第22話 勇者……いや、友

 俺はまたもこの男と対峙する。こんなふうに対峙するのは何度目だ?この短期間で何度顔を合わせてはろくに戦いもせずに別れたものだ。しかしこうやって顔を合わせるのも今回で最後だ。今日俺はこいつを殺す。


「ハンデとは勇者も随分と舐められたもんだね。ひとりで四人を相手にできると思っているのかい?それも王国騎士団の最高戦力だよ。」


「オズワルド様、おひさしぶりです。私を覚えていらっしゃいますか。騎士団長のアリステオです。どうしても我らの味方に放って貰えぬのですか?」


「騎士団長、言っても無駄ですよ。もうオズは完全な悪だ。オズは………僕が殺します。団長たちは戦場に向かってください。」


「……………承知しました。勇者様。どうか武運を。」



「話は終わったのか?」


「ああ、待ってもらったおかげでね。」


勇者は皮肉をこめて答える。かつて友だった相手を前にしているのに不思議と何も感情が湧いてこない。………そうか、俺はこいつ…ブレイブが嫌いだったのかもしれない。いつも優しかった男。俺が悪戯をしても笑って許した男。そんなブレイブのことを実は生簀いけすかないと思っていたのかもしれない。


「さっきはああ言ったけど、オズ………もうあの頃みたいには戻れないんだよね……」


「ああ」


「もうあの頃みたいに無邪気に笑うことはできないんのかい………」


「ああ」


「もう………そうか………それなら………僕は命をかけて君を殺す。勇者として。」


そうだ。そんなお前が嫌いだ。勇者………。勇者になったからと村を出たお前が。本当はいつまでも一緒に遊んでいたかった。………それも昔の話か………


俺はゆっくりと剣を抜く。それに合わせてブレイブも聖剣を抜く。お互いゆっくりと。まるでその時間で昔を思い出すかのように。



随分と剣を抜くだけに時間がかかった。俺は抜いた剣を平青眼にブレイブ………勇者は上段に剣を構える。

 

周りの喧騒など一切気にならない集中の中。魔術はなし。純粋な剣の戦い。

風が吹いた。


瞬間、地を踏み込む。


間合いが詰まり、剣が届く範囲。俺は剣を思いっきり振り抜く。


いなされた剣をもう一度振る。地を強く踏み締め、剣を振った。ことごとくかわし、いなされる。


「今度はこっちだ」


その声とともに勇者が連続で攻撃を仕掛ける。右へ左へ。その攻撃を避け、いなし、受ける。


「はぁ……はぁ……もう降参しなよ。」


「はぁ………はぁ……冗談はよせ。まだこれからだろ。」


そういえば昔こいつとこんなふうにチャンバラをして遊んだこともあったっけ。


でも、もう決着だ。


「次で決める………」


俺は静かに宣言する。それに頷き、勇者も剣を構える。


「「魔力………解放……」」


ありったけの魔力を剣に込める。掠っただけでも死に至るような。それだけの魔力を。それは勇者も同じだ。おそらく加護で死なない俺でもあれを受ければ死ぬのではないか。そう思わせるだけの魔力を込めた。



戦場に咲いていた花びらが舞った。



傷は浅い。脇腹を少し掠っただけ。倒れたのは勇者………ブレイブだ。俺はブレイブのもとへ歩み寄る。


「やぁオズ………強いね………」

「なんでだ………」


「ん?………」

「なんで剣を止めた?止めなければお前の勝ち……せめて相打ちになっていた………なぜだ?」


あの瞬間俺は確かに見た。おそらくあのまま行けば俺の上半身と下半身は離れ離れだった。なのに……なのに………


こいつはすれ違いざまに剣を止めた。それだけでなく、笑った。


「なぜ笑った!答えろ!ブレイブ!!」


「また………僕を名前で呼んでくれるんだね………ありがとう………」


そうじゃない………そうじゃないだろう。なぜそんな顔で笑うんだ。お前は俺に負けたんだぞ。その傷は致命傷だ。もう助からない。なのに………なぜお前は笑っている。


「君には……随分と辛い思いをさせてしまった……ごめんね……」


ちがう……なんでお前が涙を流す。そんな悲しげに………


「君を斬ることは……できなかったよ……ははは……情けない話だよ……君には笑顔でいてほしくて村を出たのに………まさかこんなことになるなんて……」


何を言ってるんだ………お前は村を捨てた……村が焼かれてもそんなことはつゆ知らず、お前は王都でのうのうと暮らしてたんだろ!


「僕は……できるなら君と一緒に遊んでいたかったよ………あの村で……いつまでも……チャンバラをしていたかった……」


「じゃあ………なんで………」


「しょうがないだろ………脅されたんだから………君を守るにはこうするしか………ごめん………」


「脅されたって……誰にだよ!……おい!」


「叫ばないでくれよ……傷が痛むだろう………」


「誤魔化すなよ。お前を………俺たちをこんなふうにしたのは誰だ!」


「そりゃあ…………神だよ………神なんてそんなもんだよ。まったく………人間は何にすがればいいんだか…………」


「最高神か?それとも………」


「そうだよ………もうこれで解放………される。」

「おい!しっかりしろ!くそっ!」


必死に神聖魔法をかけるが傷口の出血は止まらない。


「止まれよ。くそっ!」


「やめなよ………オズ……もうわかるんだ……村のみんなのところに逝けそうだ………やっと………終わるのか………」

「おいだめだ!いくな!まってくれ!」


「君は………すぐ来ちゃダメだよ………」

「何言ってんだよ……また一緒に遊ぼう。あの頃のように。」


「ああ………それは…………楽しそうだね…………」


泣いた、いつかのように…………

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