第16話 魔王軍

 三つ巴とは、三つのものが互いに対立して入り乱れることを言う。今がその時である。俺たち復讐を志す者たちと勇者ブレイブが率いる王国騎士団。そして新たに加わったホールと名乗る者を中心にした魔王軍。


魔王軍は俺が確認できるだけでおそらく数千から一万ほど、王国騎士は10万はくだらない。それに対して俺たちは4人。あまりにも数では部が悪すぎる。


さらにこの決闘でブレイブを殺しきれなかったことで俺たちの不利は確定的だ。ここは一旦引くか……いや………


「オズ……ここは一旦引きましょう。この数と勇者とあれを相手にするのは今は無理よ。」


青紫色の魔族の男を指差すレイラの顔は青ざめ、冷や汗が目で見てわかる。レイラがこんなになるとはあの男は一体何者なんだ?そんな疑問を心に抱きながらレイラの助言を採用することを決める。


「ここは撤退する。ジェームズ、シャーロット!あの霧を出せるか?」


「出せます!師匠!任せてください!シャル!」

「うん!いくよ」


そうだ。ここにくる時に迷った霧。シャーロットと出会い、ブレイブと再会し、王国騎士団副団長を殺した時の霧。あの霧にはシャーロットが魔術によって出したものであり、千里眼の無効や気配を遮断するなど敗走にはもってこいの能力が多々ある。おそらく勇者であるブレイブも千里眼ではないにしても魔力を見ることはできるだろう。そうでなければあいつは最初から俺の強さを見抜いていたことに説明がつかない。


 そうこうしている間にシャーロットが魔術を発動させたようだ。だんだんと霧が辺りに広がっていく。


「俺たちは一度引かせてもらう!ブレイブ!次会ったら殺し合いだ!そして魔王軍!俺たちはお前たちも全て殺す!」


そう言い残し、俺たちは霧の中に消えた。


霧の中をシャーロットとジェームズの後ろについて走りながら俺はレイラに魔族の男について聞いた。


「レイラ、あの魔族の男は一体誰なんだ?」


「………あの魔族はおそらくあなたや現勇者と同じくらいの強さを持った男よ。名をホール……魔王軍四天王のひとりにして最強の男。次期魔王とまで言われているわ。」


そんな奴がいるのか。それじゃあ今挑んだところで良くて引き分け、悪ければこちらは誰か死人が出ていたかもしれない。ならばレイラの撤退も頷ける。


 少し走った後、俺たちは霧から出た。そこはいつかの丘の上。ちょうど王国騎士団と魔王軍が向かい合っている最中だった。生憎何を言ってるのかまでは聞こえないが、およそ今から戦いが始まることだけは感じ取れた。


ブレイブと魔王軍ホールが剣を突き上げる。一斉に兵が走り出す。戦争が始まったのだ。おそらく王国騎士一人と魔王軍一人の強さは同じくらいだろう。ただし兵の数は王国騎士が魔王軍の10倍。この戦いは王国騎士の勝利に終わると俺もジェームズもシャーロットもそう思っただろう。しかしレイラは違ったようだ。


依然どちらも大将は動かない。しかし重い腰を上げるように魔王軍ホールが5メートルをゆうに超える大剣を振り上げる。すると先ほどホールに耳打ちしたアンデッド兵が大きな角笛を吹く。角笛の鈍い音が戦場に響き渡る。


途端に魔王軍がホールの後ろまで撤退し始める。それは一人残らず一目散で後退する。王国騎士は騎士団長の命令のもと、深追いはせず待機しているようだ。しかしそれは愚策だった。魔王軍と一緒に王国騎士もブレイブの元まで後退していればこんなことにはならなかっただろう。


ホールは高く突き上げた大剣に魔力をこめて振り向いた。


空間が割れたかと思った。一瞬で前線の騎士たちが吹き飛ぶ。その斬撃は爆音と爆風を巻き起こし、王国騎士約2万の命を一瞬にして奪った。


戦場から聞こえるのは絶望と嘆きの声。一方的に優先だった王国騎士団が一瞬にして、一振りにして不利になった。ブレイブの焦る顔が目に浮かぶ。王国騎士団の主戦力である。四方守護者と勇者は無傷のようだが、これで王国騎士団はかなりのダメージを受けた。


しかし、それで俺たちが出ていって勝てるということにはつながらない。あの規格外の力、一体なんなんだ。


「あれは……破壊の加護………全てをただ壊すだけの加護よ。300年前はあいつ一人に王都が半壊させられたわ。」


レイラが語ったとき、もう魔王軍は撤退を始めていた。なぜかは分からない。ただ宣戦布告をし、相手の実力を確かめて自分達の力を誇示することが目的だったんじゃないかとレイラは言った。でも俺はそうは見えなかった。あいつはあの一撃を楽しんでいた。そう見えた。


 魔王軍が完全に撤退した後、王国騎士団も仲間の遺品やらなんやらを片付け始め。その後、王都に戻っていった。その頃には日も沈みかけ、辺りは薄暗くなっていた。


  


 「とりあえず、勇者とあのホールをなんとかすること。それが一番の課題ね。」


野宿の準備をしていた時、急にレイラが言い出した。


「そんなこと言われてもあんなのと戦えるのは師匠くらいですよ。」

「レイラさん、私もあの二人はやばいと思うの。」


ジェームズとシャーロットがいつに無く弱気な発言をしているのも全てホールの一撃のせいだろう。それほどにあの一撃は印象的だった。


「そうね……それに例えオズがあの二人を倒したとしてもその後に雑魚兵を殺すのは流石にきついわ。かといって私たち3人であの数をやるのも無理ね。」


「じゃあどうするんだ?」


聞き返した俺にレイラはニヤッと悪い顔を向けてくる。


「仲間を増やしましょう。大丈夫よ。私、いい人を知ってるから。」


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