第28話 街づくりを始めよう
一応探知は行ったが、《大魔導師》の行方は分からなかった。どうやらかなり遠くへ《転移》したらしい。
魔法スキルによる《転移》は消費スキルポイントによって移動距離が変わる。いかな《大魔導師》と言えど、単体での移動距離はしれてるんだけど……。
魔王化したから、人間の限界を超えたのか。
シナリオをプレイしてたから分かるけど、魔王化するとスキルポイントの上限が跳ね上がる。
それが《大魔導師》にもたらされたなら、かなり遠い場所まで移動できるはずだ。
「勇者さま……あの人は……」
「魔王になったな、確実に」
俺は《闇の波動》をオフにしながら答える。
身体にまで抗えない影響を及ぼしたのは、魔王化の末期だったはずだ。シナリオじゃあすでに主人公は魔王化していたが、見た目が変わったのはシナリオ後半だしな。
そう考えると……。
もう助からないと思う。
《闇の波動》の制御を失っているだろうし……それにしても驚いた。まさか《闇の波動》が共鳴するとはな。
それで《大魔導師》の持つ《闇の波動》が一気に加速し、魔王化が促進してしまった。
「勇者ちゃん!」
考えていると、ヴァンが闇を纏いながら姿を見せた。
相当焦っている様子だった。
「いったい何があったの? 今、私の中の何かが大きくうずいてしまったわ。まるで、魔王様が再臨したかのような……」
「したかのような、じゃなくてしたんだよ」
「やっぱり……でもおかしいわ。魔王様よりずっと弱弱しいのに鮮烈だったわ。まるで強引に引き起こされたかのような感覚がしたわ」
ヴァンは困惑している様子だった。
いや、その感覚の鋭敏さは驚いた。純血の
「本来なら私たち魔に属する種族は、その代表たちが祝賀に駆け付けるものなんだけど」
……そういえば、そんなイベントもあったな。
思い出しつつ、俺は話しの続きを促す。
「代表たちも魔王と認めていない感じね」
「そこまで分かるものなのか?」
「あー、私、こう見えても純血じゃない? だから種族のトップ……代表一族なのよね。だから駆けつけるとしたら、当然私にも声が掛かるってわけ」
お前それだけ上位勢だったんかい。
内心でツッコミをいれつつ、そういえばそんなイベントもあったなって思い出した。
確か、種族同士でも関係性があるから、どれを引き立てるかで色々とイベントが変わったんだった。
うわメンドくさっ。
絶対魔王になりたくない理由がまた増えてしまった。
俺は呆れつつ、ヴァンを見る。
「今回はその動きがないってことか?」
「普通ならいのいちに駆け付けるものだからね。魔王様への忠義を示すために。もっと弱い種族は動いてるかもしれないけど、少なくとも大物種族は動かないと思うわ。魔王様っていうのは、降臨した瞬間からその力を示さないといけないわ」
……魔王は魔王でめんどくさいな。
いやまぁ、完全な実力世界だしな、魔の世界ってのは。
「魔王って実はたいへん?」
「ええ、そうね。魔王様は孤高の存在よ。だから、何よりも強くなければならないわ。ついさっき感じた波動は確かに強かったけれど、歴代の魔王様とは比べ物にならないわ」
「だろうな」
強引に引き上げられて魔王化したんだ。言ってしまえばなりそこないだ。
「探せるか?」
聞いてみるが、予想通りの答えが返ってくる。
「無理ね。だいぶ遠いところまでいったみたい。眷属での探索もたぶん無理よ」
「そっか」
追いかけられないんじゃどうしようもないな。かといって探さないワケにもいかない、か。
冒険者ギルドに調査依頼かけておくべきか? あまり期待はできないけど。
「で、ヴァン。無事に戻ってきたってことは《英雄》を倒したんだな?」
「ええ。あ、命までは奪ってないわよ? 命までは。二度と戦おうって気にはなれないと思うけど」
