第31話 密談 オボロとフェレス

フェレス視点 ルマンダ侯爵領へ出発前日


昨日、マオ様に王国で内乱が起きないようにする方法をお伝えした所、ルマンダ侯爵領に住む人を犠牲にするやり方はとりたくないと甘い返答が返って来た。


私はマオ様に何かを得る為にはその為の対価、代償が必要だと言ったが、マオ様は代償は支払わないと言った。


それに対して強欲だと私は皮肉のつもりで言ったが、マオ様から、魔法を例えに出されて私も強欲だと言われた。


確かに私には、魔法を使うことも、深淵を覗くことも、どちらも諦めることはできない。

どちらかを選べと言われたら、他の方法を探そうと足掻くかもしれない。


マオ様にとっては、それほど重要なことだということが理解できてしまった為、私は別の案を考えることにした。


それに、マオ様が言ったプレゼントも気になる。


私を捨てたあの家の者とは違い、マオ様は私のことを理解してくれている。

そのマオ様がくれるプレゼントは私にとって喉から手が出るほど欲しい物に違いない。


ルマンダ侯爵家を攻める案を修正した私は、マオ様をお呼びして話をする。

今回の案で鍵になるのはオボロ殿だ。


マオ様はオボロ殿に限らず、魔物達をペットや家族のように接している節がある。


果たしてオボロ殿を戦力として戦いの場に投入することを良しとしてくれるのか……。

そう思っていたが、マオ様はオボロ殿が嫌がらないのであればと加えはしたが、了承した。


マオ様がオボロ殿を呼びに行き、考えた案を説明する。


私の案は、オボロ殿に使用人の娘の相手をしていた時のように偽物を作り出してもらい、こちらが魔物の軍勢であると錯覚させるというものだ。


全てが本物であると錯覚させる為に、初めは殺さないように手加減をしつつも実際に攻撃をしてもらう。

オボロ殿には偽物の攻撃に合わせて移動してもらい、実際に傷を負わせてもらう必要がある。


さらに殺さないことが不自然でないように、相手を弄ぶかのようにじわじわと攻撃するのがいいと話す。


相手の戦意が失われた所で、降伏勧告をする。

その場に侯爵がいないのであれば拘束して、その場に放置して次に進む形だ。


マオ様がオボロ殿に私の案を伝える。


私は以前から、オボロ殿はマオ様が通訳しなくても、人の言葉を理解出来ているのではと思っていた。


しかし、マオ様がオボロ殿に話をしている時にオボロ殿がおとなしく聞いているので、確証が持てない。


「コンコン、ギャー、キャキャン、コーン」


「それって大丈夫なの?」


「キャウ」


「そうなんだ。伝えるね」


オボロ殿とマオ様が話をして、マオ様がオボロ殿が言ったことを通訳してくれる。


「オボロは人を影の中に引き摺り込むことが出来るみたいで、フェレスさんの案を否定するわけではないけど、全部飲み込んでしまえばいいって言ってるよ。影の中に入った人の意識を刈り取っておいて、全てが終わった後に地上に戻せば誰も殺さなくて済むみたいだよ」

そんなことも出来るのか……


「そんなことが出来るなら、確かにその方がいいな。それは見えない範囲も可能か?」


マオ様がオボロ殿に伝える。


「コンコン。キャー」


「今のオボロなら可能だって言ってます」

なるほど、今の鳴き声だとそんなことを言っていたんだな。


それからも、マオ様を仲介してオボロ殿と作戦を詰めていく。


「それでは、出来るだけ急いだ方が良いので問題がなければ明日出発しましょう」


「わかりました。お願いします」


マオ様とオボロ殿が離れから出て行った後、オボロ殿だけが戻ってきた。


「人間―妾―言葉――理解―」


「……あ、ああ。全てではないがな。言語学習というスキルを持っている。オボロ殿はやはり人の言葉を理解しているのだな?」

私は言語学習というスキルのおかげで、言語を習得する時間が普通よりも早い。

マオ様のおかげで能力が増したからか、今は以前にも増して習得が早くなっている。


普通ならこのスキルがあっても魔物の言っていることなんて理解できないが、マオ様が通訳に入って長いこと話をした結果、オボロ殿の鳴き声と内容を当てはめて、内容を理解することが出来る様になった。


