セクシー

 彼は寝ぼけた顔で、私のほっぺたにキスをした。

 まさかそんなことをされるとは思わないわけで。

 一気に顔に熱が集まった。そんな顔を見せたくなくって、そっと、彼から顔をそらした。

 「おはよう」と彼は言う。

 私も、おはよう、と言いかけてやめた。声ががらがらで、とてもじゃないが、彼に聞かせられるような声じゃなかったから。

 彼のにおいに私の使っているボディソープのにおいが混ざっていて、恥ずかしい。

 彼の体温が伝わってくる距離。彼の呼吸が数えられるほどの沈黙。

 なるほど、好きだ。隣に彼がいる。その幸せは、誰にも渡したくない宝物のようだった。

 私以外の人とこんなふうに朝を迎えたことがあるんだなあと思うと、不思議と目が湿っぽくなってくる。

「すっぴんだからあまり見ないで」

 嘘と本音でごちゃごちゃの顔を、ぐちゃぐちゃのブランケットで隠した。でも、彼にすぐにはがされる。

「裸の心の君を愛してるんだ」

 彼は私の耳にささやく。

 耳が真っ赤なのがバレませんようにと必死で祈った。

 うっすら生えた彼のひげがほっぺたに刺さって痛い。

 それよりも、いっしょにいられることが幸せだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る