第2話 転移先は森の中

転移させられた所は森の中だった。


「クキャー、クキャー」


バサバサバサ!


聞いたこともない鳴き声が上空からしたので、見上げると巨大な真っ黒な鳥?が羽ばたいて飛んでいった。


え、なにあれ?怖いんだけど……。


僕は震えながらも、出来るだけ冷静になろうと深呼吸する。


ここがどこか分からないけど、さっきのでヤバい所に転移させられたのは分かった。

追放と言っておいて、やっぱり処刑のつもりで転移させたのだろう。


国王から財力を選んで盗んだけれど、持ち物は何も増えていない。

ポケットは空だ。

盗みに成功したみたいな声が頭の中に直接聞こえた気がしたけど、実際には失敗していたようだ。


転移先でお金が必要になるだろうと財力を選んだけど、こんな森の中だとどうせ使えないから、あったとしても意味はなかったか。


生き残るには……


ガサッ!


生き残るには他の生き物に見つからずに森から出るしかないと思った所で、早速見つかってしまった。


目の前には水まんじゅうのような生き物がいる。

黒色の半透明でプルプルと動いている。


スライムというやつだろうか……。


プルプルしていて、丸いフォルムがなんとも愛くるしい。


ただ、可愛いからと油断するわけにはいかない。

危険な生き物かもしれない。


といっても出来ることは盗むことと逃げることしかない。


僕はとりあえずスライムと思わしき生き物に盗むをつかう。

失敗しても、成功しても、その後逃げよう。


『盗むが成功しました。盗むものを選んで下さい』


▶︎スキル

▶︎ATK

▶︎心


国王の時と選択肢が違うな……


ATKってなんだろう?ゲームと同じで腕力みたいな意味合いでいいのかな?

そもそもステータス画面にパラメータの表示はなかったけど……


それから……心?

心臓ってことかな?あの生き物に心臓があるように見えないけど……核みたいなものでも盗めるのかな?


勝てる可能性がありそうなところで僕は心を選択した。


『カース・ダークスライムのテイムに成功しました』


あの生き物はカース・ダークスライムというらしい。

テイムしたって仲間になったってことかな……?

心を盗むって誘惑するってこと?


カース・ダークスライムはぴょんぴょんと飛び跳ねている。

なんだか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか……。


襲ってくる様子はなさそうなので様子を見ていると、足元に寄ってきてスリスリと僕の足に体を擦り付ける。


「可愛いやつめ。名前はあるの?」


聞いてみるけど、スリスリしているだけで会話は成立しない。


「お前は今日からクロだ。クロだぞ」

僕は勝手にクロと呼ぶことにする。

カースとかダークとか物騒な名前のスライムだけど、ぱっと見の印象で名付ける。


僕は森から出る為に、クロと彷徨うことにする。


クロはこんな姿なのに、素早い。

僕の後ろを付いてくる。


ガサガサ!


慎重に進んでいるつもりだったけど、また生き物に出会ってしまった。

今度は紫色の鬼だ。巨大な2本の尖ったツノが生えており、ギロリとこちらを見ている。


あ……終わった。

僕は自分の人生がここで終わりを告げると悟った。


そう思ったけど、鬼はクロを見て逃げ出す。

もしかしてクロの方が強い生き物なのだろうか?

こんなに可愛いのに……。


僕は逃げていく鬼に盗むを使う。


『盗むが成功しました。盗むものを選んで下さい』

当然のように成功したと表示されるな……


▶︎DEF

▶︎言語

▶︎棍棒


さっきとも違う選択肢が現れた。


DEFというのはさっきのATKのことを考えると防御力みたいな意味で合っているだろう。


棍棒はさっき鬼が持っていたやつだと思う。


言語を盗むってどういうこと?


僕は迷った結果、言語を盗むことにする。

本当はDEFを盗んだ方がいいのだろうけど、言語が気になってしまった。


『オーガ言語を習得しました』


選んでいるうちに鬼の姿は見えなくなっていたけど、ちゃんと盗めたようだ。


さらに彷徨っていると、今度は毛がメラメラと燃えている狼に出会した。


その狼もクロを見て逃げ出す。

クロはもしかしてこの森の中でトップレベルに強いのだろうか?


僕はクロを見る。

……そんな風には見えないな。


僕は逃げる狼にも盗むをつかう


『盗むが成功しました。盗むものを選んで下さい』


▶︎SPD

▶︎毛皮

▶︎牙


僕はSPDを選ぶ。

早く動けるようになると思った。


けど、変化があるようには思えない。

劇的な変化がある程盗めていないのだろうか……?


さらに進む。

出口に向かっているのか、さらに奥へと進んでいるのか分からないけど、助けが来るはずもないので歩くしかない。


またしても紫色の鬼に出会う。オーガだ。


「た、助けてくれ……」

オーガ言語を習得したからか、何を言っているのかがわかった。

そして当然のようにクロを見て逃げ出す。


回数制限があったりするかもしれないけど、盗める時に盗んでおこうと、今回も逃げる鬼に盗むをつかう。


『盗むが成功しました。盗むものを選んで下さい』


▶︎スキル

▶︎心

▶︎ツノ


さっきの鬼と選択肢が違う。

ランダムで3つ出てくるのかな?


心を選ぶと鬼が仲間に加わりそうだけど、クロと違って惹かれるものはないので、スキルを選ぶことにする。


「ステータスオープン」


マオ

レベル:1

天職:盗賊

スキル:盗む★★★

称号:異世界人


スキルは増えていなかった。


盗んだスキルは表示されないのか、それとも盗めなかったのか……。


どちらにしても、使えないことには変わりはなさそうだ。


さらに歩く。

喉が渇いてきた。水が飲みたい。


僕は水を求めて歩く。

歩いている間に出会った生き物は皆クロを見て逃げていった。

クロがこの森の頂点かと思えてしまう。


出会った生き物から何かしら盗んではいるけど、効果があったのは言語と心だけだ。

他のは成功しているらしいが、手元には何もない。

物も、スキルも、ステータスも……。


意味がわからないのは、オーガから棍棒を盗んだ時に、オーガが持っていた棍棒は消えたのに、僕の手元には現れなかったことだ。

どこに消えたのだろうか……。


今はクロの他にドリーム・キャットというメス猫も同行している。

何がドリームなのかは知らないけど、ドリーム・キャットという種類らしいので、ユメと名付けた。


ユメは白黒の毛色をした猫だ。


ユメはクロを見て逃げていったのに、心を選んだら戻ってきた。


クロはユメが敵でないと分かるのか、ユメに危害を加える様子はない。


仲間が増えたことは嬉しいけど、そろそろ渇きが限界に違い。


「水……」


限界が近づいている時に、ユメとは違う猫が現れた。

サイズが大きく、猫というか虎くらいのサイズがある。


当然クロを見て逃げ出すわけだけど、この猫から言語を盗むことに成功する。


『キャット言語を習得しました』


「ご主人様、撫でてほしいにゃ」

ユメが何を言っているのかが分かるようになった。


「撫でて欲しかったのか。ほらおいで」

僕はしゃがんでユメを呼ぶ。


「…!?ご主人様の言葉がわかるにゃ。なんでにゃ?」

ユメは不思議そうにしながらも寄ってくる。


僕はユメの頭をナデナデする。


「気持ちいいにゃ。あ、そこにゃ。そこが気持ちいいにゃ」

僕はユメを撫で回す。


ユメを撫でていたらクロも寄ってきた。

ユメに嫉妬しているのだろうか……。僕はクロも撫でる。


ずっとペットが欲しかったからすごく幸せだ。


でも、喉が渇きすぎて死にそう……

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