第23話 降臨

 「勝ったの?………」


誰だ?ああ、レイラか。いつからこうしていたのだろうか。記憶が曖昧だ。ブレイブはどこだ?あれ?勝ったんだっけ?負けたんだっけ?そもそもブレイブと戦ったのか?


「どこ……言ってたんだ?……」


「ちょっとね………それよりあなたは勝ったのね。」


勝った?ああ、そうか。思い出した。俺がブレイブを斬ったんだ。この手で………


「そう……みたいだな………」


ブレイブは悪くなかった。悪いのは全部神だ。全部、何もかも神のせいだ。殺してやる。必ず殺してやる。ブレイブの苦しみを痛みをお前たちにも味合わせてやる。


「いくぞ………」


「いくってどこに。」


「勇者が死んだ。神が現れるぞ。」


俺は止まらない。こんなことで立ち止まってなどいられない。これで判明した。世界にとって、人類にとって、生物にとって最高神は敵だ。ブレイブは一人で戦っていた。あまり細かいことはわからないけど。それだけは分かる。


なぜならブレイブは俺の………親友だから。


「ちょっとなんで神が来るなんて分かるのよ。そんなのまだ………」


俺たちの見上げる先、薄く曇った空が黄金色に輝き出す。神の降臨………いや、憎しみの発端である存在の降臨だ。


「あの時と一緒だわ………あれは最高神が来る時と同じだわ。」


そうか、レイラは300年前に一度神にあっているんだった。まだ姿を見たわけでもないのに俺は剣を握る手に力が入る。


一瞬当たりが真っ白に光った。いや、今も真っ白のままだ。まるで一瞬が永遠のように長い。どういうことだ。意識はしっかりしている。なのに世界が動いていない。周りの王国騎士は硬直し俺だけ……いや、俺とレイラ以外が硬直する。


これが神の力。


「顔を上げよ。愚かで滑稽なものたちよ。」


ノイズのかかったような聞き取りにくい。それでいてしっかり頭に響く声が聞こえた。その声を聞き、およそその場にいたすべての生命が上を見上げた。いや、その表現には齟齬そごがある。強制的に上を見上げさせられた。


そこにいたのは……いや、そこで輝いていたのは一切不純物を含んでいないような白く輝く装束に輝く白髪。背中からは鳥を模したような羽根を大きく広げている。いや、鳥があの羽根を模したのかもしれない。


ただ言えることはその存在はそこに居合わせた誰もが絶対的な存在だと分かるほどの存在感とオーラを纏っていること。そしてその場にいたもの全てがその口調から本当に人間を守る神なのか疑問を抱いたことだ。


「お前が最高神か!」


俺は天を……神を睨みつけた。


「ん?お前か?わたしの従僕を壊したのは。愚かな復讐の3神に加護を授かったものよ。お前も可哀想なやつよのう。あの3神に目をつけられるとは。奴ら、檻の中でまだもがいておるのか。」


何を言ってるんだ、こいつは。


「おい!なんの話をしている!」

「お〜すまん、すまん。愚かで可哀想なお前はまだ知らぬのだったな。教えてやったらどうだ?レイラよ。」


「黙りなさい!呑気にのこのこ降りてきて!あんたこそ滑稽よ!今度こそはあんたを殺す。」


「笑止!我を殺すか。お前が人間だった頃にも一度戦ったな。あの時のお前は………弱かったなあ。」


そう言って大口を開けて笑う最高神に心底腹が立つ。


俺はありったけを込めて地を蹴った。高く雲に手がつく程の高さで目線が並ぶ。


「死ねー!」


ありったけを……すべての憎しみを込めて剣を振る。


全身に激痛が走る。全身の骨が砕け、あまりの痛みに血反吐を吐き散らす。何が起きた。気付けばレイラが心配そうに俺を覗き込んでいる。あの高さから吹き飛ばされて地面に体を強く打ったのか。


俺は神聖魔法で素早く治療を施す。そうだ。このダメージなら神にも多少のダメージが入っていてもおかしくない。


「我にも痛みがあると思ったか。復讐に魅入られた愚かな人間よ。その程度では我は痛くないぞ。」


ダメか。今のままじゃこいつには勝てない。


「その通り。お前じゃわたしには勝てない。かつてのレイラと同じ結末になる。しかし、チャンスを与えよう。勇者を使って暇を潰すのは飽きた。お前がわたしを楽しませて見せろ。」


心を読まれた?これじゃ絶対に勝ち目がないじゃないか。それどころかチャンスだと!馬鹿にしやがって!


「馬鹿にしているわけではないぞ。お前はわたしを殺したい。ならば強くなるがいい。そしてわたしはお前を見て楽しむ。強くなるためにわたしが手伝ってやろう。さぁまずはこいつらを一掃してみよ。」


そういうと最高神の手から光の粉が振りまかれる。それは王国騎士たちへと降り注ぐ。


「それでは、楽しむがいい。」


その一言で周りの王国騎士たちが動き出す。それは魔族も同じ。世界が元に戻ったようだ。

「なんだ?体が軽い。力が漲るぞ。」

「ほんとだ。これならやれる。」


王国騎士たちがそんなことを口にする。どうやら王国騎士たちは最高神に気づいていないようだ。


「きけ!わたしを信仰し敬う王国の勇敢なる騎士たちよ。」


天からの声に王国騎士たちは一度上を見るが、次の瞬間一斉に片膝をついてかしこまる。


「勇敢な騎士たちよ。お前たちに最高神からの祝福を授けた。この野蛮な魔族とそこの神に叛逆はんぎゃくせし愚かな若者に鉄槌てっついを下し、神への忠誠を証明してみせよ。」


「最高神様!わたしは王国騎士団長アリステオ・クラディウスと申すものです。そのお役目、謹んでお受けします。どうか我らに神のお導きを。信託は下された!いくぞ!!」


その号令を受け、騎士たちが一斉に魔族に襲いかかる。


その戦闘力は圧倒的だった。みるみるうちに魔族が倒されていく。俺たちもかかってくる騎士を斬るがこれまでとは比べ物にならないほどの強さになっている。


「やばいわ、オズ。奴らかなり強くなってる。これはかなりキツくなりそうよ。どうする?」


「どうするって、ここで引けるわけないだろ!やっと神が出てきたんだぞ!」


「そうね、ごめんなさい。当たり前のことを聞いたわ。でも、何か打開策を考えないとジリ貧よ。」


確かにこれではいっこうに数が減らない。それどころか魔族が減って、俺のところに来る騎士たちが増えている。


どうにかしないと!どうにか、どうにか!


「焦っているようだな。愚かな人間よ。もう終わりか?」


どんどん数が増える。次第に傷も増えてくるが回復が間に合わない。クソ、ここは引くしかないのか。


「待て!最高神よ!」


その瞬間、また違う声がした。最高神とは逆の空が黒く、暗く染まる。


「久しぶりだな。最高神。我はお前の忌む相手、悪神アーリマンである。」



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