第36話 視察① 冒険者ギルド

シトリーとヘルキアという城下街となった街へと出かける。


いつものようにクルミが僕のフードに潜り込んではいるけど、他のみんなには留守番してもらっている。


オボロが街の人を飲み込んだという話は広まっており、オボロ以外でも、動物や魔物を連れていると目立つという話を聞いているからだ。


なので、付いてきたがっていたみんなに我慢するように言って、シトリーと2人で街に来ている。


クルミはフードの中にいて、周りの人達からは見えないので、気にしなくていいだろう。


「どこに行くかご予定はありますか?」


「特には考えてないよ。適当に店を見るのと、冒険者ギルドと商業ギルドには行こうかな。この街でどんな依頼が出ているのかとか、どういうものが売り買いされているのかがわかるからね」


「わかりました」


「それから、路地裏の方とかにも行こうか」


「何しに行くんですか?」


「スラムがあるのかの確認だよ。食べるのに困っている孤児がいるかもしれないから、いたら生活支援をしよう。この街に孤児院があるのかも知りたいね」


「わかりました。やはりマオ様は優しいですね」


「そんなことないよ。たまたま支援出来る立場にいて、支援出来るお金を持っているからそう考えられるだけで、自分の身を削ってでも同じことを出来るかと言われたら、出来るとは言えないよ」

世の中には自分の身を削ってでも他人を思いやることの出来る人もいる。

本当に優しい人というのはそういう人のことだ。


「私はマオ様の優しさに救われたから今ここにいますよ」


「ありがとう。……面と向かって言われると恥ずかしいからこの話は終わり。行こうか」


「はい」


シトリーと散歩をする感じで街を見て回る。


「売ってる物はそんなに変わらないけど、全体的に物価が高いね。活気がないのはあんなことがあったからかな?それとも前からこんな感じだったのかな」

僕達のせいで恐怖心が残っていたり、急激な変化で売り買いを控えていたりするのかもしれない。


「ハラルドの街と比べると確かに活気はありませんね。私も以前の状態を知らないので、元々こうだったのかはわかりません」


「城に戻ったら、誰かに聞けばわかることだね。でも、元からだったとしたらもう少し活気が欲しいね」


そんなことを言いながら店を回っていたけど、不思議に思うことがある。


活気はないのに、お客さんは普通に入っていた。

もしかしたらハラルドの街よりもお客さんは多いかもしれない。

物が売れてないから活気がないわけではないようだ。


ハラルドの街と何が違うんだろうか……?


