第29話 街づくりを始めよう2

 今日から村人になる人たちは、全部で二五〇人。

 もちろん子供もいるし、女性もいるから全員が建築の労働になるわけじゃあないけど、はじまりの村としてはかなりの大所帯だ。

 だから居住区の確保は最優先だ。


 居住区の設定はちゃんとしないとな。


 場所は、もちろん村となるエリアの中でも高台だ。

 村の北西には河川があって、緩やかなカーブを描いてる。河幅も広く、その水源は雪山だ。水質は最上だけど、大雨が起きれば水害の危険性が高い。

 洪水になったら被害を抑えないといけないからな。

 いずれ堤防を作るつもりだけど、予算が足りないからな。


「良い選択ですね。範囲も十分かと」


 エドウィンも満足げに頷いた。

 あんまり居住区が狭いと治安が悪くなるからな。それに今までスラム街で苦しい思いをしてたんだから、せめて家くらいではゆっくりして欲しい。


「他に注意すべきところはあるか?」

「はい。川を遡るように北へ向かうと森がありますね。森からは離れてますが、魔物の生息が確認されています」

「なるほど」


 スタンピードが起きたら襲われてしまう、か。

 もちろんヴァンやアンネがいるから対処はできるけど、それに追われるワケにもいかないしなぁ。まぁ、森の調査はおいおいだな。


「次に、東ですね。近くに街道の合流地点があります」

「将来的な商業地区の中心点になりそうだな」

「ええ。街道も拡張性がありますし、発展期待度も非常に高いです。ぜひ押さえておきたいですね」

「じゃあ拡張は東の街道を優先ってことで」


 村は発展していけばやがて町となり、都市となる。

 そのたびに規模が拡張され、新しい土地を指定して開発していくんだ。まぁ、よくある街づくり系ゲームだな。


 《デスティネイション・フロンティアサーガ》はそういうとこもガッチリ凝ってるから面白いんだよな。


 ちなみに半自動で発展させていくこともできる。

 俺は本気で全部やったけど。

 だってそっちのが楽しいし、恩恵あるしな。


「南は王都へ続く街道と、平野ですね。農地を開拓するならこちらがオススメですね」

「うん、そうだな。作付けも考えていこう」


 牧畜もできそうな感じで広い。

 俺は素早く計画とプランを立ち上げていく。とりあえず必要物資、特に木材やレンガとかの材料の見積もりだな。

 ゲームの世界なら最初にある程度融通してもらえるんだけど、こっちでもそうらしい。

 エドウィンからもらった材料リストは……えっと、えーっと? なんか俺が知ってる量の十倍は軽くあるんですけど?


「こんなに素早く……勇者さま、すごいです」


 戸惑ってると、アンネがすごい笑顔を浮かべていた。

 傍のヴァンも何度も頷いてる。


「さすが勇者ちゃんね! ほれぼれしちゃうわ。それじゃあ私と勇者ちゃんの愛の巣もこの勢いで作らない? そうね、ちょっと病んでる感じの仄暗い古城がいいわね!」

「アホ抜かせ! こんな開けたとこでそんなもん作れるか!」

「ええ……? 勇者ちゃんは私との愛の巣はいらないの?」

「いらんっ!」


 俺は即答しておく。

 とはいえ、ヴァンやアンネには専用の家を用意するつもりだけどな。新しい勇者パーティの面々なわけだし。


「とにかく今はみんなの家を建てていこう。基礎は幸いにも出来てるから、後は家を建てていくだけだな」

「お任せください。技師は手配しております」

「え? 技師まで?」

「はい。王様からの指示でございますので」


 エドウィンが笑むと、ぞろぞろと大工たちが姿を見せた。

 いや、一目で分かる。

 この人たち、全員【特級】レベルの大工じゃないか! スキルレベルマックスの超人たちだぞ!? 基本というか、王国召し抱えの職人じゃねぇかっ!


