わんこ

 朝が来て、朝日が彼に微笑んだ。

 窓を開けたら、寒い風が飛び込んできて、二人で震えた。

 「寒いね」って言うと、彼は「寒いね」って鼻を真っ赤にして、にへらと笑った。

 「好きだよ」って彼が言うから、「私も」って言った。

 彼は鼻をすすって、にこにこ笑って、「大好きさんに言われると嬉しいなあ」って。

 ねぼけまなこで二人して背伸びした。そしたら、二人してあくびをしたから、顔を見合わせて笑った。

 六枚切りで八十二円の食パンを二人分、トースターに放り込む。油を敷いたフライパンに特売品だった玉子を割り入れる。

 フライパンにふたをして、しばらく待つ。そうこうしているうちにトースターが私を呼ぶ。

 味見妖怪が来るので、目玉焼きを一つ、皿に取り分けてやる。

 窓を閉めたら、彼は私の鼻の頭にキスをした。

 彼のトーストには季節のフルーツのジャムを塗ってやる。私のトーストにはバターを塗って、お日様みたいな目玉焼きをのせて、ケチャップをたっぷりかける。それにインスタントのコーンスープ。ティファニーで食べる朝食には遠く及ばないだろうってのは知っている。けど、彼といっしょに食べる朝ごはんは私にとって特別な時間だ。

 そんなことを言ったら、彼は小鳥の口付けのようなキスを何度もして、ぎゅっと私を抱きしめた。

 彼が「幸せだなあ」なんて笑うから、私もつられて笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る