第34話 褒美
「マオ様、私への用事はそれだけですか?」
城が予想より大きかった理由を聞いた僕が研究室を出ようとしたら、フェレスさんに止められた。
やはり、僕は大事な何かを忘れているようだ……。
でも、この城よりも大事な事なんてあったかな?
スキル球のことは僕の方から頼んだ事だし、内乱を収めたお礼のプレゼントを用意はしているけど、フェレスさんには何を渡すか話していない。
何を渡すとしても城よりも大事だとは思ってないはずだしなぁ。
そもそも、今持ってないし……。
「……ごめん。他に大事な用があったかな?」
フェレスさんには悪いけど、わからないので聞くしかない。
「この地を手に入れたら、私に褒美をくれるという話でしたよね?」
フェレスさんが悲しそうに言った。
お礼の話だった。
さっきの城の話よりも大事だなんて、どれだけ期待しているのだろうか……。
「ちゃんと用意はしてあるよ。馬車に乗ってるから、後で持ってくるよ」
「ありがとうございます」
フェレスさんはすごく嬉しそうだ。
そして期待がすごい。
もしかして僕が持っているものに心当たりがあって、欲しいものがあるのだろうか?
もしそうなら、僕が渡そうとしている物はフェレスさんの欲しい物ではないだろう……。
僕は馬車に行き、フェレスさんへのプレゼントを持って研究室に戻る。
大きい物ではないけど、移動中、収納には見られたらマズい物を優先的に入れていたので入りきらなかった。
フェレスさんに会いにいくのだから持っていけばこの手間は掛からなかったな。
いつものようにポケットに入れておけば良かった。
「お待たせ。これなんだけど……他に欲しい物があるなら言ってね。なんでもあげられるわけではないけど、言ってくれないとわからないからね」
こちらの世界で価値のあるものなんて僕にはわからないので、言ってくれないとわからない。
「これはなんですか?」
フェレスさんに聞かれる。
とりあえず、フェレスさんの欲しかった物ではなかったのは表情を見てわかった。
「異世界の電話だよ。スマートフォンっていうんだけど、前に僕の住んでいた世界には魔法はないって言ったでしょ?魔法やスキルみたいな便利なものがない代わりに科学というのがこの世界よりも発達しているんだよ。電波がこの世界にはないから電話としては使えないけど、電源は点くから好きに使っていいよ。魔法を発動するのに、科学の知識を組み込んだら今まで出来なかった事も出来るんじゃないかなって思ったんだけど……どうかな?他の物の方が良ければ替えるから遠慮なく言ってね」
ずっと圏外なので、僕には必要ないものだ。
「………………これを頂きます。ありがとうございます」
フェレスさんは悩んだ後、スマホをもらうことにしたようだ。
僕はフェレスさんにスマホの使い方を説明する。
今は電波がないから圏外になっているけど、電波があれば本当はこんなことも出来るんだよと教えもする。
それから、作ったのは僕じゃないから構造とか聞かれてもわからないし、壊れたら直せないから気をつけてとも言っておく。
「フェレスさんはこれの他に欲しいものがあるんだよね?」
「はい」
「それなら、また今回みたいに僕の頼みを聞いてくれたりして、僕を助けてくれた時にお礼としてまた何かプレゼントするよ。これからもお願いね」
「ありがとうございます」
研究室を出た僕は、とりあえず風呂に入ってゆっくりした後、ルマンダさんのところへ現状を聞きに行く。
「今の状況を教えてほしいのですが、いいですか?」
「もちろんです。何からお話しましょうか?」
「僕がいない間に何か変わったことはあるかな?」
「まず、城の方は見ての通りです。現在急ピッチで作っています」
内装はまだまだ完成には程遠い。
「できる範囲でお願いね」
「はい。それから民衆の方ですが、マ王様が命を奪わなかったこともあり、予想していたよりは落ち着いています。しかし、不安が無いわけではありません。一部はこの国を出たようです」
「それは仕方ないね。出たい人を無理に呼び止める必要はないよ。残ってくれた人に、残ってよかったと思ってもらえる国にしていけばいい。どうすればいいのかはわからないけどね」
「それから、……恐怖が抜けていないようで、マ王様を誤解されている方が多くいられます」
「それも仕方ないね。そういうことをしたんだから。それよりも元の生活は送れているかな?さっき一部の人が国を出たって言ったでしょ?職を失ったりしている人はいない?」
「フェレス殿の指示でそういった人は城で雇っています。マ王様ならそうするからと。今は内装を作るのに人手が必要なので仕事がありますが、将来的には仕事がなくなります」
フェレスさんが僕ならどうするか考えて動いてくれたらしい。
問題はあるけど、僕にはもったいないくらいに有能な人だ。
「内装が完成するのはいつ頃になる予定?」
「この建物だけでしたら完成は半年後くらいですが、数ヶ月もすれば職人以外は不要になります」
誰でも出来る仕事がなくなるってことか……
「それじゃあそれまでに新しい仕事を考えるか、働く時間を減らして空いてる時間に仕事を探してもらうようにして」
「かしこまりました。段取りさせます」
「起きたことはそのくらいかな?」
「そうです」
「何か困っていることはある?」
「今のところ順調です」
「そう。何かあったら遠慮せずに言ってね。自分が王の器だなんて思ってないけど、なったからには僕にやれることをちゃんとやるつもりだから。これからの予定はどうなってるかな?」
「マ王様が戻られましたので、建国式を行う予定でいます。式典を行った後は、各国へ使者を送ります」
「式典って何をするの?」
「マ王様には集まった民衆の前で演説をしてもらいます。話して頂く内容に関してはこちらで考えておきますのでご安心ください」
大勢の前で演説するとか緊張するけど、仕方ないか。
「わかりました。他は?」
「他国がこの国を認識した後、私の派閥に所属していた者をこの国に引き込むつもりでいます。まずはこの国と接している所からです」
「わかった。その辺りはルマンダさんに任せるよ」
「かしこまりました。それから役職を設けるべきです。現在私とフェレス殿でまとめてはいますが、立場としては皆と同じ平民です。爵位は王が決めるものです。私が勝手に与えるわけにはいきません」
「どうするか考えておくよ」
貴族制度とかよくわからないからなぁ。
誰かに教えてもらおう。
「当分は地盤を固めることを優先して動く予定で考えていますが、建国したことが正式に伝わった時に、他国がどう動くかがわかりません。攻めてきた場合には、こちらも迎え討つ必要があります。情けを掛けられた身で言うことではありませんが、国民を守る為に非情になってもらう必要があるかもしれません」
「覚悟はしておくよ」
攻めてきた人に情けをかけた結果、自国の人が殺されたなんてことには出来ない。
でも、やっぱり攻めてきた相手も殺したくはないと思ってしまう。
「マ王様はもう城の中は見てまわられましたか?」
「地下室と風呂しか行ってないよ」
「マ王様の部屋は出来ていますので、マ王様はゆっくりしていて下さい。式典の日程は決まり次第お伝えします」
「ありがとう」
さっきとは違う知らない使用人の女性に案内されて部屋に行き、僕は休むことにした。
豪華すぎて落ち着かないなぁ。
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