第20話 姫を助けよ!

 俺が動けなくなったことに、アンネがすぐ気づいた。


「勇者さま!?」

「いい、か、ら、馬車をっ……!」

「分かったわ」


 うっ、眩暈までしてきた。

 一気に反動がきた感じだな……っ! 本当にタイミングが悪い!

 草陰から出たタイミングで、俺は足が完全に止まる。

 代わりに、疾風のようにヴァンが仕掛けていく。さすがに道は日差しがあるから全力とはいかないようだが、全身黒ずくめのおかげで影響は低いらしい。

 次々と野盗たちを倒していく。


「ちい、邪魔すんじゃねぇっ! センセイっ!」


 頭領らしい野党の一人が叫ぶ。

 すると、背後に構えていた魔導師が前に出た。って、この気配は――ヤバいっ!


「アンネっ!」


 俺の渾身の声に反応し、アンネが馬車とヴァンを守るべく立ち塞がった。直後、魔導師の放つ《爆轟》が炸裂し、地面を砕きながら一行に襲い掛かるっ!

 って思った以上の威力だな!?

 野盗なんかに雇われる程度のスキルレベルじゃねぇぞ!


 がががががっ!


 手入れされているだけの道が割れ砕け、弾丸になった土塊が次々と襲っていく。

 さすがに足元からの一撃を受けては、アンネもカバーしきれない。


「――け、《堅牢》っ!」

「《爆轟》っ!」

「きゃあっ!」


 足元からさらに爆発が起こり、アンネの身体が浮き上がる!


「アンネちゃんっ! ちいっ!」


 まずい、ヴァンも動き辛いか!

 さすがにあの土塊の弾丸が爆裂する中、ヴァンの装束も破れるかもしれないからな。


 くそ、仕方ないな。


 俺は意識を失いそうになるのを我慢して、自分の足に思いっきり石を落とす。

 鈍い音を立てた直後、激痛が走る。


 っっっっってぇ―――――っ!


 叫びそうになるのを我慢する。でも涙目になる。

 ああもうっ! 本当に《怠惰》はウザいなっ!!


 けど、この痛みの覚醒も少ししか持たないっ!


「アンネっ! 《伝播》っ!」

「はいっ!」


 瞬間、アンネにスキルが《伝播》した。

 身体が軽くなる中、俺は野盗どもに突っ込んでいく。


「《剣聖》――《英雄》――《賢者》っ!」


 俺は三冠スキルを発動させる。


「《光の聖剣》っ!」


 虚空で剣を抜き放ち、掌に光の剣が生まれた。

 俺はそのまま野盗どもへつっこみ、一振りで三人を蹴散らす。よし、これで頭領と魔導師への道が開かれた。


「《爆轟》っ!」

「《反射》《ダブル》《絶壁》っ!」


 魔導師が再び攻撃を仕掛けてくる。

 けど、それはもう三回目だっ! すぐ見破れるっ!


 スキル発動のタイミングに合わせて、俺は《反射》を発動させる。


 発動タイミングが難しいこのスキルだけど、三回目ならタイミングなんて簡単に掴める。ましてスキルの単体使用な上に、なんの対策もしてないんだからな。

 せめて《爆裂魔法》と同時使用だったら違ったのにな!


「なっ、地面が――っ!?」


 《爆轟》の威力が地面に伝播するが、俺の《鉄壁》に阻まれて炸裂しない。

 それどころか、《反射》が効果を示して相手に《爆轟》が発動、さらに《ダブル》で二重発動した。


 凄まじい勢いで、野盗と魔導師の足元が爆轟する!


