第30話 一方、王国では④
国王視点
「くそ!金がない」
自室だけでなく、宝物庫や余が贈った物まで消え失せて、余が自由に使える金が銭貨1枚もない。
とりあえず宰相の金で、妻と娘に贈り物をしたが、どこまで許してくれるか……。
あやつらは余のことを財布と思っている節があるからな。
贅を尽くせぬとなった時に何をするかわかったものではない。
余は金を工面すべく、宝物庫の中身を含め、余の財力が消滅したことを公にした後、貴族連中に金を出させる。
しかし、理由もなく金を搾取すると反感を買うので、翌年分の税を前倒しして納めさせる事にした。
通達を出したので、これで順次金は集まる。
国が傾けば己の立場も危ぶまれることは分かるだろうから、渋りはしても出さないということはないはずだ。
恩を売る為に多めに出す者もいるだろう。
問題は翌年の税収が無くなるということだ。
同じ手はもう使えない。
今回は突発的に緊急を要する事態になったが、財政難が続けば、余の力が失われたとして、反旗を翻す者が出てくるかもしれぬ。
牽制するには武力が必要だが、軍事に充てる金は無い。
問題は金だけでは無い。
ルマンダ侯爵が爵位を返上すると言ってきた件だ。
それなら領地も返せと言いたいが、それを言えば内乱になるだろう。
内乱になった場合、ルマンダ侯爵率いる屈強な兵達と戦わなければならない。
万全の状態でも楽には勝てぬだろうに、今は軍事に充てる金がない。
勇者達を使うにも間に合うか分からない。
訓練はさせているらしいが、正直構っている暇はない。
仮にルマンダ侯爵の兵に勝ったとしても、軍事に金を割いたが最後、待っているのは財政難だ。
内乱になった時点で終わる。
領地はやるから放っておいてくれと言いたいが、そんな弱みを見せれば攻めるチャンスだと思わせるだけだ。
攻めてこないでくれ!と願ったが、密偵からルマンダ侯爵が着々と兵を集めているとの報告が入った。
今、ルマンダ侯爵が他と争う理由は無いだろうから、反旗を翻す為としか思えない。
仕方ない。
攻められて、殺されるよりは財政難の方がマシだ。
これが他の貴族なら良いが、ルマンダ侯爵の所の兵士は練度が高い。
徴兵させ、武具を揃え、食糧等の補給物資もしっかりと揃えなければならない。
金を使いたくはないが、物資をケチった結果、敗れて国を乗っ取られるよりはいいはずだ。
それでもルマンダ侯爵の兵に勝てる見込みは高くない。
無理矢理にでも勇者達を戦えるようにしなければ……。
――――――――――――――――――――――
委員長視点
「竹原の姿が見えないんだが、何か知らないか?」
ダンジョンを出た後、龍崎君に聞かれる。
昨日、私が騒いでいたから、私が関わっているのだと思って聞いているのだろう。
「……本当ね。いないことに気づかなかったわ」
本当は龍崎君には事情を話してしまいたいけど、あの指輪で洗脳されていることを考えると、龍崎君に話したことは国王や宰相に筒抜けになる可能性がある。
なので私は知らないと答えた。
「そうか。それならなんで昨日わざと騒いでいたんだ?」
「鬱憤が溜まっていたからよ。みんなも騒いで少しは落ち着いたでしょう?」
「そうか。竹原が心配だから、見かけたら教えてくれ」
「わかったわ。竹原君がいないことは他の人には秘密にしておいてもらえる?もしかしたら城から逃げ出したのかもしれないから。もしそうなら、バレた時に追っ手が掛かるかもしれないわ」
「……そうだな。こんなことになってしまったが、絶対に生きて帰ろうな!」
龍崎君はそう言ってから自室へと戻っていった。
私も自室に戻り、休んでいると食事が運ばれてきた。
昼はダンジョンの中だったからか携行食のような物が配られたので、全然足りずお腹が減っていた。
「これだけ?」
私は食事を運んできたメイドに聞いてしまう。
「……はい」
あまりにも昨日の食事と差があったので聞いてしまったが、メイドの表情から察するにこれでも使用人の食事よりは多いようだ。
「いいわ。嫌なことを言ってごめんなさい」
これよりも少ない食事をしているだろう人に、足りないから持って来てとは言えない。
昨日が豪華だっただけで、これが普通なのかもしれない。
うん、あまり美味しくない。
翌日、城の中が騒がしかった理由が判明した。
宝物庫の中身などが消えてなくなったらしい。
そのせいで、贅を尽くしたもてなしが出来なくなったと説明を受ける。
隠し通せるものでもないと判断して、私達に教えることにしたそうだ。
昨日の食事が少なく、美味しくなかったのはその影響かもしれない。
城の中はそれからもバタついており、半分放置された訓練をする日々を過ごしていたある日、戦に行かされることになってしまった。
相手は魔族ではなく、ルマンダ侯爵というこの王国の貴族らしい。
理由は教えてもらえなかったが、ルマンダ侯爵が反旗を翻そうと兵を集めているらしい。
私達もルマンダ侯爵の兵と戦う為に戦に駆り出されるようだ。
私以外は洗脳されている為、拒んだ所で行かされるのだろう。
昨日までは怠け放題だった訓練も、半強制的なものへと変わった。
レベルを上げる為に魔物と戦わなければ、ムチが飛んでくるので、戦いから逃げることは許されない。
いつ進軍が始まるのか分からないけど、それまでに私達を戦えるようにするつもりのようだ。
どうなってしまうのだろう……。
――――――――――――――――――――――
国王視点
ルマンダ侯爵との戦に向けて準備を進めている中、密偵から報告が入る。
「ルマンダ侯爵が治める地が占領されました」
密偵が何を言っているのかすぐに理解出来なかった。
余は密偵からルマンダ侯爵の兵の準備が整ってしまったと言われると覚悟していた。
それが、占領されただと!?誰に?……帝国か?
