屋でやることがあるって言っただけだよ。みんなでごろごろしようか」


「ご主人様は本当に王になったにゃ?」

王らしくないということだろう。


「なったよ。形だけね」

王になったからといって、今までと違う対応をする必要はないだろう。

王として振る舞わないといけない時もあるとは思うけど、シトリーに対しては今まで通りでいいはずだ。


みんなと話しながらゆっくり歩いて部屋に戻ったら、すぐにシトリーが部屋にやってきた。


部屋に戻らずに外で待ってれば良かったかな……。

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