第10話 アンネの特訓
町の発展イベント。
ゲームをクリアするにおいて、重要な要素の一つだ。
町を防衛したり、町の人たちが困っていることを解決したりすると、町の発展レベルが上がる。町が大きくなるんだ。
イベントが進むと自分で町を本拠地として、管理できるようになる。
ド田舎な村でも、頑張れば大きい町に発展させられるのである。
当然恩恵はあって、より優れた武具を買えるようになったり、店が増えたりする。さらに、自分が所属する勢力によっても発展具合が変わったりもする。
俺の場合は無所属だから【市民】所属になる。シェリルの場合なら【教会】になるはずだ。
ってことは、教会関係の設備がグレードアップするんじゃねぇか?
「町の発展を祝うパレードなんだろ、あれ。だったら悪いことばっかじゃないぞ。シェリルは教会所属だからな。教会への予算が増えたり、施設が上等なものになったりするぞ」
俺がそう言うと、アンネの顔が分かりやすく明るくなった。
「じゃあ、スラム街のシスターたちも、少し楽になれるんですか?」
「教会だしな」
「やったー! すぐ教えてにいきたいです!」
「うん。いいんじゃないの。じゃ、外に出るか。そろそろ家にも帰りたいしな」
「あら、ここが家じゃないの?」
「宿だよ、ここは」
ここの固くて薄い布団じゃなくて、自分の家の柔らかいヤツがいいんだよ。
俺はそう返事をして、パンをかじった。
◇ ◇ ◇
家に戻りたかったのは、もちろん布団に入りたかったからだけじゃない。ちゃんとこれからのことを考えて、だ。
俺の目的は《闇堕ち》ルート回避だ。そのためには、《怠惰》をどうにかしないといけない。そのためにはスキルを奪うギフトを持つ人を探す必要がある。
となると、当然世界のあちこちを旅することになるし、それだけ危険な目にもあいやすい。何より、時間がかかる。
そのためには、アンネのギフト強化は欠かせない。
現状、俺の戦闘継続時間は最大で一〇秒間。それもアンネと俺の状態が最良で、である。それでもアンネ一人だと伝播に限界があり、俺は全力を出すことができない。
ちなみに使った後、疲労度にもよるけど数時間から一日以上は俺は寝込んでしまう。
つまり、短期決戦しか許されない。
かなりのハンデだけど、何もできないよりはるかにマシだ。
ともあれ、今はアンネを鍛えることだ。
「ギフトを鍛えるためには、やっぱりギフトを使うのが一番だ」
自宅前のただ広いだけの草原で、俺は腕を組みながら言った。
やっぱり経験値がもっとも手に入る方法がそれだ。
実戦経験が一番といえば一番なんだけど……アンネのギフトの特性を考えるに、あまり効率的じゃない。
「つまり、伝播すればいいんですね」
「うん。そのためにはスキルを覚えてもらおうと思う」
俺は毎日稽古に付き合える状態じゃない。
もちろん可能な限り、というか気力が続く限りは面倒みるつもりなんだけど。
それでも自主練もできるようにしておきたい。
「スキルを覚えるんですか? あの、私そういうのはじめてです」
「ああ。ちゃんと解説するよ」
不安を少し見せるアンネに微笑みかけて、俺は指を三本立てた。
「スキルの習得は偶発、継承、伝授の三種類に分かれる。偶発ってのは、たまたま条件にマッチしたことで覚えるスキルだな。特定の魔物を倒した場合も含まれる」
もちろん偶発習得なんて期待しない。いや、ゲームの知識はあるから狙おうと思えば狙えるんだけど、乱数介入が強すぎて効率が悪すぎるんだよ。
特に魔物を倒す場合。
「継承っていうのは、血族だったり、親子だったり。種族だったりの縁があるか、特定の適性がそろっている状態で行える特殊な方法だ」
これは言い換えるならば分割譲渡だ。