「な、なんだかすごそうな感じがします……」

「ええ。一流も一流だわ。覇気さえ感じるわね」


 大工たちの雰囲気に戦きながら、アンネとヴァンが言う。

 そりゃそうだ。

 だってこの人たちは普段貴族の屋敷建築や王城のメンテナンスを担当してる最高の職人集団だぞ。

 いや、なんつう連中を送り込んでくれたんだよ、王様は。


「それではお願いいたします」

「「「合点!!」」」


 エドウィンの号令に従い、一斉に大工たちが作業に入っていく。

 もちろん、人手がいるのでスラム街の住民たちも総出で手伝ってもらう。特に建築系スキルがある人たちは重宝するぞ。


「いやまって、恐ろしい速度で出来上がっていくんだけど」


 信じられないものを見ている……っ!

 いや、ゲームと同じ速度で作っていくってどういうことなの。いや、そうなのかもしれないんだけど。


「見事だわ」

「家の建築は彼らに任せてしまいましょう。他にもやらなければならないことはたくさんありますよ」

「そうだな」


 居住区を建てるのと並行して、商業地区や役場を作らないといけない。最低でも市場も建てないと商人たちもやってこない。そうすると、食料とかも手に入らなくなってしまう。

 二五〇人を食わせないといけないんだ。

 もちろん農地開発して自給自足もしていくけど。


「じゃあ、市場の開設だな。これはそう難しくないから、スラム街の住民たちにお願いしようかな」

「そうですね。農地はどうしますか? 開拓した方が良いと思いますけれど」


 うーん。確かに。

 けど、もうスラム街の住民たちもある程度人員出してるしな。ここはいっちょやりますか。


「俺が土を耕してくるよ」


 勇者のスキルを使えば短時間で一気に耕せるからな。


「あ、私もいきます」

「頼む」

「もちろん私も着いていくわよ」


 俺は何も言わない。ダメって言ってもついてくるだろうからな。

 周囲には魔物の気配もないし大丈夫だろう。一応、監視塔はいずれ建てるけど。

 簡易防護柵も作らないとなー。


「勇者様」


 農地予定地に移動しようと思った矢先、姿を見せたのはシスターだった。


「おそれながら、教会の設立も許可していただけませんか?」


 おずおずとした様子でうかがいを立ててくる。

 ああ、そうだな。

 スラム街の住民たちは信仰心も厚いし、礼拝も欠かしてなかっただろうしな。それに教会はあると嬉しい。

 治安維持にも効果あるし、他にも恩恵がある。何より、スラム街の人たちにとってオアシスになってくれるだろう。


「もちろん。許可するよ」


 即答すると、シスターは嬉しそうに胸を撫で下ろした。


「教会ですね。かしこまりました。現時点では大きい教会は作れませんが」

「構いません。よろしくお願いします」

「じゃあそっちは頼んだ。エドウィン」

「かしこまりました」


 俺は伝えると、農地予定地の方へ向かう。

 村から南、まぁ見事な平原だ。街道にそう形で天然の防風林もあるし、近くには小川が通ってる。ここらへんからだな。

 まずは雑草を除去して、軽く耕してから肥料をまいて、土づくりからだな。

 ゲームだと指示をするだけで農業スキルがある住民たちがやってくれるけど、今はほとんど住居作りに手を取られてるからな。


 でも大丈夫。


 俺、農業スキルもきっちり取ってるんだよな。しかもレベルは七だ。最大値が一〇なので高い方である。

 いや、ある期間限定イベントをこなすためにですね。そこそこ頑張ったんだよ。


「じゃ、はじめるか」

「雑草をむしっていくんですよね?」


 アンネはやる気まんまんだ。

 どうもアンネにも農業スキルの適性があるらしい。


「私、こういう土臭いの苦手なんだけど」


 ちなみにヴァンにはなさそうだ。

 無理にさせると土作りに時間がかかる上に質が悪くなるから、今回は見学というか見張りだな。


「大丈夫。俺が耕すから。伝播を頼む」


 俺が腕まくりをして、狙いを定めた時だった。

 気配が生まれた。

 無邪気にして、強烈。俺に遅れてヴァンも感づき、最後にアンネも気づいて後ろを振り返る。


 そこにいたのは、体躯には少し合わない大きい鎧を身に着けた、赤薔薇色の髪をみつあみにまとめた少女だった。


 その背には、大剣の中じゃ最高レアの《大聖剣》が光を放っていた。

 言うまでもない。


「――《剣聖》っ」


 俺が称号を呼ぶと、《剣聖》は微笑みながら頭をぺこっと下げてきた。


「お久しぶりです、勇者様」






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