第43話 私の話⑮ 願い

 あなたの心は、誰かを殺したいと願っていますか。それとも、誰かに殺されたいと祈っていますか。

 そのどちらでもない人は、幸せですよね。


 ……では、その両方を求めている私は?


 子どもと食事を済ませ、ゆっくりと一緒の時間を過ごすと、最後の仕上げをするために夜明け前に家を後にしました。

 彼のオフィスに忘れ物をしたので取りに行く。ということにしてあります。実際、仕事道具をわざと置いて帰っていました。


 熱い雲に遮られながらも、太陽は薄っすらと世界を照らし始めました。

 睡眠薬が切れるのも、そろそろのはずです。不安があるとすれば、彼の体型が大柄なせいですでに薬が切れて落下してしまっていることと、これから落ちるにしても、こちら側に落ちてきてくれるかどうか。


 私の上に降ってきてくれるかどうか……。


 彼を手すりに固定した後で落とした水風船で、大方の落下地点は分かっていました。後は、その場所で彼が落ちてくるのを待つだけでした。

 私の保険金、彼の自殺の被害者となることで慰謝料なども請求出来るはずです。小田切君が仲介してくれれば、彼の奥さんがショウを育ててくれるかもしれません。最悪、小田切君が面倒を見てくれる。



 もう疲れました。



 本当に、弱い人間です。今は、この誤った思考をどこかに吹き飛ばしてくれるパートナーは、どこにもいませんでした。落下を始めたあの人を確認すると、ようやく死ねるのだという安堵感で包まれてしまったのでした。

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