天職が『盗賊』という理由で追放されました。盗みを極めし男はやがて魔王と呼ばれる
こたろう文庫
第1話 召喚されたら盗賊でした
僕は石川真央。中学3年生。今は友人の明人と雑談をしている。
「真央、昨日から始まったドラマ見たか?」
明人から聞かれる。
「見てないよ。どんなやつ?」
「医療ミスを題材にした裁判ものだな」
「あー、あれね。面白そうではあるけど、その時間は動物番組がやってるからね。ちなみに昨日は猫特集だったよ」
「そうか、あの時間だと真央は見ないか。相変わらずだな」
「本当は飼いたいんだけどウチはペット禁止だからね。テレビで見るしか出来ないんだよ」
どうでもいいことを話しているが、今は休み時間ではなく授業中だ。
僕達がこうして話していても怒られないのは、先生の都合で数学の授業が急遽自習になったからだ。
もちろんしゃべっていていいわけではないけど、真面目に自習している人は少ない。
周りも迷惑にならない程度でサボっている。
「おい、これなんだ?」
誰かが言った。
声がした方を見ると空中にピンポン球くらいの白い小さな球が浮かんでいた。
最初は誰かがマジックでも披露しているんだと思ったけど、白い球はどんどんと大きくなっていく。
何故か教室のドアも窓も開かなくなっており、僕達は白い球に飲み込まれ、意識を失った。
意識のない間に、みんなで順番にクジを引く夢を見た。
「うーん……」
目を覚ますとそこは教室ではなくなっていた。
さっきのは夢だから今はどうでもいいはずだけど、大事なクジだった気がする。
周りにはクラスメイトがいて、皆同時に目を覚ましたのかキョロキョロとしている。
広い豪華な部屋で、両サイドには兵士が並んでおり僕達は囲まれている。
奥の方には豪華な服を身に纏ったおっさんが高そうな椅子に座っている。
僕は脳内を整理する。
ここはアニメや漫画で見たことのある王城に似ている。
そうなるとあのおっさんは王様だろうか……。
ドッキリでなければ、ここが日本のようには思えない。
…………異世界?
「勇者様方、よくぞいらっしゃいました」
王様と思われるおっさんの横にいた宰相風の男が話し始める。
「現在この国は魔族と冷戦状態にあります。魔族に襲われては王国はすぐに滅ぼされてしまいます。魔族に対抗すべく勇者様方を召喚させて頂きました」
「ふざけんな!勝手なこと言ってるんじゃねえ」
「そーだ、帰してくれ」
「帰せ!」
周りが騒ぎ出す。
僕は周りに付いていけず傍観するしかない。
ドンっ!!
宰相が杖で床を叩き音を鳴らす。
大きな音にビクつき静まり返る。
さっきまで杖なんて持っていたかな?
「勇者様方のお気持ちは分かりますが、私どもに勇者様方を元の世界にお帰しすることは出来ません。王国には勇者様方を召喚するゲートがあります。しかしこれは一方通行です。勇者様方を呼ぶことは出来てもお帰しすることは出来ません」
「そんな……」
女の子達が泣き崩れる。
「帰る方法はないのかよ!?」
「魔族が領土としている所にもう一つゲートがあります。そちらは異世界へと行くことが出来るそうです。恐らくですが、そのゲートを使えば帰還することが出来るでしょう。この国にあるゲートは出口で、魔族領にあるゲートは入り口となっていると考えられます。なので勇者様方としても魔族と戦う必要はあります。そのついでで構いませんのでこの国をお救いください」
本当のことを言っているのか分からないけど、とりあえずはそういうことだとして考えるしかない。
それしか選択肢がないのだから。
「魔族と戦うと言われても俺達はただの学生だ。戦えるわけがない」
龍崎君が宰相に反論する。
「異世界から来る時に特別な力を授かると書物には書かれていました。勇者様方、ステータスオープンと仰って下さい。伝承が本当であれば特別な力を授かっているはずです」
もしかして夢だと思っていたあのクジのことだろうか……?
