天然

 握られた手があったかい。汗ばんだ彼の手は、私のよりずっと大きい。

 男の子なんだなあ。当たり前のことを今さら思い出した。

「手、荒れてるね」

 彼は言った。そりゃあ、家の仕事をやっていれば自然と荒れてくるものだけど……。

「言わないで」

 ひび割れた指先、カサカサの手のひら、真っ赤になった手の甲。そんなもの、みっともなくってしょうがない。

「荒れてる手が、僕は好きだよ」

「荒れてる、荒れてる、って何度も言わないで」

 なんで、わかってくれないの? と問い詰めたい。

「なんで?」

「恥ずかしいから」

 こんなこと言わせないで欲しかった。大好きな人に言われたくもないことを、よりにもよって家の外で言われたから、恥ずかしくって恥ずかしくってたまらない。穴があったら入りたい。彼のいないところで一人になりたかった。

「荒れた手なんかみっともないでしょ」

 それでも彼の手は私の手を優しく包んだまま離さなかった。

「みっともなくなんてないよ。だって、これは君が頑張ってる証だから。僕は君の手がとっても好きなんだ」

 こんなことを言う人だから、ずるい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る