おっとり
「ちょっと! いつまでここにいるつもり?」
こんなことで時間を使わないでほしい。はっきり言って、時間の無駄だ。
「あと、もうちょっとだけ」
彼はこっちも見ずに言った。嘘か、本当か、分かる嘘はやめてほしい。
「さっきもそう言ってた!」
お菓子売り場で、大人が二人ずっといるのは迷惑だろう。他のお客さんが買いたい商品があっても、私たちがいたら買えない。そうなったら申し訳ないし、お店の損失にもなる。
「ごめん、ホントに最後だから」
「次にもうちょっとって言ったら置いてくからね!」
お菓子なんてお腹に入ればみんな同じなのに、そこまで悩むものなの? 私には理解できない。
何を買うとも言わないでずっと粘っている彼に、気の長い私もいいかげん我慢の限界だ。
だから、こっそり彼を置いていくことにした。いくらなんでも私がいなくなったら探しに来るはず。というか、探しに来なかったらその時は縁の切れ目だ。
カフェでコーヒーを一杯だけ頼んで、今日買った雑誌を流し見する。すぐに飽きて、スマホを見ると、彼からのメッセージは一件も来ていなかった。来ていたのは登録していたメルマガや、急ぎで返信する必要のない同僚や上司からの仕事のメッセージ。
大した用もないのにスマホをいじってしまうのは現代人の悪い癖だ。そうこうしていたら、彼は「ごめんごめん」なんて言いながら、少し息を切らして、のんきに歩いてきた。
「君と食べたいのを選んでたら、時間かかっちゃってさ。だから、全部買ってきた」
そう言って、彼はエコバッグいっぱいに詰め込んだお菓子を私に見せて微笑んだ。馬鹿みたいだ。けど、そんな彼が嫌いじゃない私がいた。
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