第13話 レイラ そして決断

 分からない。分からない。最高神はなぜ俺を選んだ。復讐の神が最高神の派閥だと。意味がわからない。


それならなぜ人類を殺し尽くすと誓った俺に加護を……力を与えた。


なぜ人類を守るはずの最高神が騎士団を使って俺の村を襲った。


なぜブレイブは村を焼き尽くした騎士団を許せる。


「色々と悩んでいるようね。さっきの話の続きをしていいかしら。」


夜明けも近づき、地平線がかすかに明るくなった頃、レイラが俺の隣に座り込む。


「悪い、今はやめてくれ。」


「いや………今じゃないとダメよ。」


レイラの顔はいつになく真剣で険しい。そういえばレイラの復讐の相手には神も含まれていた。さっきは神に復讐する理由を聞きそびれたんだった。わからないことだらけで俺も嫌気が差していた。気分転換にコイツの話ぐらい聞いてやるか。


「わかった…………話してくれ………」


「ええ………私が処刑台に登ったところまでは話したわよね?」


「ああ、そうだったな。」


「その時はまだ勇者の加護を持っていたの。でも………そのすぐ後よ。あの声が聞こえたの。あなたも加護を授かった時に聞いたはずよ。『神の使い』の声よ。」


『神の使い』の声ね………神が嘲笑っていますとか何とか言っていた声のことか。それなら確かに聞いた。それをレイラは死ぬ直前に聞いたのか。それからレイラは何らかのかたちで精霊になった。そんなとこだろう。


「それを聞くのはそれで2回目だったわ。一度目は……そう勇者の加護を授かった時よ。その声はなんて言ったと思う?想像もつかないことよ。わかる?」


わからない。想像もつかないこと。それはレイラにとって悪いことだったのだろう。その質問をしたレイラは泣いていた。


「……勇者の加護を……剥奪はくだつし、復讐の加護を与える………そう……行ってきたの………」


レイラは目に涙を浮かべながら、俺も目を見て続ける。


「ねえ!私がこれまでして来たことは何だったの?!せめて勇者として死ぬことも許されなかったの?!私はこれまで人類にとっていいことをして来たはずよ。なのにこれは何に対する罪だというの?!」


そのままレイラは俺にもたれかかり、しばらく泣いた。俺は何も言わずじっとしていた。またレイラが話し出すまでじっと。


 「私はその時あなたと全く同じ加護を持たされた。全てのが上がって、即死しなかった私のダメージは処刑人に反射したわ。そのせいで処刑人が死んだ。私は魔女と言われた。それもそうよね。処刑人は私を斬ったはずなのに死んだのは処刑人なんだもの。私は人間を憎んだ。神を憎んだ。…………それからは酷かったわ。それまでとは比べ物にならないほどに。」


一度息を吐き、もう一度吸う。深く、深く。


「……人々は私を傷つけ、私も人々を殺した。いつしか私は世界の半分を壊し、世界の人口の半数を殺していたわ。もうその頃には誰も私を止めることはできなくなっていた。それから少しして、空が光ったわ。当時闇しか見ていなかった私には目が眩むほどにね。その光から現れたのは……神だったわ。それも最高神」


「ちょっと待て!お前は神にあったのか?!神は決して人類の前には現れないとあらゆる記述に書いてあるはずだぞ!」


「ええそうね。でも何事にも例外はあるものよ。あの時の強すぎる力を持った私は例外だったようね。神は言ったわ。その加護でもう一度魔族に立ち向かわないか?とね……もちろん私は断った。あんたらのせいでこんな目にあってるのになぜあんた達の言うことに協力しなきゃいけないの?ってね。そしたらあいつは言ったわ。それならばお前の力は強力になりすぎた。協力しないのであればその力を取り上げる。だってさ。腹が立つにも程があるわ。コイツらに利用され、コイツらに苦しめられ、コイツらにまたも利用される。そんなのに私は耐えられなかった。」


そこまで話した後、レイラは目に溜まっていた涙を拭き取り、俺の真正面に移動する。


「私は戦ったわ。何日も、何日も。加護も魔術も神聖魔法も剣術も私のもてる全ての力を使って戦った。………でも……負けたわ。私は封印された。殺されるでもなく。吊るされるでもなく。封印……そうあなたの今持っている剣『魔剣 ミュルグレス』にね。封印されている間、私は敗因を考え続けたわ。その敗因として私は精霊魔法を使えなかったからだと思ったの。だから、私は聖霊になった。聖霊になれば加護は失う。また、復讐の加護が誰かに与えられるかもしれない。その者と契約し、また神に挑むためにも。」


そこまで話し終わった後、レイラは俺の正面から立ち上がって俺を見下ろすような体勢になる。


「だからオズ……そのことを考えて、どうするのか決めてちょうだい。」


今の話を聞く限り、レイラの過去は俺よりも酷い過去だ。しかし、凄惨せいさんな末路を辿った人間がこんな笑顔をすることができるだろうか。


その時のレイラの笑顔は登り始めた太陽の光を受け、俺が見たこの世界の何よりも輝いていた。コイツは強い。認めよう。そして尊敬しよう。


「一つだけ聞かせてくれ。お前の話を聞く限り、お前は神に復讐するために俺を待っていた。それならばなぜ、決断を俺に委ねる?」


「そんなの決まってるじゃない。これは私とあなた以外誰も知らないことだけどあなたと暗闇で過ごした40年間であなたが復讐のために頑張る姿を見て、私自身があなたを応援したくなっちゃったのよ。同じ復讐を志すものとしてね。…………大丈夫!私は裏切ったりしないわ。ずっと一緒よ。」


ああそうか。コイツはやはり勇者なんだな。誰かのために自分を犠牲にする。そんな勇者だった頃の癖がまだ抜けてないのか。レイラを見て俺は初めて自分がひどく恥ずかしいと思った。自分の目的のために全てを利用し、全てを壊し、何も受け入れようとしなかった。そんな自分が恥ずかしくなった。


決めた。もう迷いはしない。俺も立ち上がり少し歩いた後、登る太陽に背をむけレイラと向き合う。


「レイラ……決めたよ。俺は自分のため……そしてお前のために神を……全ての神を敵にまわす。」


その時、微かに声が聞こえたような気がした。気のせいかもしれない。



(復讐の三神の最後の神があなたを認め、あなたに加護を与えます。あなたはこれから自分以外の誰かのために復讐をするとき、更なる力を得るでしょう。


どうかあなたの復讐に神の導きがあらんことを)

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