第21話 舞え

 「いくぞ!レイラ!」

「ええ、ついていくわ!」


その声を合図に俺たちは皆、バラバラに走り出した。レイラは俺の後ろを王国騎士の多く集まる方に向かって。ジェームズとシャーロットは、喪族の多く集まる方へ。


コールだけはその場に残って、雄叫びを上げる。


「我らはオズワルド・モリス殿率いる復讐者集団、『復讐の権化』である。我らのとって人類、魔族はどちらも倒すべき敵である。よって我らは全ての生命に我らの復讐を実行する!

それではこの一撃を持って開戦とする。」




遠くでコールの叫ぶ声が聞こえる。


「なんだよ『復讐の権化』って。そんなの決めた記憶はないぞ。」


「いいじゃない、名前があった方がかっこいいわよ。」


まぁいいか。そんな話をレイラとしながら戦場をかける。コールがまた叫んでいる。今度は詠唱をしているようだ。


「オズ、跳んで!」





「我に加護を授けし神よ!そのお力を我に貸し与えたまえ!


地均し!!!」






どこまでも響き渡るような声と共に大地が、空気が震え出す。レイラに言われて高く飛んだおかげでなんとか俺たちに被害はなかった。


どうやら精霊は加護を持つ物とその者の加護が分かるだけじゃなく、加護による攻撃までもわかるらしい。


空中で後ろを振り返った時にシャーロットに抱き抱えられながら跳んでいるジェームズの姿を千里眼で確認できた。どこか恥ずかしそうな顔をしているところまで。


下を見ると、王国騎士から魔族、あらゆるものが揺れていた。かなりひどい揺れなのか皆立っていられないようだ。地面に手をつき、ゲロを吐いたり、あまりの揺れに脳震盪のうしんとうを起こして意識を失っているものもいるようだ。


「凄まじいな。」

「ええ、だから言ったでしょう。コールはモブを退治するにはもってこいなのよ。」


なんでこいつがそんなに誇らしげなのかわからないが、とりあえずコールを仲間に加えて正解だったな。このままいけばモブどもは全員コールの加護で片付く。


「オズ殿!!あとは任せました!!」


「は?!」


急に地面の揺れがおさまる。それを見て俺とレイラも着地する。


「おいレイラ、なんで止まったんだ?!」


「ああ、言ってなかったわね。コールの加護『地均しの加護』は自分も被害を受けるのよ。多分コールも酔ったんじゃないかしら。」


なんて使いにくい加護なんだ?!そんな加護があっていいのか?!


「みんな加護ってそんなもんじゃないの?勇者の加護は違ったわよ。それと多分だけど『復讐の加護』もそうじゃない?デメリットはちゃんとあるじゃない。副作用とでも言うのかしら?まぁのおかげで何もなくすんでるんだけだね。それがなかったらあなた副作用ですごいことになってるわよ。」


そうか。そういえば『復讐の加護』は比べ物にならないほどの副作用を秘めている。そんなやばい副作用を打ち消すだけじゃなく、不死にしてくれる『復讐の神の化身』という加護は一体何なんだ?


よくよく考えてみれば自分の加護についてちゃんと考えたことすらなかった。この戦いが終わったら、レイラと話してみよう。


「先を急ぎましょう!何も話してなかったけど私たちの目標は現勇者と四方守護者たちでいいのよね?」


「その通りだ。おそらくジェームズたちは魔族側の頭を討ちに行ったはずだ。まぁこの調子じゃあそこまで辿り着けるか分からんがな。」


「そうね………もうちょっとコールには頑張ってほしかったわ。」


そんな取り止めもない話をしながらコールの加護によって倒れた騎士たちの間を颯爽と駆ける。


おそらく勇者ブレイブや四方守護者た地がいるのは最奥だろう。そこまではまだ距離がある。それに………


「オズ、そろそろ剣を抜かなきゃいけないみたいね。」


「ちょうどいい。ブレイブの所までに準備運動を済ませたかったんだ。」


俺たちは一度立ち止まった。ここまでくるとコールの加護の影響もほとんどないようで皆ピンピンしている。


「オズ、覚えてる?一番最初に会った時の戦いを。」

「ああ、もちろん。」


あの時は、剣を初めて握って俺も弱かった。たしか……敵は誰だった?まぁそんなことはいい。あの時は初めてなのにレイラと息がぴったりあっていた。


「あの時みたいに踊れる?」

「ああ、もちろん。お前こそ俺についてこいよ。」


「当たり前よ!」


背中あわせに立ち、俺はミュルグレスを。レイラは魔術によって創り出した光の剣を構える。


コールの加護が完全に止んだ。風もやみ、あたりが静まり返る。


その瞬間俺たちは地面を踏み込む。剣を振り近くの騎士を斬る。悲鳴と共に騎士が倒れる。


舞う………舞う………まるで舞うように……俺たちは踊るように敵を斬る。剣を振る音と悲痛な叫びが空間を支配する。殺し、殺し、殺し、殺し、また殺す。


斬った後にすぐまた敵は湧く。まるで永遠のように俺たちは踊り、斬り、殺した。





「やってくれたね。オズ………君のおかげで王国騎士は3分の1ほどにまで減ってしまったよ。」


「はぁ……はぁ…そりゃどうも。少し息は上がったが、いい準備運動になった。」


「でも、大丈夫かい?こっちは勇者の僕と四方守護者の三人で《《四対一》だよ。」


「何言ってんだ?俺にはレイラが………」


あれ?どこ行った?さっきまでは背中を合わせて戦っていたはずなのに。しかしそんなこと言ってる場合ではない。おそらく俺にとってライバルと言える相手が目の前にいて、そいつを殺すチャンスだ。


それに勇者を殺せば神も姿を現す。俺はそう読んでいる。


「さぁブレイブ、この前の続きを始めようか。大丈夫、今度はハンデをやる。」

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