第22話 見えた救いの道
「恐れ多くも陛下、私の現状はご存知ですか?」
膝を折りながら、俺は問いかける。
「無論。世界を救った後はすっかり堕落し、そのていたらくぶりから勇者パーティからも追放され、隠遁していたと」
実に端的な事実である。
けどそこに《怠惰》はやはり存在しない。俺がこれを受けたのもバグなのだから、認識そのものがないんだろうと思う。
信じてくれるのは、アンネやヴァン、マキアといった実際に目の当たりにした仲間だけだ。
だから今ここで国王に訴えたところで、あまり意味はない。
むしろ不敬だと叱られて拘束されるまである。
「しかし、ワシには到底信じられぬ。今まさに、お主は我が愛する娘を危機から助けただけでなく、自分自身を追放したはずの町にさえ情けをかけて助けようとしているではないか」
国王はまっすぐ俺を疑いない眼差しで見てくる。
害意も何もないその目線から、俺も目を離せない。
「その行動は、紛れもなく勇者のもの。ワシはまだお主を勇者だと思っておるよ。だから頼むのだ」
「国王陛下……」
じわ、と泣きそうになった。
ちょっと嬉しい。
「人手が必要だろう。スラム街の住民たちをごっそり連れ立ってもらって構わんぞ」
「いいんですか?」
「無論。あの町のスラム街は成り立ちが特殊である。しかし、あの町でスラム街になっている限り、救済は果たせないだろうとも考えていてな……ずっと何かしらの手は打ってきたが、もうそうするしかないと思う」
国王の言うとおりだ。
あの町でスラム街の扱いは悪い。もちろんこれまで何度か救済策が講じられてきたし、今でも残ってる制度もあるんだけど、全然足りてない。
それでも暴動が起きないのは奇跡なくらいだ。
もともとあの町はいろんな種族の人たちが集まってる歴史があって、肩を寄せ合ってきた。だから争いは起こりにくい。
けど、そうだな、そうかもしれない。
本当にあの人たちを助けるなら、スラム街というカテゴリそのものから外すべきなんだと思う。
「陛下がおっしゃるのであれば、お言葉に甘えます」
「そうか! やってくれるか!」
「はい。スラムの人たちは助けたいと思ってましたし」
「ありがたい。であれば資材等の手配もこちらで可能な限り便宜を図ろう。それと、どのような町にしていくのかもお主に全て一任する」
ずいぶんと破格な待遇だな。特に資材関係の融通は嬉しい。
「ただ、王都に近く、いずれは北の要衝にもなってもらいたい。町の規模に応じて街道も大きくしえいきたい。だからこそ活気ある町にしてくれ」
「かしこまりました」
それはこっちも願ったり叶ったりだ。
よし、これでスラム街の人たちを全員助けられるぞ。ただ、それだけ苦労はお願いするけど……引き受けてくれるといいが。
俺は最後に軽い雑談をして謁見を終えた。
町がレベルアップしたのを確認して、すぐに転移して戻る。
入り口に立ってから中に入ると、問題なく出入りできた。
ふう、と俺も一息安堵する。
「おい、聞こえてるな。《英雄》に《大魔導師》!」
俺は声に魔力を乗せて届ける。
すると、すぐに二人はやってきた。二人のうちどっちかが町の管理者なのだから、レベルアップしたことは伝わっているはずだ。
だからすぐ駆けつけてくると踏んでたんだけど。
思惑は思いっきり当たったな。
「ええ、聞こえてますよ。そして町に入ってこれたということは、問題を解決されたんですね」
少し固い笑顔で《大魔導師》は言ってくる。
精一杯の虚勢だな。
思いっきりイジってもいいんだけど、時間の無駄だ。
「ああ、そうだ。解決したぞ。シスターを返せ」
「彼女なら地下の牢屋で拘留しています。お好きにどうぞ」
さも当然のように言われ、俺はイラっとした。
いや、フツーはつれてくるもんだろ。そして謝るもんだろ。
パーティ組んでた頃から思ってたけど、この《大魔導師》はさらにその悪癖が加速してるな。
「ずいぶんと失礼なんだな?」
さすがに咎めるが、相手に悪びれる様子はない。
「ごめんなさい。これだけ早く解決するとは思ってなくて。牢屋の主には伝えておきますから。私が迎えにいくより、顔見知りのあなたたちが行く方が彼女も安心するでしょう?」
いけしゃあしゃあと、よく口が回る。
慇懃無礼はなはだしいな。
俺は思わず睨みながらも、呆れたせいか何も言葉が出てこなかった。単純に《怠惰》が影響を出し始めてるってのもある。
うう、ダルくなってきた。
「あ、そ。じゃあそーさせてもらうぞ。いこう、アンネ、ヴァン」
俺は引き下がると、とっとと牢屋で向かう。
まずはシスターを解放して、そこから新しい町への移住について相談しよう。まずはみんなの同意を得ないといけない。
俺はその考えだけで、牢屋に向かう。
ここはあんまり好きじゃない。
地下だからじめじめしてるし、衛生環境も悪い。
「シスター!」
迷路みたいな構造の中を探していると、アンネが発見した。
牢屋の中でも一番奥の方だった。
ったく、用意周到なことで。
「大丈夫?」
予告通り、カギは開けられていた。
岩をくりぬいただけの荒々しい空間に入って、俺たちは鎖につながれたシスターへ駆け寄る。
衰弱してるけど、まだ大丈夫だな。
すぐに回復させてやらないと。
家に戻れば、倉庫に薬草がある。まずはそれを飲ませて――
「ちょっと!」
俺の考えを、ヴァンの怒声が遮る。
振り返った直後。
重々しい音を立てて、牢屋のドアが閉められた。っておおい!?
しかもご丁寧にカギまでかけやがって! 何してくれてんだ!
慌てて駆け寄るが、ビクともしない。
「おい! 何やってんだ! 俺たちはシスターを迎えにきただけだぞ! 聞いてないのか!?」
見張りの騎士に叫ぶと、騎士は鼻で笑い飛ばす。
「ああ? ああ、聞いてるぜ。犯罪者がやってくるって」
「犯罪者!?」
「お上からそうお達しなんだ。ここで大人しくしてるんだな」
騎士はめんどくさそうに言うと、さっさと踵を返した。
なっ……。
これ、つまり罠か!?
なんて古典的っ! いや、マジかよ!
「いったい何の罪があって、私たちを閉じ込めるというのかしら」
ヴァンが怒りを孕ませながら問うが、返事はやってこない。
まぁ、いくらでもでっちあげられるからな。
そういうことか。最初っからそういうつもりだったのか。
「ゆ、勇者様……申し訳ありません……」
「シスターが謝ることじゃないよ」
弱弱しく謝るシスターに言ってから、俺は息を吸い込む。
上等だ。俺にガチでケンカ売ってきたってことだろ?
カギのかけられた地下牢は、自動的にスキルの使用が著しく制限される。すっかり忘れてたけど。
でもそれは、あくまで牢屋に閉じ込められた状態で且つスキルだけだ。
《デスティネーションチャンバー》までは制限されない。
「ただ、ここからさっさと出るぞ」
「勇者さま、出られるんですか?」
「ああ、かなり荒っぽいけどな!」
相手は俺が脱獄するなんて思ってもいないだろう。
スキルが使えないなら一般人と同じだからな。けど――。
「――《闇の波動》」
俺は躊躇なく、それを発動させた。
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