まだ、単語が分かる程度だが、会話を成り立たせるだけなら十分だ。


「妾――人間―言葉――容易」


「それで、何の用だ?」


「主―不遇――人間―理解―敬服」


「……マオ様をもっと敬えと言っているのか?私はマオ様が私に協力してくれる限り、礼を尽くすつもりだ」


「人間―否。主―人間――平伏。主―頂点―王―否、神」


「私のことではなく、他の人間の事を言っているんだな」


「是」

やはり単語だけだと食い違いが出るな。ルマンダ侯爵領に向かう最中に、マオ様に協力してもらってオボロ殿の言葉がちゃんと理解出来るようにならなければ。


そうすれば、オボロ殿から魔物が扱っている魔法のような事象についても詳しく聞くことが出来る。


今までは、マオ様に間に入ってもらわなければいけなかったので、マオ様に時間を割いてもらう必要があった。

それに、マオ様が異世界人だということもあり、魔法について理解されていないので、正しく意味が伝わっていない節も見られた。


それがなくなるのは大きい。


「人間はもっとマオ様を敬うべきだと言ってるんだな。マオ様を神のように扱えと」


「是。人間―協力――侵略―叶う―王―主―君臨――」


「私に協力するから、ルマンダ侯爵領の侵略が成功したら、マオ様を王として君臨させよと」


「是」


「マオ様は王となることを望んでいるようには見えないが……?」

テイムした魔物が、主人に黙って望んでいない動きをするなんて聞いたことがない。


「主―己――欲―無―。妾――代理―理想郷―人間―協力―。世界―主――征服」


「マオ様が自分のことには無欲だから、代わりにオボロ殿がマオ様にとっての理想郷をつくるんだな。その為に世界を征服するから私に協力しろと」


「是」


「それを手伝うことで私になんのメリットがあるんだ?マオ様のおかげで研究は捗っているが、世界を敵に回すほどではない。生きていなければ研究も出来ない」

オボロ殿と違い、私に忠誠心はない。

利害関係があるだけだ。


「主―禁書――所持。禁術―古代―封印―。主―全―否―。征服―人間―所持―深淵――夢―成就」


「マオ様は禁書を持っているのですか?全てではないが、何冊か持っているのですね?」


「是」

欲しい。なんとしてでも欲しい。

まさか、私へのプレゼントというのは禁書なのでは……?


「わかった。世界征服に協力しよう。征服が叶えば、マオ様が持っていない禁書も私の物となり、深淵を覗くという私の夢にもまた一歩近くなるわけだ。それは、十分すぎるメリットだ。しかし、わからないことが一つある。何故オボロ殿はマオ様に世界征服をさせたい?」

世界を敵に回す以上のメリットがあるなら、私に断る理由はない。

ただ、オボロ殿がここまでする理由が不明だ。


「主――同胞―救出。元―世界――帰還。妾――同行――否―。理想郷―有―主――元―世界―否―」

オボロ殿はマオ様が同郷の者たちを助けたら、元の世界に帰ると思っているんだな。

だから元の世界に帰りたくなくなるくらいの理想郷をこの世界に作りたいと……。


やはり、他のテイムされた魔物とは違うな。

主人に反抗しているわけではないが、主人の考えとは逆をいこうとしている。

興味深い。


「私にとってもマオ様にはこの世界にいて欲しい。オボロ殿とは理由は異なるが利害は一致する」

私の夢を叶える為には、マオ様は必要なピースだ。

元の世界に帰ってもらうわけにはいかない。


「では、まずはマオ様を王とする為の段取りを決めようか」


――――――――――――――――――――――

後書き


フェレスにはコンコンとオボロの鳴き声が聞こえています。フェレスの脳内で変換したものを文字にしていますので、オボロ本来の口調とは異なります。

(マオには変換された状態で聞こえています)


読みづらい文章になってしまったかもしれませんがご容赦下さい。

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