第19話 忘れられない過去

 「おい!起きろ!………ダメだ。ぜんぜん起きる気配がない。」


コールを殴り飛ばして半刻、依然起きる様子のないコールを囲んで覗き込む。気持ちよさそうに眠るコールを見ていると腹が立ってくる。


「これはダメそうね。しばらく起きないわ。これは起きるまで待つしかなさそうね。」


なんでこいつのために待たないといけないんだ。つくづく腹が立つ。起きたらもう一発ぶん殴ってやる。








 夢を見た………夢を見た………昔の夢だ。300年………いや、もっと前だ。我が生まれて100年ほどしか経っていなかった時。


我には双子の兄がいた。兄はホール、我はコールと名付けられどちらも魔族の希望として大切に育てられた。


ある日、兄に加護が宿った。『破壊の加護』………魔族の希望としてふさわしい加護だ。我は見捨てられた。加護が宿らない奴はいらないということらしいな。我の扱いはいっきに変わった。兄と比べられ、お前は弱い、お前は使えない。お前は大切に育てた恩も返せないのか。消えてしまえ。


でも、我には魔王軍以外に居場所がなかった。魔王軍以外の世界を知らなかった。


 我にも加護が宿った。『地均しの加護』………魔王軍として最高の加護。人間を滅ぼし、世界を征服する目的を持つ魔王軍には最適な加護。


周りの態度は一変した。


我を持ち上げ、我が魔族の希望と称え、我を魔王軍四天王にして戦わせた。


我は嫌だった。魔族のいいように使われ、いいように扱われる。


ある時、勇者と戦った。我も必死に戦ったが、我の加護はあくまでも多数に効果的。勇者には通用しなかった。我は負けた。


地面に平伏し、ただ勇者に生死を決められる。どうせ死ぬだろう。覚悟はしていた。戦争とはそういうものなのだ。どうせ魔王軍は我を利用しているだけだ。ならばこのまま死ぬのもいいだろう。


「あなた私の仲間になりなさい!」


その一言で我のその後の人生は一変した。勇者………いや、レイラ様は我に戦えとそう告げたのだ。しかもそれは勇者様のしもべとして。


これまで真に必要とされてこなかった我にその一言は救いであり、生きる指針になった。


その瞬間に我は思った。この人に仕えたい。自分の過去や種族も加護もどうでもいい。そんなの全部無視してでもこのお方に仕えたいと。


 我は魔族を裏切った。レイラ様の後ろにつき、同胞を殺す。同胞を殺しても何も感じなかった。実は我は我をただ利用してきた魔族が嫌いだったのかもしれない。


しかし、魔族がそんな我を許すはずもない。すぐに裏切り者の我を殺すために刺客が送られた。


予想はしていた。こうなるだろうと。しかし、予想はしていてもその相手が本当に来た時は驚くものだ。我がこうなってしまった原因であり、我のコンプレックスそのもの。


無論、我と血を半分に分けたもの………我が兄、ホールである。


兄に恨みはない。ただ我に才能が力がなかった。それゆえに神に愛されなかっただけ。こうなったのも全て兄への嫉妬心からである。


だが我は闘わなければいけなかった。レイラ様に使えると決めた自分を裏切らないため。そして何よりレイラ様への忠義から。


 結論だけを述べるなら ………完敗だった。全く歯が立たなかった。加護の力などではない。純粋に力の技の心の強さで圧倒的に負けている。


 いつかと同じ姿だ。地に平伏し、目も前の相手に生死を握られている。今回はその相手がレイラ様ではなく兄ホールだということ。そしてホールは我を殺すように魔王から命令を受けているということ。


しかし、無様にも我はまたも生かされた。「頭を冷やせ」そう告げられ、剣に封印された。それがどんな剣であったかは定かでは無いが。封印を施しても壊れないほどの強力な剣だろう。


我は眠りについた。この封印が解け外に再びでられる日を信じて。そしてレイラ様に再び仕えるため。でもレイラ様は人間だ。人間の一生は短い。もうレイラ様に会える日は来ないだろう。ならば我はどうすればいい?


レイラ様の仇打ち?それとも………


レイラ様………できることならもう一度………







 「ん?我は寝ていたのか?」


やっとこいつが目を覚ました。ここに来た時真上にあった太陽はもう西の空を赤色に染めるほどまで落ちている。


「まったく、いつまで待たせる気だ。」


当たり前のように文句を垂れ流す。このままもう一発殴り飛ばしてやりたいくらいだ。


「お前いい加減に………」


どうしたものか。コールが片膝をつき、俺たちに向かって頭を下げている。


「この度は申し訳ありませんでした。レイラ様、そしてそのお連れの方々よ。我の所業に深く謝罪する。………レイラ様………また会える日をどれだけ心待ちにしていたことか………このコール、レイラ様への恩義は未だ忘れておりません。どうか我を一行いっこうに加えてはもらえませんか。」


震えた声でそう告げる。頭を下げたままのコールの足元は次第に濡れていく。


「ええ………もちろんよ。そのためにここに来たんだから。コール、これからよろしくね!」


レイラはコールの願いに満面の笑みで答える。


「はい……」






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