「ステータスオープン」
僕達は言われるがまま、自分のステータスを確認する。
マオ
レベル:1
天職:盗賊
スキル:盗む★★★
称号:異世界人
よく分からないけど、僕は盗賊が天職らしい。
なんだか嫌だな。
「どうだった?」
僕は近くにいた明人に聞く。
「魔法使いが天職らしい。火魔法のレベルが6みたいだ。異世界人って称号が付いてるな。真央は?」
素直に羨ましいと思った。
「盗賊が天職だって。盗むってスキルでレベルは3だね。僕も異世界人って称号があるよ」
「なんだか物騒というか、残念だな。……どんまい」
明人に言われるが、自分でもそう思う。
泥棒の才能がありますと言われても何も嬉しくない。
宰相が全員の天職とスキルを確認していく。
勇者は龍崎君だった。
聖女は委員長、賢者は宮本君だ。
宰相の反応から、この辺りがスゴい天職なのだろう。
他の人は戦士と魔法使いが多かった。
上位っぽい騎士なんかもあったけど商人など変わった天職もあった。
そして僕の天職が盗賊だと伝えた時、宰相の顔が歪んだように見え、スキルを伝えたらため息を吐かれた。
自分でもいい天職でないことくらい予想がついているのだから、そんなあからさまにやらなくてもいいのではないかと思う。
全員の天職とスキルを聞き終えた後、宰相は王様に耳打ちした後、とんでもないことを言った。
「誠に残念ではありますが、盗賊が天職の方がいらっしゃいました。盗賊は処刑とこの国では決まっております」
「は……?」
天職が盗賊だったというだけで僕は処刑されるのか?
実際に盗賊になったわけではないのに……
「実際に何したって言うんだよ!」
「盗賊になったわけじゃないだろ!?」
「真央はいい奴だ。悪いことをする奴じゃない」
みんなが僕を庇ってくれる。
「黙りなさい!……勇者様方は知人が目の前で死ぬのを見たくないのでしょう。しかし、法は絶対です」
宰相が言った後、王様が耳打ちする。
「この国の法では処刑ですが、勇者様方に免じて国外へ永久追放とします。王国内で見つけ次第処刑します。準備しなさい」
宰相の指示で目の前に魔法陣が作られる。
「これは国外へと繋がる転移陣です。さあ、乗りなさい。私としては処刑でも構いませんがね」
僕は周りの兵士に掴まれて、転移陣へと引きずられていく。
「や、やめて!」
僕は抵抗するが、やめてはもらえない。
「知らない世界に連れてこられて追放とか処刑と変わらないだろ!」
明人が言ってくれる。
明人の言う通り、死ぬ未来が見える。
「ならあなたも付いていきますか?他の方も付いていきたい方はどうぞ」
「……あ、ああ。もちろんだ。俺も付いていく」
明人が答える。声は震えている。
「私も行くわ」
委員長も行くと言ってくれる。
委員長は僕を心配する他にも、何か考えがあって言ったように見える。
「他の方もとは言いましたが、聖女であるあなたを死なせるわけにはいきません。その2人だけを追放しなさい」
死なせると言ったということは、転移先で死ぬと思っているのだろう。
「明人ありがとう。委員長もね。嬉しかったよ。でも明人まで死ぬ必要はないよ。追放されるのは僕だけでいい」
僕は明人の同行を拒み、1人転移陣へと放り込まれる。
国王がニヤリと笑ったのが見えた。
僕は見せしめにされたと思った。
死ぬにしても一矢報いてやりたいが、出来ることは盗むというレベル3のスキルしかなかった。
レベル3がどの程度か知らないけど、高くは無さそうだ。
僕はあまり意味がないだろうと思いながらも国王から何かを盗もうと念じる。
『盗むが成功しました。盗むものを選んで下さい』
スキルの使い方なんて知らなかったけど、成功したようだ。
そして目の前には選択肢が現れる。
▶︎権力
▶︎財力
▶︎王冠
転移が既に始まっているのか自分の体が白く光っているので、僕は急いで選択して盗むものを決めた。
――――――――――――
明人のステータス画面
アキト
レベル:1
天職:魔法使い
スキル:火魔法Lv6
称号:異世界人
――――――――――――
作品紹介
「やりなおし勇者は悪役王女を救いたい」
https://kakuyomu.jp/works/16816700428538774974
「クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです」
https://kakuyomu.jp/works/16816700427057496202
「イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・」
https://kakuyomu.jp/works/16816452220288537950
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
https://kakuyomu.jp/works/16816452219725509832
https://twitter.com/kotarobunko
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