自分の持っているスキルをLvごと渡すというもので、例えば《剣技》Lv七があったとして、それを息子にLv三分譲渡できる。自分のLvは四になる。
特定条件の達成が必要だが、通常の取得条件より軽いのがメリットだ。
ただし、特殊な適性が必要な上、継承可能なスキルも限られる。
もちろん《怠惰》も継承不可能だ。くそ。
「最後に伝授だな。これが今回やろうとしてることだ。自分が持っているスキルを他人に教えることで習得速度を早める目的がある」
ちなみに他の方法だと、大都市にだけ存在する《スキルショップ》でバカみたいに高い金を払って習得するものがあるが、これは論外だ。
伝授する方が圧倒的に効率的だ。
「俺が持ってるスキルで簡単なやつをいくつか教えるから、それを周囲に伝播しまくって練習してほしい」
「なるほど、分かりました!」
「あら、それなら一石二鳥のスキルがあるわよ」
名乗り出たのは、真っ黒な恰好をしたヴァンだった。日傘まで広げて、太陽光線を徹底的に遮断している。
純血の
そうまでして表に出てまで付き合う必要はないんだけど、ヴァン本人が面白そうだからと付いてきたんだ。
「一石二鳥?」
「ええ。今のアンネちゃんに一番必要なものだと思うわ。だって《ライフアップ》だもの」
ぴきっ。
俺は一瞬硬直した。
「え? マジ?」
「ええ。本当よ。私は純血なんだから。それくらい持ってるわよ」
さも当然かのように言われ、俺は記憶を掘り起こす。
確かに純血の
俺もそれを求めて鬼のように狩りまくった記憶がある。三ヶ月間、ただひたすら狩りまくってやっと手に入れた。たぶん一日で一〇〇体は軽く始末してたから、とんでもなく低い確率なんだよな。
「あ、あの、《ライフアップ》って……?」
「最大HPを上昇させるスキルさ。超がつくぐらいのレアスキルだよ。俺たち人間にとってはな」
このゲームでは、種族によって伸ばしやすいステータスは異なる。
人間族の場合、最大HPを伸ばすのはかなり大変で、常にHP管理に気を使わないといけない。その分色々と器用だったり、覚える魔法の範囲が広かったりするんだけど。ともあれ、最大HPをお手軽に伸ばせる《ライフアップ》は貴重なんだ。
俺はヴァンを見る。
ヴァンは自信ありげに頷いてみせた。
たぶん、伝授にも慣れてるんだろう。
「勇者ちゃんの《怠惰》を受け取った時、アンネちゃんはリスクとしてHPを消費してしまうわ。つまり、最大HPを上昇させられるということは、それだけ《怠惰》を受け止める時間が増えるってことよ」
「……! それって!」
「ええ。それだけ長く勇者ちゃんが戦えるようになるってこと」
「やります! ぜひ教えてください!」
「良い目だわ。もちろん。このヴァンちゃんが教えてあげるわっ!」
ばさぁっ! とカッコつけてヴァンはローブを剥ぎ取って──っておい!?
「きゃあああああああああああっ!?」
じゅわあああっ!
蒸発音を立てて太陽光線を浴びたヴァンが灰へ還っていく!
「うわあああああっ! ヴァンちゃんが灰にっ! ゆ、勇者さまーっ!?」
「《黒魔法》《霧》《濃密》っ!」
素早く俺は《怠惰》を伝播してもらい、魔法を展開する。
瞬時に濃霧が展開され、太陽光線を遮断した。
「カッコつけようとして何滅びかけてんだお前はっ! バカなの!? 救えないバカなの!?」
「ふっ。乙女にはね、命を賭けてまで見栄張らないといけない時が、ある、のよ……」
「ウソつけ単純に昼間だってこと忘れてただけだろ。あと乙女言うなゴリマッチョ」
「物理的に死にかけてるタイミングで心を殺してくるのやめて?」
真顔で言われ、俺はため息をつく。
大丈夫なんだろうか、果たして。
っていうか、ダルくなってきた。あー……
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