熱血

「あんたなんかもう知らない!」

 不機嫌なしわを眉間に作って、心にもない言葉を彼に怒鳴った。

 彼は「そうか」と言ったっきり、しーんと黙って、私を追いかけてはこなかった。

 おかしい。いつもはうざったいくらいなのに。具合でも悪いのかな、気に障ることをしちゃったかしら。もしかして、いいかげん愛想が尽きたのかも。いつもと違う彼の態度に変な憶測ばかりしてしまう。

 そんなつまらない心配を振り切って、家への帰り道を急いだ。二人で歩いた交差点も一人で歩くと妙に静かで、いつも買い食いしたコンビニの前を通っても何かを買う気にはならなかった。

 いつも賑やかだったのは彼がいたからで。金欠のときに二人で半分こしたあんまんが美味しかったのは、やっぱり彼がいたから。やっぱり、青春の恋は酸っぱくて苦い。まだまだ青い恋だったんだな、そう思った。

 お母さんが「どうしたの」なんて言うのを無視して、二階の自分の部屋で泣いた。

 真っ赤に泣き腫らした顔を、誰にも見せたくなかった。

「おーい!」

 彼の声が窓の外から聞こえた。彼は私が顔を見せるまで「おーい!」と喉が枯れるほど叫び続けた。

 窓を開けて下を見たら、彼は鼻をずるずるすすって、「泣かないで! どんなメイクより、君は笑顔がよく似合うよ!」なんて言いながら変顔をしていた。

 私が「当たり前じゃなーい!」なんて言ったら、彼は「だから、笑って」って笑った顔の見本を見せるように笑った。

 そんな彼が愛おしくって、おかしくって、誇らしくって、笑った。

「そんな君が好きだ!」

 彼は近所迷惑な大声で愛を叫んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る