第32話 引っ越し

シトリーにコロネさんを呼びに行ってもらい、2人に話をする。


「まず、無事ルマンダ侯爵家を降伏させることが出来ました。パニックになった事で怪我人は出てしまったけど、こちらはもちろん、向こう側にも死者は出ていません」

とりあえず結果を報告する。


「流石マオ様です!」

「……よかったわ」

シトリーが手放しで僕を称賛し、コロネさんはホッとした様子だ。


「全部フェレスさんとオボロがやってくれたんだけどね……」

僕は一緒に行っただけだ。

オボロとフェレスさんが会話出来るように通訳として行ったつもりだったけど、オボロとフェレスさんとで会話が出来たので、実際のところ本当に行く必要はなかった。


万が一の為にシロにもついて来てもらっていたけど、結局シロの出番はなく、2人して馬車に乗っていただけだ。


「そうだとしても、フェレス様とオボロちゃんの能力を上げたのはマオ様です。マオ様がいなければ成しえなかった事です」

シトリーが真顔で言った。

力を得てから、シトリーには僕のことが神にでも見えているのかと思うような時がある。


「ありがとうね。それで、ルマンダ侯爵が降伏したからそれで終わりだと思ったんだけど、ルマンダ侯爵領を僕の領土として建国することになったよ。フェレスさんがその方がいいって言ってた。名ばかりだけど、僕が王ってことになるみたい。それで、王国に僕が生きてるのを知られるのは良くないから、頭文字を取ってマ王って名乗ることになったよ」


「……え?何言ってるの?」

コロネさんは頭が追いついていないようだ。

説明している僕も何故建国して王にならないといけないのかあまり理解出来ていないのだから仕方ない。


「マオウ様!いい響きです!あの地に住む人達はマオウ様の元で生きられる事を幸せに感じるはずです」


「シトリー、後でゆっくりと話をしようか」

僕はそんな大層な人間ではないということを説明しないといけない。

急激に力を得て、ハイになっているだけのはずだ。


「はい!」

シトリーは嬉しそうに返事をした。

そんな良い顔で返事しないで欲しい。


「後じゃなくて、やっぱり今話をしよう」

とりあえず本題を話してからにしようと思ったけど、これは先に話をしないとダメだと思った。


僕はコロネさんにもフォローしてもらい、シトリーに僕が神のような存在ではないことをゆっくり、丁寧に説明する。


「そういうわけだから、会った時にも話したけど、僕のことは友達くらいに思ってね。シトリーも急に神のように崇められたら距離が出来てしまったと思って悲しいでしょ?慕ってくれるのは嬉しいけど、崇められたいわけではないからね」


「……わかりました」

シトリーはシュンとした顔で返事をする。


なんとかシトリーの目を覚ますことに成功したようだ。


「話を戻すけど、僕が王ってことになってしまったから、権威を示す為にフェレスさんが城を立ててるんだよ」


「ちょっと待って。まだ、マオさんが王になったということにも理解出来てないんだけど……」

コロネさんが言う。流せてなかったようだ。


「いやね、実は僕もよくわかってないんだ。今回のことは帝国が関与しているわけではないから、帝国領の一部にするわけにもいかないし、一度は収めたけどまたルマンダさんが反乱するかもしれない。だから、誰かが王になって建国する必要があるみたいだよ。僕が王なのは、フェレスさんの雇い主だからかなぁ」

僕はフェレスさんに言われた事をコロネさんに伝える。


「マオさんがそれでいいなら、私が言うことはありませんが……いいんですか?」


「王になりたいわけではないんだけど、今回は僕の言い出したことで始まっているからね。他に誰かやりたい人がいれば別だけど……」


「私はやらないわよ」

チラッとコロネさんを見たら、即答で断られた。


「まあ、実際にはフェレスさんが頭脳となって動いてくれているから、僕は名前を貸してるだけだよ」

神輿は軽くてパーがいいって聞いたことがあるし、悪い事をしないなら、僕を担いで好きにやってくれればいい。


「わかったわ。それでフェレスさんの指示で城を建設しているのよね?完成にはどのくらい掛かるの?」


「フェレスさんが魔法で建てるからすぐに出来るって言ってたよ。もう今頃は外観は完成していて、内装を触り出しているんじゃないかな?内装はルマンダさんが指示を出すみたいだよ。小さい城って言ってたから、屋敷みたいな城なんじゃないかな?」


「だとしても、城を作れるなんて器用ね」

フェレスさんがいれば、大工要らずだ。


「そういうわけで、拠点をここから移すことにしました。準備が出来次第引っ越しするつもりです」


「わかりました。準備します」

悩むこともなく返事をしたシトリーとは違い、コロネさんは困惑した様子だ。

驚いているというよりも、困っているように見える。


「コロネさんに頼みがあるんですが、何かあった時にすぐに帝国領の事を知りたいので、この屋敷に残って連絡役をしてもらえませんか?コロネさんも一緒に来たいということであれば、他の人を雇うつもりでいますので、無理して残らなくても大丈夫です」


元々、シトリーかコロネさん、または2人ともがこの屋敷に残りたそうな反応をしたらこの話をするつもりだった。

雇ってすぐにこちらの都合で転勤になるのは流石に可哀想だ。


「気を使ってるでしょ?」


「……はい。でもこの屋敷を管理してくれる人が必要なのは本当です。コロネさんならギルマスとのパイプもありますし、適任だと思っているのも本当です」

気なんて使ってないと言ってもバレるだろうから、そこは認めることにして、コロネさんに任せたいというのは本当だと伝える。


「ありがとう。この屋敷の管理と情報収集は任せて。この街に両親が住んでいるから、あまり離れたくはないのよ。助かるわ」


「情報収集の為に危ない事をする必要はないです。ギルマスから何か話があれば伝えて欲しいのと、何か帝国で変化があれば教えてほしいだけです」


「わかったわ。それでどうやって伝えればいいかしら?そっちに向かえばいいの?」


「オボロの力でワームホールというのを展開できるみたいで、この屋敷と向こうの城を繋ぐから、用件を紙に書いて入れてくれればいいよ。何かが通れば、オボロには分かるみたいだから、すぐに読んで返事をするよ。小さいものなら紙以外でも行き来出来るみたい」

オボロにこの部屋の中に入口と出口を作るようにワームホールを展開してもらい、実際に紙を入れて実演して見せる。


「僕の方から送った物の確認ついでに、朝昼晩となんでもいいから送ってもらっていい?安否確認にもなるから。よろしくね」


「わかったわ」


「この屋敷だけど、僕は住まなくなるしコロネさんの好きに使っていいからね。両親を呼んで一緒に住んでもいいよ。管理が1人で大変だったら誰か他に雇ってもいいからね。その人の給金も僕が払うよ」


「そこまでしてもらうのは悪いわ」


「こんな広い屋敷に1人で住むのは寂しいでしょ?部屋も余ってるから、気にする必要はないよ」


「ありがとう」


「シトリーは僕について来てくれるって即答したけど、無理はしてない?」


「無理してないです。元々路頭に迷っていたので、この街に未練はありません。今はマオ様のいるところが私の居場所です」


「そう。それなら一緒に引っ越そうか」


「はい!」

シトリーは嬉しそうに返事をしたけど、さっきのような盲信しているような目はしていなかった。

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