「「ぎゃああああああっ!!」」


 悲鳴を残し、爆発に巻き込まれて二人が吹き飛ぶ。

 残った野盗どもは、ヴァンによって叩き倒されていく。よし、これでオッケーだな。


 俺はスキルを解除し、アンネも《伝播》を止める。


 とたん、俺の全身が重くなった。

 うぐっ……いつもこの感覚、イヤになる……。



 ◇ ◇ ◇



「さて、あの勇者はどうにかしてくるのかな?」


 町の宿の一等室で、《英雄》はお茶をすすっていた。

 その全身がうっすら汚れているのは、町全体を覆う不可視の壁へあらゆる攻撃を仕掛けたからだ。

 《英雄》と《大魔導師》の二人の連携攻撃さえ、ビクともしなかった。


 危うく町に被害が出そうになるくらいだった。


 だが、何一つダメージが通った様子もない。かといって、吸収しているわけでも弾くわけでもない。

 ただ純粋に干渉を拒絶している。

 二人はそう感じ取ると、破壊を諦めた。


「さぁ? あの堕落勇者じゃあ、何もできないと思いますわ。しかし、問題はこの壁です」

「勇者パーティの二人が揃ってもどうにもならないんだからな。武力じゃ無理だろう」

「となると、知力で挑むのですか? シェリルはもうここにはいませんが」

「あんな二軍の《賢者》の知力なんて何の役に立つんだよ」


 小ばかにしてから、《英雄》はお茶を一気に飲んだ。


「そうでした。でも、どうにかしないといけません。町の備蓄は十分あるようですが、三カ月くらいが限界ですね」

「それだけあれば十分だろ」

「十分、とは?」

「町を変革する。まずはスラム街を切り離して、別地区扱いにするんだ。その上で敵対、殲滅。後は更地を利用して新しい地区にする。簡単に整備したら町を拡大しよう。そうしたら町の形が変わって、何かしらの変化があるはずだ」

「なるほど? しかし、そうしたら町のレベルが下がってしまいますわ」


 《大魔導師》の指摘は正しい。

 例えスラムであったとしても、町を切り離すとなると一時的に規模が小さくなり、強制的にレベルが下がる。

 それに投資もかなりの額になるだろう。


「飢え死にするよりかはマシだろ。ついでにゴミも掃除出来て一石二鳥だ」

「スラムのあそこは、元々一等地になりうるエリアですものね」

「ああ。何を勘違いしたか、《勇者》は救済しようとしてたけどな。スラムの救済は簡単じゃないし、時間だってかかる。アホらしいよ」


 その計画も、勇者が堕落したことで中断。さらにパーティから追放したから完全に瓦解した。

 シェリルも潰そうとしていたようだが、失敗。


「そうね。でも、シェリルを倒したのは事実です」

「力が戻ってきてるってか?」

「あのクレーターを見せられると、そう疑いたくもなってしまいますわ。あれは間違いなく隕石です」


 隕石落とし――《英雄》も知っているが、古代魔法にカテゴライズされる超高等魔法だ。

 もちろん《英雄》も《大魔導師》も使えない。

 だが、あの勇者なら――三冠を持つ勇者ならあり得る。


「けど、俺たちと会ったあの勇者は堕落そのものだった」


 当時の覇気など見る影もない。

 とても勇者がやったとは信じられなかった。


「ええ。ですから、何かの条件を満たしたら力を発揮できるのかもしれません」

「だとしても、常に使えないなら意味がないよ」

「ええ。それに彼はもう勇者ではありません。何せ、勇者パーティから追放しているのですから」


 にっこりと《大魔導師》は笑う。


「何より、魔王亡き今となっては勇者など必要としません」

「教団らしい考え方だな」

「ええ。過ぎたる力は争いを呼びますから。私たちは常に世界平和を見据えております」

「……だから、勇者はとことん排除して、シェリルに町を支配させてたんだな。で、ダメになったら俺に町をどうにかしろって押し付けるのか」

「ええ。この町は目下、魔物の群れに襲われるなど、平和には程遠い状況ですから。優秀な戦力と指導者は必要です」


 当然のように言われ、《英雄》は肩をすかす。


「せいぜい粛清されないように頑張るよ」

「ええ、励んでください」


 満足そうに《大魔導師》は頷いた。

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