第15話 三つ巴
これで何度目になるのだろうか。俺はまたもこの男と対峙した。勇者の加護を最高神から賜った人類の希望にして、俺の幼なじみにして親友だった男。後ろには騎士団長をはじめ、王国騎士団が控える。対して俺の後ろには灰色の髪の精霊と青髪の精霊、それに茶髪の少年だ。
「さぁ、答えを聞こうか。オズ………まぁ君がこちらにつかないと言うならここにいる全兵力を持って、君たちを殺さなきゃいけないんだけどね。」
後ろの兵を誇示するように手を広げたブレイブは行動とは裏腹にほんの少しも誇らしさなど感じない。それどころか、不安のようなものまで感じる。
「まったく……勇者も大変だな。お前に同情するよ。」
「それじゃあ、仲間になってくれるのか!」
「ああ…………断る!俺たちはお前たち人類、そしてここにはいない魔族、そして神を殺す。」
ブレイブの顔が一瞬笑顔になったと思ったら、落ち込んだ顔になる。いや、落ち込んだ顔じゃない。悲しそうな顔だ。
「オズ、君とはまた友達になれると思ってた。出来る事なら君に背中を預けて戦いたかった。そんな理想を僕は望んでいた。でも………それは無理なんだね?」
「ああ、無理だ………お前は『勇者』で、俺は『復讐者』。お前は『善』で俺は『悪』。お前は民衆にとってのヒーロー、でも俺はヴィラン。これが現実だ。」
「そうか………どうしても無理か……」
「どうしても無理だ。」
ブレイブの声はひどく落ち込んでいる。そんなに俺と共闘がしたかったのか?それとも、単に魔族との戦いに俺を利用できないのが残念なのか分からない。しかし、俺との敵対に心を決めたのか俺を睨み、大声で叫ぶ。
「オズワルド・モリス!ここで僕と決闘をしろ。僕が勝ったらお前は人類側として魔族と戦う。もし僕が負け、お前が勝ったなら……僕を殺せ!その後で王国だろうが、人類だろうが好きにして構わない。ルールはどちらかが死ぬか剣を落とすまで!どうだ?」
なるほど………こいつ考えたな。俺が死なないのを知っているのか。ルールをつけることで俺の加護があっても勝負に勝てるようにしやがった。それに決闘なら俺とブレイブが戦うだけで無駄な被害を出さずに済む。それにブレイブが俺に負けてしまえば、どのみち人類は終わりだ。さらにこいつの言った条件。俺が負けた場合は好きにして構わない。抵抗しないわけじゃないと。そう言っているわけだ。よく考えられている。ならば俺ものってやろうじゃないか。
「わかった。その条件で決闘を受け入れよう。」
「受け入れてくれるか……よかった。もちろん真剣勝負でいいよね。」
「無論だ。合図はどうする?」
「騎士団長!……お願いします。」
「はい。勇者様。どうか御武運を。」
「オズ!負けんじゃないわよ!」
「ああ、わかってる。」
俺はレイラに一言かけてから前に一歩出て、ブレイブと向かい合う。
「「魔力開放」」
二人の加護を持ったものが同時に抑え込んでいた魔力を開放した。辺りに強風が吹いたかのような衝撃が走る。騎士団からは魔力に当てられ、バタバタと倒れる音が聞こえる。レイラがなんらかの方法で守っているのか、今回はジェームズが吐いたような音は聞こえない。
俺たちは剣を抜く。ブレイブは聖剣を上段に。俺はレイラが封印されていた剣。
『勇者の加護』とはどんなものなのだろうか。ブレイブからは俺と同じか俺以上の魔力が感じられる。凄まじい。
これまで俺は自分の加護『復讐の加護』のおかげで強くなった……そう思っていた。でも、実際はその通りだ。俺はおそらく負けないだろう。負けるはずがない。『復讐の神の化身』の死なない能力は殺し合いにおいて絶対的な力だ。しかしこれは決闘だ。剣を落とされてしまえば俺の負け。決闘ならブレイブはおそらく俺に勝てるかもしれない。こいつの構え……恐ろしく洗練されている。どれだけ修練をつんだのかわからない。
だが負けるわけにはいかないのだ。レイラとの約束、俺の復讐。それらの為に。俺はもちろんブレイブを殺しに行く。ブレイブは俺の剣をはらいに来るだろう。勝負は少なくとも3分で決まる。
「では、王国騎士団長アリステオ・クラディウスが立ち合いを勤めさせていただきます。合図はコインが地面についたらでいいでしょうか?」
「問題ない。」
「僕も」
「それではいきます」
それと同時に騎士団長の指に弾かれたコインは虚空を舞う。約3メートルほどで最高到達点の達すると。重力に従い落ちて………地面についた。
途端に俺もブレイブも強く地面を蹴る。俺は最速、最大の力で剣を振るった。ブレイブもそうだろう。俺たちの剣は互いの顔の前で交差する。
ものすごい爆音と共に地面が割れ、爆風が吹き
俺もブレイブも一度距離を取って様子を見る。正直、ブレイブがここまで強いことを予想していなかった。全面戦争をしていれば、こちらにも被害が及ぶ結果になっていただろう。そのために今この決闘でこいつを殺さなければならない。数の有利を使わずに一対一で戦える今こそ、ブレイブを倒す絶好のチャンスなのだ。
俺はもう一度平正眼に剣を構え、ブレイブは上段に構える。今度は合図などない。おそらく今度こそ決まる。一太刀で。
俺もブレイブも集中する。周りも息を呑んで俺たちの戦いを見守る。いざ!
「が〜ハッハッハッハッハ!ちょっとまった!その戦い。俺様たちも混ぜてもらおうか。」
その時、丘の上からした。俺たちは皆一斉に声の方を見る。そこには黒……いや、青紫色の肌をしたあきらかに人間じゃない男が立っていた。肩には5メートルをはるかに上回るほどの剣を担いでいる。
俺とブレイブは後ろに跳び、仲間のもとへ一度戻る。
「あれは………」
「レイラ!あれを知っているのか?」
レイラが青ざめた顔で魔族の男を見ている。
「ん?おお!お前はいつかの勇者じゃないか。まだ生きていたのか?長生きする人間もいたものだな。」
すると後ろにいたアンデットの兵が何かをその男に耳打ちした。
「お〜そうだった、そうだった。我、魔王軍四天王が一人ホールはここで人類に宣戦布告する!………これでいいか?」
ここに三つ巴の戦いが幕を開けることとなる。
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