第12話 説得

 いつしか矢は降ってこなくなった。当たらないことを悟ったか、命中したと思ったのか、はたまたこの男が来たからやめたのかは分からない。


しかし、俺はこの男とまたも対峙した。


「やあ、またあったねオズ。」


「またというほどでもないだろう。」


「今日は提案があってきた。」


「提案だと?王国騎士団全員の首を差し出すってなら遠慮する。そんなことしなくてもお前らは殺されるだけだ。」


「違うよ………うん……違うよ」


何か含むような返事の後、ブレイブは大きく深呼吸をする。


「オズ、村の件は仕方ないことだったんだ。だからなんとか見逃してくれないか?そして出来ることなら君の力を貸して欲しい。」


は?仕方なかった?今こいつは仕方なかったと言ったのか。あろうことかこいつは昔はあの村の住人だったんじゃないのか。


「お前は何を言っているんだ?………お前は………本気で言っているのか?……」


寝ていたところを叩き起こされ、その場の状況は伺っていたジェームズが地面に吐瀉物としゃぶつを撒き散らす。どうやら怒りによって俺の魔力が解放され、それに耐えきれなくなったようだ。暗闇の奥からもバタバタと倒れる音や吐き散らす音が聞こえてくる。しかしそれによって俺は少し冷静になる事ができたのかもしれない。一度深呼吸をし、感情を整える。


「………落ち着いたか?」


ブレイブが顔に汗を滲ませながら顔色をうかがっている。落ち着いたかだって?誰のせいでこうなったと思ってるんだ。イライラする。


「オズ!落ち着きなさい!」


一気にイライラが引いていく。頬が痛い。気づくとレイラが俺の顔を平手でぶっていた。そのレイラの頬も赤くなっていく。加護の力、受けた痛みの分だけ相手にも痛みを与えるという加護が働いたのだろう。この加護が働いたのは始めてた。これまで攻撃を喰らったことなどなかったのだから。それで本当に落ち着いた俺はもう一度ブレイブと向き合う。


「おい!まず説明しろ。村の件からだ。仕方なかったとはどういうことだ。」


「ああ……1つずつ説明するから落ち着いてくれ。…………そうだな……まずは、この世界の神から説明しよう。」


そういうとブレイブはちょこちょこ俺の顔色を見ながら話し出した。


「この世界には神が複数いる。これはみんな知っていることだね。でも、神に派閥があることは知らないはずだ。神たちには二つの派閥があるんだ。と言っても僕もついさっき神様から聞いたんだけど。夢に出てきたんだ。君もなんらかの形で夢に干渉されたはずだよ。」


ああ、そういえば夢を見た時があったな。神の姿は見てないが。


「とりあえず僕は夢で神様と話したんだ。勇者の加護を与える神は最高神様なんだ。だから僕に加護を与えてくださった最高神様と僕は話した。。夢では最高神様の派閥と悪神『アーリマン』の派閥が神様の世界にあることを聞いたんだ。」


そこまで話すとブレイブは一度息を整えるため、話を中断する。


「最高神様の派閥は想像通り人類を見守ろうとする方々だ。人類が存続し、平穏に暮らせるように加護を与える。でも、悪神アーリマンの派閥は違う。悪神たちは人類の滅亡を望み、そのために魔族や人間に恨みを持つ者に加護を与える。そんな奴らだと最高神様は言っていた。」


「じゃあお前はなぜ俺に助けを求める?お前の話だと俺は悪神側の神に加護を与えられたことになる。なのになぜお前は俺に力を借りようとする?」


「違うんだ!……それは違う。復讐の神様についても最高神様から聞いた……復讐の神様は最高神様の派閥だった。………もちろん僕も色々と聞いて、疑問があったわけじゃない。ただ一つ、最高神様から君に伝えてほしい事があると言われた。」


そういうとブレイブはこれまでより一段と大きく、深く深呼吸をする。そして、慎重に言葉を選びながらゆっくりと話し出す。


「最高神様からはこうだ………村を燃やしたのは私の命令だ。恨むなら私を恨め。ただし頼みがある。魔族との戦争に協力してほしい。…………そう言っていた。だから僕からもいう。頼む!!協力してくれ!。」


深々とブレイブは頭を下げる。気づくとブレイブの後ろには王国騎士たちも勢揃いしており、皆一様に頭を下げている。


その中で一人こちらに歩いてくる者がいる。鎧の音を響かせながら俺の前、ブレイブの横まで来た。その男若干シワの目立つ顔に所々に白髪を生やし、胸には一段と輝く徽章きしょうをつけている。


「私は、王国騎士団の団長を務めております。アリステオ・クラディウスと申す者です。オズワルド様の村を燃やし、あなたをこんな目に合わせたのは私です。私が信託を賜り、あなたの村を焼きました。無理を承知で申し上げます。どうかこの老いぼれの命一つで水に流していただけないでしょうか。」


そう言って、騎士団長を名乗る男は頭を地面につけた。


「そんな……騎士団長!あなたが死んではなりません!」

「そうです!あなたは大事な戦力。あなたが死ぬというのなら私が死にます。」


軍のあちこちからそんな声がとぶ。


「うるさい!!お前たちは黙っておれ!!」


騎士団長は頭を下げたまま怒鳴る。この男が人格者だということと実力者だということはわかった。すると、軍の後方、夜の暗い闇からカシャカシャと鎧を揺らして歩く音が聞こえる。それもかなりの数だ。


およそ大隊規模だろうか。軍をかき分けながら行進してくる。そして騎士団長アリステアの後ろに整列する。


「我らは騎士団長アリステア・クラディウスが率いる大隊の者どもであります。この罪を騎士団長が背負うというのなら我らも同罪。我らの首も捧げます。どうかご慈悲を。」


先頭の騎士がそう叫び、大隊は皆アリステアにならい頭を地に擦り付ける。


「お前たち……余計なことを………オズワルド様どうか私たちの首で許してはもらえないでしょうか。」


黙って聞いていたが、訳がわからない。なぜ村を燃やす必要があった。なぜ俺の両親をあんな酷い殺し方で殺さなければいけなかった。なぜ俺の最愛の人の首を俺の目の前ではねなきゃいけなかった。


分からない。分からない。分からない。


「……………少し…………考える…………」


今日は少し休もう。一度騎士たちを帰らせ、俺は考える時間を作ることにした。


その後に何が起きるか知っていればそんなことはしなかったのだが………

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