「帝国が横槍を入れて来たか?」
だとしたら厄介だ。
「違います。帝国貴族であるファウスト家のフェレス殿が攻め落としました。帝国は関係ありません」
フェレス・ファウスト……どこかで聞いた名だな。
どこだったか……?
「フェレスというのは誰だ?聞いた覚えはあるのだがな」
「ファウスト家の暴君です。魔導を極める為ならなんでもする変人だと有名です。ファウスト家からは勘当されていると聞いています」
思い出した。魔に魂を売った暴君か……
「そうだったな。それで目的は?」
「フェレス殿は城を構えました。新たに建国するようです」
変人の考えることはわからんな。
しかし、ルマンダ侯爵を代わりに潰してくれたのはラッキーだったな。
フェレスの軍も戦いで消耗しているだろうから、すぐにこちらを攻めてくることもあるまい。
本来であれば王国の地を奪われたのだから奪い返す必要があるが、今は無理だ。
放っておいてやるとしよう。
「何があったか話せ」
余は密偵に詳細を述べさせる。
「フェレス殿は新たに王になるマ王の指示によって、ルマンダ侯爵を配下にしました。ルマンダ侯爵と国王が争うのが気に入らないと言っていたようですが、隙をついて領土を奪うのが目的だったと思われます。攻めて来たのはフェレス殿とマ王、それから狐が1匹だけです。フェレス殿はまず、見張りの兵達を闇に飲み込んだそうです。その後、降伏勧告をした後に、今度は進軍して来たルマンダ侯爵の兵も一人残らず闇に飲み込んだようです。さらに、ルマンダ侯爵の屋敷まで向かいながら、街を2つ同様の方法で壊滅させた結果、ルマンダ侯爵が降伏しました。既に城が建てられ、今後はマ王をトップに、あの地は引き続きルマンダ侯爵が治めるようです」
理解が追いつかない情報が多すぎる。
「魔王が現れたのか?」
「王になるのはマ王だと聞いています。もうそろそろ、正式に建国の知らせが届くはずです」
本来、勇者召喚は魔王を倒す為に行う儀式だ。
魔王がいないのに勇者を召喚したから、魔王が現れたとでもいうのか……。
「本当に2人と1匹しかいなかったのか?軍を率いていたわけではないのか?」
「本当です。そもそもフェレス殿はファウスト家から勘当された身です。軍などもっていません」
「ルマンダ侯爵の兵をその魔王が皆殺しにしたのだな?」
魔王はそれほどの存在か……。
「違います。マ王はフェレス殿に指示をしただけです。実際に動いたのはフェレス殿です。狐が魔物だったという可能性はありますが、マ王は馬車から降りても来なかったそうです。それから、ルマンダ侯爵の兵は皆殺しにされていません。闇に飲まれた後も生きていました。よってルマンダ侯爵の兵力は衰えていません。兵に限らず、此度の戦で命を失った者は誰一人いません。恐怖だけを植え付けました」
ファウスト家の暴君は、変人だが実力は確かだと聞いてはいた。しかしこれほどまでとは……。
それほどの男が主とする魔王は、どれほどなのか想像すら出来ん。
「魔王がここに攻めてくる動きはあるか?」
「今のところありません。現在は城の内装を作っています」
王国が狙いというわけではないのか?
それとも今は地盤を固めているのか……。
「貴様は引き続き潜入を続けろ!決して悟られるなよ」
「はっ!」
困った。
魔王が現れたことや、領土を奪われたことも困ったが、ルマンダ侯爵との争いが回避出来たのだから、一旦それは余にとって喜ばしいことだと考えておこう。
それよりも、結果として必要のなかった軍事に金を使ってしまったことが問題だ。
仕方なかったが、翌々年の税収まで決して持たない。
なんとかせねば……
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