第18話 クソ野郎

 俺はレイラのいう通りに動脈血のように赤い剣。聖剣であり、俺の持つミュルグレスの模造品を破壊した。


途端にその剣をから黒い魔力が噴き出し、辺りを覆う。しばらく渦巻いた黒い魔力はだんだんと一つに纏まり気づけば人の形に変わった。


青紫色の肌に魔王軍四天王にしてつい先日、王国騎士団を半壊させたホールと瓜二つの容姿。魔族特有の魔力を匂わせた男がそこにはいた。


「ははは、我を解放したのは誰だ。礼を言おう。我が名はコール!魔王軍四天王にして『地均じならしの加護を持つ者。」


そう軽快な声で叫ぶ声はドスの効いた声だった。ホールとは似ても似つかない。しかし容姿が同じなため少しばかり混乱してしまう。


「おや、そこにいるのは我が主人にして我の愛しの人。王国の勇者であるレイラ様ではないか?」


「ええ、ひさしぶりね。コール。元気だった?」


ちょっと待て!レイラがこの魔族の主人??!!それに愛しの人だって??!!


「お、おいレイラ!説明してくれ。こいつは誰でお前とはどんな関係なんだ?」


「あれ?説明してなかったかしら?」


「「「してない!!」」」


あまりのことに3人の声が重なってしまう。こいつはたまに重要なことを言ってない時がある。なんとかして欲しいものだ。


「じゃあ、紹介するわね。こいつは……」


咄嗟とっさのことに少し反応が遅れた。コールと呼ばれた魔族は気づくと俺の目の前にいて拳を振り上げる。


ガードしたが、遅かった。岩肌のゴツゴツした感触が頬に響く。痛みを受けたのが久しぶりすぎてそのまま地面にうずくまる。しかしそれは相手も同じ。俺の加護は受けた痛みを相手にも反射する。


「ギャー!なんで我も痛いんだ!お前何をした!」


「俺を殴るからだろ。ざまあみやがれ。……レイラこいつ斬っていいよな。」


俺は痛みに顔を歪ませながらも剣を構える。


「ちょっと待ったー!!あんたたち何してんるのよ!コール、こっちはオズ。私の契約者よ。そしてオズ、こいつはコール。300年前、私が勇者だったときに倒したやつよ。そしてなぜか私についてくるストーカーよ。」


「む、レイラ様。その言い方は少し違いますぞ。私はレイラ様に負けて、レイラ様のしもべになったのです。しもべが主人について行くのは当たり前ではありませんか。」


コールという魔族がレイラの前まで行き、片膝をついて喋る姿は本当に主人と従僕そのものだ。


「ところでレイラ様、あやつらは何者でしょうか?」


「だからさっきから言ってるでしょう!この人たちはみんな私の仲間よ。本当にあなたって馬鹿ね!この人たちを傷つけることは許さないわ。」


「むむ、そうでしたか。レイラ様申し訳ありません。」


「謝るなら本人に謝ってちょうだい。」


「……………す、すまん……」


なぜかすごく屈辱的な顔で嫌々謝ってくる。正直こんな誤られ方をしても気分が悪いだけだ。


「レイラさん、僕はこいつを仲間にするのは反対です。」

「すいません。私も」


ジェームズとシャーロットがそれを見てこいつを仲間にすることに反対する。


「悪いが俺も反対だ。こいつとは上手くやっていけそうにない。それにこいつは魔族だ。事情も知らなければ信用もできない。」


「そう……やっぱりそうよね………じゃあ、事情を全て説明すればいいのね。コール、あなたの生い立ちを説明しなさい。わかるようにね!」


「は、はい………レイラ様。………おい、お前らしっかり聞けよ。」


こいつレイラには敬語なくせに俺たちには偉そうにしやがって、ムカつくな。軽く痛めつけるぐらいなら大丈夫だろう。


「おいジェームズ、こいつムカつかないか?」


「………師匠?」


「ちょっ!オズ!」


顔面に一発。俺の渾身の一撃を受け、コールは壁にめり込む。これくらいで死んだりはしないだろう。それに、これで少しは態度も変わるだろう。


「ちょっとオズ!何やってくれてんのよ!こいつは仲間になる予定だって言ってるでしょう!」


「ムカついたからしょうがないだろ。それに一度俺も殴られてる。これでおあいこだ。」


「師匠は間違ったことをしてません。どうか許してあげてください。」

「そうです。私たちもスッキリしたし、許してあげてください。」


ジェームズとシャーロットも庇ってくれた。この二人もレイラへの態度と自分達への態度の違いに少々腹が立っていたのだろう。


「あれ?起き上がってこないな。」


しばらくたったが、コールはまだ壁にめり込んだまま。ピクリとも動かない。


「まさか死にましたかね。はは……」


「「「………」」」


なんか冷や汗が出てきた。レイラが仲間にすると言ってた奴を殺してしまったかもしれない。


「おい、急げ。まだ間に合う!」


「引っ張り出して神聖魔法をかけるのよ!」


「ジェームズ、シャーロット、手伝ってくれ!」


「「はい!」」


急いでコールのめり込んでいる壁まで行き、とりあえず様子を伺う。まだ心臓は動いているということは、生きているということだ。死んではないことにとりあえず安堵する。しかし、出てこないということはそれなりにダメージを受けているということだ。


「やりすぎたか。………まぁいい。とりあえずこいつを引っ張り出す。手を貸してくれ。」


ジェームズとシャーロットが両手を持ち、俺が腰を持つ。


「いいか?せーのでいくぞ。……………せーの!」


3人で引っ張った甲斐があってコールはあっさりと壁から抜けた。


「師匠!神聖魔法を!……ん?………ちょっと待ってください。」


神聖魔法をかけようとする俺にジェームズが待ったをかける。


「何かが鼻についてます。……………ってこれ!寝てるだけじゃねーか!!」


コールは鼻提灯をぶら下げ寝ていたのだった。

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