「ああ、わかった。店側からの呼び込みがないんだ」

ハラルドの街では歩いている人に対して、○○が安いよ!とか、とりあえず見ていって!みたいな声が飛んでいた。

それがこの街ではないんだ。


だから同じくらい一つの店にお客さんが入っていても、ハラルドの街よりも活気があるように見えない。


「確かにそうですね。お客さんが少ないから活気がないっていうより、静かって感じですね」

国民性の違いというやつだろうか……


何か引っ掛かりつつも、適当に買い物をした後、冒険者ギルドへと行く。


「あまり人がいないね」


「そうですね」

ギルドの中には冒険者らしき人は3人しか見えない。


昼頃だということもあるけど、それにしても少ない。


依頼が貼られているボードを見に行ったけど、依頼が少ないというわけではなさそうだ。

むしろ多いように感じる。


「もしかして他の街から来られた冒険者の方ですか?」

依頼を見ていたら、さっきまで受付にいた職員の女性に話しかけられた。


「ええ、まだなったばかりで低ランクの冒険者ですが……」

今日は身分を隠して来ているので、こう答える。

嘘は言っていない。


「この街に拠点を移すご予定はありますか?それとも立ち寄っただけでしょうか?」

なんだかぐいぐい来るな。

やはり、人手が足りていないのであろうか……。


「近くに住むことになりましたが、今日は立ち寄っただけです。ここのギルドマスターとお話したいことがあるんですけど、可能でしょうか?」


「そうなんですね。ご用件をお伺いします」


「挨拶と聞きたいことがあります」

今は身分を隠しているので、用件を聞かれると少し困る。


「……少々お待ち下さい」

女性は少し迷った後、奥にある部屋へと入っていった。

ギルマスをに相談しに行ってくれたようだ。


「ギルマスがお会いになるそうです。どうぞ」

低ランク冒険者の肩書きだけでは会ってくれないかもと思っていたけど、会ってくれるようだ。


「俺はバルドンだ。ここのギルドでマスターをしている。俺に用があるってことだが、何の用だ?」


「はじめまして。今日は顔合わせの挨拶に来ました。まだ正式にではありませんが、建国後に王となります。事情があり本名を隠していますので、マ王と呼んで下さい。こちらは僕の専属使用人のシトリーです」


「……マ王様ですね。本日はお忙しい中お越しいただき誠に恐縮です。呼んでくだされば私の方から城に出向きましたが、本日はそれほどの急用でしょうか?」


「そんなに畏まらなくて大丈夫です。特に用もありません。顔を見せにきただけです。冒険者ギルドはどこの国にも所属していないと聞いています。しかし、有事の際には手を貸していただくことにもなるでしょう。良い関係を築けるように挨拶に来ました」


「……それじゃあ失礼する。正直堅苦しいのは苦手だから助かる。本当に挨拶に来ただけなのか?」


「少し聞きたいことが先程出来ましたが、ここに来た理由は挨拶だけです。僕は先日まで帝国領に住んでいましたので、この街がどんな所か知らないんです。なのでどんな所か街の中を見て回っていました。ここも立ち寄っただけです」


「わかった。確かにギルドは国に所属していないが、王と同格というわけではない。次からは俺の方から城に出向くから遣いを寄越してくれ。マ王様が正式に王となられ、周囲に顔を認識された後にふらっとギルドに来られるのは、他の職員が緊張してしまう」

言葉を濁してはいたけど、迷惑だから急に王がギルドに来ないでくれ。ということだろう。


確かに急にお偉いさんがふらっと来たら迷惑だ。

他の仕事をしていても放置するわけにはいかないからね。


「わかりました。そうします」


「それで、聞きたいことというのはなんだ?」


「冒険者が少ない気がしたんですけど、たまたま今ギルドにいないだけですか?」


「……少し前から、かなりの数の冒険者がこの街を出て他に拠点を移した。引退した者もいる。今は残ってくれた者に頑張ってもらっている」


「何か離れていく理由があるんですか?」

僕が聞いたら、ギルマスの眉がピクッと動いた。


「先日、このギルドに所属する冒険者の多くが恐怖する出来事が発生した。結果として、何人かが戦うことに恐怖を覚えて剣を握れなくなり、ここに住むことを嫌がった者はこの地を離れていった」


「そんな大変な事があったんですね」

凶悪な魔物の襲来でもあったのだろうか……。


「マオ様、多分マオ様がこの地を侵略したことを言っています」

シトリーがわかっていなかった僕にこそっと耳打ちして教えてくれる。


「……ご迷惑をおかけしてます」


「彼らも報酬をもらって受けたことだから、気にしなくていい。普通なら失敗した時点で死んでいる。どうするか自身で決めることが出来るだけマシだ。ただ、ギルドとしては正直困っている。ギルドへの依頼は、冒険者が減ったのに対し増えているからな。ギルドは斡旋しているだけだから、頼んだ依頼が誰も受けないのであれば報酬を上げるなりしろと普段は言うのだが、相場よりも高くしたところで、無理なものは無理だ」

人手不足は深刻なようだ。


「冒険者をやめた方は何をしてますか?」


「全てを俺の方では把握できてないが、城で人手が不足しているという話を聞いて、雇われた者もいるな」

ルマンダさんが言ってたやつだね。


「そうですか。冒険者を辞めることになったことで、職がなく困っている人がいたら城に来るように言っておいてください。仕事が出来るようにします」


「マ王様は想像していたよりも、普通の方だったんだな」


「どんな想像をしていたんですか?」


「……常人という枠を二つか三つ飛び越えたような人物だと思っていた」


…………枠に囚われない柔軟な思想をしている人物を想像していたのかな?

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