第17話 封印

 レイラが仲間を増やそうと言うので俺たちは今どこだか知らない谷を眺めている。いや、訳がわからないだろう。なんで仲間を探すのにこんな誰もいない谷に来なければいけないんだ。レイラが心当たりがある様子だったから信じてついてきたものの、ここには人などいる気配はない。それどころかこの谷は千里眼を使わないと谷底が見えないような深い谷だ。もし足を滑らせでもしたら普通の人間なら死んでしまうだろう。


「レイラさん……こんなところに人がいるの?…」


俺の気持ちを代弁したようにジェームズが呟く。おそらく同じことをシャーロットも思っているのだろう。シャーロットもすごく不安そうな顔をしている。


「ええ大丈夫よ。きっとあいつは仲間になるわ。」


話がかみあっていない。俺たちが心配しているのはレイラのいう人が仲間になるかではなく、その人がここにいるかという問題だ。もしいないのなら俺たちはかなりの時間を無駄にしたことになる。ここまでは徒歩で3日間歩いてきた。王国では今どうなっているか分からない。


そんな時にここまで来たんだ。無駄でしたじゃ洒落にならない。


「おいレイラ。千里眼で見ても誰もいないようだが、本当にいるのか?これで誰もいないなんて言ったらこの三日間が無駄になるんだからな。」


「そんなに心配しなくても大丈夫よ。あいつは動けないもの。絶対いるわ。」


ところどころ気になる発言が目立つがとりあえずレイラの後に続いて谷を降りる。谷は風魔法の応用を使って降りることになった。風を真下に噴射して推進力を得るのだ。俺がジェームズを、レイラがシャーロットを抱えて降りる。


ゆっくり降りたせいか下についた頃は流石の俺でも半分近くの魔力を持っていかれた。それほどに深い谷だった。


「これ、登る時はどうするんだ?流石に魔力だもたないぞ。」


「大丈夫よ。テレポートで戻るから。」


「え?!……ちょっと待て!俺もお前もテレポートは使えないだろう。それにジェームズとシャーロットも。」


「だから……今から会うやつが使えるのよ。あいつは私たちでも使えない魔法を使えるの。」


「おい、そいつは本当に仲間になるのか?」


「私に任せていれば大丈夫だから、安心して!」


そう言ってレイラはどんどん進んでいってしまう。


しばらく歩いて急にレイラが立ち止まった。


「どうしたんですか?レイラさん。こんな何もない場所で。」


「ちょっと待ってね。たしかここらへんだったのよね…………あった!」


レイラはガサゴソと壁をまさぐった後、何かを見つけたようだ。そこを指差すと、


「オズ!ここを壊して!」


正直乗り気じゃなかった。よく分からないまま連れてこられ、魔力をこんなに消費させられて挙げ句の果てにはただの壁を壊せだなんて。


「そんなことしたら崩れるぞ。大丈夫なのか?」


「大丈夫、大丈夫。」


渋々俺は剣を抜く。そしてレイラの指差す何も無い壁を軽い力で殴る。案外壁は脆かったらしく、簡単に音を立てて崩れていった。心配していた谷の崩壊もなく、そこには綺麗に空間が開いた。


「こ、これは………」


俺はそこにあったものを見て驚きの声をあげた。


そこにあったのは俺の持つミュルグレスの色違い。漆黒のミュルグレスとは違い動脈血のように鮮やかな赤色に染まった剣。禍々しいオーラを放つミュルグレスとは違い、なんとも不思議なオーラを放つ剣。


「これは?………」


「これはカトラス。300年前に私が使っていた聖剣よ。」


「聖剣………まさかそいつが仲間だって言うのか?剣だぞ!」


「まさか、そんなわけないじゃない。これはただの剣よ。仲間になるのはこの剣の中にいるわ。今は封印されているの。て言うか私が封印したの。」


そんなやつが本当に仲間になるのかつくづく疑問だが、ここまで来たからにはレイラにかけて見るしかない。


「それでそいつを仲間にするには封印を解かなきゃいけないんだろ?どうやって封印を解くんだ?」


「さすがオズ!理解が早くて助かるわ。封印を解くのは簡単よ。この剣を壊すの。」


「ちょっと待て!これは見た感じミュルグレスと同じだ。ならこれも金剛不壊こんごうふえ……決して壊れないんじゃないのか?」


「確かにそうね。でも聖剣って物は全部ミュルグレスの模造品よ。ミュルグレスを真似て作ったものが聖剣。つまりは全てのオリジナルはミュルグレスってわけ。だから性能も全てミュルグレスの方が上よ。」


そうだったのか。この会話中すっと疑問に思ってたが、聖剣は複数存在するのか?なんかこの世界の仕組みがよく分からなくなってきた。今はそんなことを考えるのはよしておこう。


「じゃあ、やるぞ。」


「ええ……お願い。」


そう言ってレイラは俺の後ろに隠れるようにさがる。それに習うようにジェームズとシャーロットも後ろに下がった。


俺はそれを確認し、ミュルグレスを平青眼に構える。俺はこの構えが一番体に力が入る。足に力を入れ、魔力を込めて振り抜く。


案外剣は簡単に破壊できた。辺り一体に黒い魔力が渦巻く。


「ははは、我を解放したのは誰だ。礼を言おう。我が名はコール!もと魔王軍四天王にして『地均じならしの加護を持つ者。」


そこから現れたのは青紫色の肌を持つ魔族。そいつは先日あったホールと瓜二つだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る