「何したんだ……」
「え? 語る?」
「やめとく」
こういう部分は
ま、しっかりやってくれただろう。シェリルみたいに再起不能になったくらいだろうし。
それに……もう眠い。
「じゃ、とりあえずの危機は去ったってことだな」
「え? ああ、そうね。休んでいいわよ、勇者ちゃん」
「後は私たちが頑張りますよ」
「すまん。森を抜けたら……起こして……く……れ」
あー、無理。おやすみ。
◇ ◇ ◇
苦しい。熱い。痛い。憎い。恨めしい。
あらゆる負の感情がめぐり、彼女の身体を貫いていく。そのたびに身体が焼かれ、変異していく。
自分の中の何かが変わっていく。
激痛にも近い感覚に悶え、《大魔導師》は息を吐く。
異常な熱が身体中を駆け巡り、また首をかきむしる。
「くそっ……《闇の波動》を押さえたはずなのに! どうして……意識、が……っ」
乗っ取られそうになってしまうのだ。
自分の内側から黒い情動に突き動かされ、《大魔導師》は大きく背中を反らす。
死にそうになる。消えそうになる。
「この苦しみは、誰のせい、誰のせいだ……このっ、ああっ」
頭が痛い。頭が割れる。
「あああああああああ――――――――っ!」
◇ ◇ ◇
「こ、ここが、町……?」
何日もかけてやっとたどり着いたのは、文字通りすたれた町――のはずだった。
いや、ナニコレ?
俺が知っているのは、廃棄された町のはずだったのに。
なんかもう色々と基礎ができてる!?
何がどうなってるんだ、これ。
「あ、お待ちしてましたよ。町の新しいマスター」
「俺?」
「ええ。そうです。あ、紹介が遅れました。私は技師のエドウィンです。町づくりのサポートをさせていただきます」
…………あ。そっか。
ゲームじゃ町づくりの時は教えてもらったなぁ。サポートキャラってやつだ。まさかここにもいるなんて。
でも、だ。
それにしたって、ちょっとこれはビックリだな。
現状は町になる前の村の状態だ。
「ありがとう。でも聞きたいんだけど、これは?」
「はい。王様から命令を受けまして。最低限のことは事前に済ませておこうと思いまして。勇者様はすでに一度町を作られたことがあるようですし」
なるほど。
チュートリアル省略ってワケか。それはありがたい。
「では、そろそろお願いします」
「中心点をまず据えるんだな」
「はい」
町を作る場合、まず決めるのは中心点だ。といっても、町の中央じゃなくて、町の中心。つまり主である俺の館の場所ってことだ。
とはいえ、もうほとんど決まってるようなもんだけど。
「以前の町の造りをそのまま活用してるんだな」
「はい。その方が効率的だと思います」
「俺も賛成だ」
返事をしつつ、俺は中心点を決める。
ゲームの世界でも、数か所ある中から一つ選ぶだけだしな。
俺は過ごしやすそうな地域を選んで決める。
「館はどのような造りにしますか?」
「いや、村の住民たちの住居を先に建てたい」
長旅でみんな疲れてるからな。
「しかし、先に館を建てないことには……」
「問題ないよ。持ってくるから」
俺は返事をしてから《転移棒》を取り出す。
即座に自宅へ戻り、自宅ごとまた転移する。それを設置して、はい完了。
すっごいお手軽だしズルい感じがするけど、まぁ。
「す、すごいですね……」
エドウィンも顔を引きつらせている。
その後ろでは、アンネとヴァンがぽかーんとしていた。まぁ、いきなりこじんまりとはしてるけど立派な家が現れたらそうなるわな。
ちなみにこの家は俺の家だから、いくらでも拡張できるしな。
「よし、これでオッケーだな。じゃあ早速居住区の配置に取り掛かろう」
俺は腕まくりしながらそう伝えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます