第20話 参戦

 「これで仲間は増えたわ。コールのおかげで数の差は埋めれるはずよ。私たちも参戦と行きましょうか。」


谷で火を焚き、夕食を食べ終わった時レイラが宣言した。コールは俺たちの輪の中に入って飯を食べている。俺はやはり腹が立ってもう一度殴らせてくれとレイラに申し出たがレイラに止められ、それでも殴らせろといったところ、コールが自ら殴られると言ってきたので興醒きょうざめして結局殴っていない。コールはもう一度殴られることが俺を殴り飛ばしたことへのケジメだと思っているのだろう。


俺からしてみれば最初の一発は『復讐の加護』によって同じだけダメージを与えているんだからそれはそれでいいと思っている。次の一発はただの俺の憂さ晴らしだ。考えてみればもう一度殴れば過剰暴力かじょうぼうりょくになってしまう。


かといってそんなこと気にしないのだが。とりあえず、目覚めた後のコールは人が変わったように俺たちにもレイラと同じように接するようになった。まるで寝ている間に夢でも見て、何かを思い出したかのように。


「ああ、行こう。今度こそ奴らを全て殺し、神をも殺す。」


やっとだ。やっと復讐を始められる。あの日から長かった。







 あの日のことを俺はまだ覚えている。燃えている村。その村の中で俺は王国騎士に取り押さえられた。俺の恋人は十字架にかけられた。必死に許しを乞い、懇願したがそれは無意味。


俺は目の前で恋人を失った。王国騎士がよく手入れされた剣で恋人の首をはね、首が地面に転がる。


俺はもう彼女で亡くなってしまった。かつて彼女だったものと目が合い、思わず腹の中のものを全部ぶちまけた。俺を抑えていた王国騎士はもう居らず、俺は彼女の元に駆けつける。


何度俺が叫んでも、もう彼女は返事をしない。しばらく俺はその場に座り込み夜が明けるまで泣き続けた。


しばらく経った後、俺は生き残りを求めて村を歩き回った。腕は首をしっかり抱きしめて。しかし、村には燃えて灰になった家と黒くなった肉塊が転がるだけ。ちゃんと人の形を模したものすらいない。知り合いが昨日は動いていた人たちがもう動かないただの肉塊となっている。


俺はこの村を見ていて急に思い出した。それは父と母のことだ。村はずれにある俺の家は見つかっていないかもしれない。それにあそこなら火の手も届かないだろう。僅かな希望を見つけ、その希望を目がけて走り出した。


家にたどり着いた。そこは村からかなり離れただけあって火は回っていない。これなら、これなら中にいる二人も無事かもしれない。もう嫌だ。どうでもいい。中の二人が無事なら。それだけでいい。これからは両親と平和に暮らしたい。


俺は「ただいま」と勢いよくドアを開けた。


結果的に言うとそんな希望は描くだけ無駄だった。両親はテーブルに座って死んでいた。首は机の上に転がっている。


希望を描いた分、反動が大きかった。俺は床に崩れ落ちた。


俯いて、ひたすら床を殴った。俺自身の手から血が出ようと涙を流しながら床をひたすら殴った。たとえ、透明だった涙が赤く染まり、床を殴る右手が赤黒く変色しようとも。それでもひたすら殴った。あの時はこのまま死ぬことを受け入れていた。


いつからなのだろう。いつしか俺の髪は真白になり、目の色は血の色で真っ赤に染まっていた。何一も床を殴り続けた。床を殴る力も出なくなり、もう死ぬんだろう。そう思っていた。


その時だったな。レイラの言う『神の使い』の声が響いたのは。あれは俺だけに聞こえたのか。それとも辺り一体に響いていたのかわからない。


(あなたを見て神が嘲笑あざわらっています。あなたに神から加護が与えられます。)


今思えばおかしな話だな。何が嘲笑うだ。


それでも俺はその力に縋った。この加護で人類に復讐を。


その後、加護に導かれるようにレイラに出会った。封印されていたレイラを知らないうちに封印から解き放ち、共に戦った。


レイラの力で暗闇の中で40年の修行を終え、俺は最強に至った。


ジェームズと出会い、シャーロットと出会い、かつての親友、ブレイブとの再会した。王国騎士団副団長を殺した。


その後、いざ決戦………と思ったがレイラから過去を聞かされて俺の復讐の目的は変わった。俺のため、そしてレイラのために俺は人間、魔族を殺し、神を殺す。






「何考えてたの?」


「いや………ちょっとな……この短期間にいろんなことがあったなと思って……」


「そうね………でも今からよ。大変なのは。大丈夫。私は一緒にいるわ。これからもよろしくね。」


戦場に向かう前に腹ごしらえを済まし、片付けをしていた時に、そう言ってレイラは笑った。


「あ、ずるいですよ!レイラ様は私がお守りするのでオズ殿は大丈夫です。」


従順になったコールが急に話に入ってくる。


「お前は何の話をしてんだよ。……まったく」


「みんな仲良いね。ねぇジェームズ。」

「うん。師匠もコールさんも仲直りできたみたいだね。ねぇシャル。」


「何言ってんだ。こんな奴………おい!お前はなんで顔を赤くしてんだ!きもいわ!」


どっと笑いが起こる。まさかこんなふうに笑える日が来るとは思っても見なかった。この先はどんな戦いが起こり、どんな結末になるかは誰も想像できないだろう。でも………


「この戦い、絶対勝つぞ!」


「ええ!」

「このコール、精一杯努めさせていただきます。」

「はい、師匠!」

「はい!」


皆の返事を聞き終わった瞬間に目の前の風景が変わる。コールのテレポートによって跳んだ先は現在、王国騎士と魔族が絶賛戦っている戦場だ。


殺意を死の匂いがぷんぷんと漂ってくる。


「ああ、懐かしいですね。レイラ様。戦場というのは……」

「そうね。吐き気がするほどの嫌な匂いが漂ってるわね。」


「緊張してきた。シャルは大丈夫?」

「なんとかね。」


「やっとだ………やっと……この時が……今度こそ……今度こそ……本当の殺戮をはじめよう。」

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