第11話 全面戦争

 王国騎士団の副団長を名乗る者を殺し、ジェームズたちの元に戻るとそこにはレイラの姿もあった。どうやら魔力を含む霧が晴れたことで、俺との契約の繋がりを辿たどって俺を追ってきた結果、ジェームズたちを見つけたようだ。王国騎士団 副団長を殺したことで少し気持ちが晴れたのか、ブレイブへの苛立ちはマシになっていた。


 それにしても副団長があの程度なら王国騎士団を潰すのはそう難しいことじゃないような気がしてきた。それにどうやらジェームズも精霊と契約したようだ。ジェームズは元々かなりの魔力量を有していたため『本当の契約』を結べたようだ。それにジェームズと契約したシャーロットも復讐には協力してくれるようだ。


そんな俺たちが王国騎士団ごときに負けるはずがない。そうたかを括っていた。


 シャーロットの話では、ここは王都からそれほど離れているわけではなく、王都まで3日あれば着くほどの距離だそうだ。やっとここまできた。


それから2日間歩き続け、王都から半日ほどの場所まで来た。そこで俺たちは千里眼で王都を一望できる丘に登ることにした。千里眼で敵の様子を探るためだ。



 しかし、千里眼など必要なかった。なぜならレイラでもジェームズでもシャーロットでもそれらが見えたからだ。見えないとおかしいほどにそれらは大きく展開し、俺たちを待ち構えている。


 王都の門を出て、半日かかって歩くほどの広さの土地には土地を埋め尽くすほどの軍隊が待ち構えていたのだ。


 幸い向こうはまだ気づいていないようだが俺は千里眼でよく軍を観察する。おそらく軍の前方で馬にまたがる三人の騎士。そいつらがおそらく四方守護者だろう。周りの騎士とはまとっているオーラが格段に違う。そして四方守護者よりも前に立つ男。剣を地面に突き刺し、それに両手を乗せている。何かを聞くことに集中するように目を閉じている男。赤髪を束ね、鈍く輝く鎧をまとい、白のマントを羽織った男。男がカッと目を開き、丘の上の俺と目が合う。


「ブレイブ………」


「オズ…………」



………………………全面戦争の始まりだ……………………


 しかし俺もこの場で戦争を始めるような無能ではない。あくまでも俺の目的は復讐を果たすこと。王国騎士の全滅だ。しかし、いくら俺でもこの数を相手にするのは無理がある。ここはジェームズたちを利用したいが、ジェームズはここまで休まずに歩いてきたため疲弊ひへいしきっている。それはジェームズの魔力をかてに活動しているシャーロットも同じだ。レイラは俺の魔力を十分すぎるほどに与えているためか何の問題もなさそうだ。さらに今は太陽が傾いてきている。


今日のところは体を休め、出直すとしよう。

俺とブレイブは互いに背をむけ歩き出す。


明日が決戦だ。


 その夜、俺たちは作戦を練った。と言っても作戦というほどの作戦はない。ただ殺しまくる。その過程でおそらく四方守護者とブレイブが最大の障害になる。だから役割を決めた。俺はブレイブを後の三人が四方守護者を殺る。勇者の加護は未知数だが、俺なら勝てないことはないだろうと。そして他の三人は勝てないようであれば俺がくるまでなんとか耐える。もし勝てるのであればそれに越したことはないが。結局、作戦会議はそういう結論に達した。


 その夜、俺は眠れないでいた。この戦いが終わったら俺はどうなるのか。そんなことばかり考えてしまう。まだ戦いは始まってもしないのに。そんなことを考えていると契約のつながりで俺の気持ちが伝わったのかレイラが隣に来て、座り込む。


「眠れないの?」


「ああ……この戦いが終わったら俺はどうなるのかと思ってな……俺の目的は人類を滅ぼすことだった。だが、それも恨みの大半は王国騎士への恨みだ。ならば加護によって強化されているが弱くなるんじゃないかと思ってな。そうしたら俺の復讐もお前の復讐も達成できない。」


「そうね……」


そういえばこれまで自分のことばかり考えていて、レイラのことは一度も聞いたことがなかったかもしれない。それどころか暗闇の中での修行中も色々と話す機会はあったはずなのに一度もそんな話をしたことがなかった。40年もの月日をなにもないまま過ごしてきたのだ。この際だから聞きたいことを色々聞いてみよう。


「なあレイラ……」


「……なに?……」


「俺たちってこんなふうに話すのは初めてだよな。」


「ええ………そうね………」


「お前がなぜ復讐を望むのか聞いたことはなかった。だから聞かせてくれないか?」


「……………………ええ、いいわよ………それじゃあ、最初から話しましょう………」


しばらくの沈黙があった後、レイラは語り出す。


「私は昔は人間だったの……。あれは今から300年前のことよ。私は加護を授かったわ。『勇者の加護』よ。私は勇者だったの。あの頃は今と違って魔王がいて、世界は混沌に満ちていたわ。今は魔王はどこかに隠れているせいで魔物もほとんどいなくなってるんだけどね。………とにかく勇者だった私は戦ったわ。戦って…戦って…戦って…戦い抜いた。そんな私に人々は感謝してくれたわ。賞賛も労いの言葉もかけてくれたわ。それはとても嬉しかった。戦ってよかった。このまま人類は私が守る。そう思えたわ。でも人々は私を裏切った。王都が襲われたの。国王の実の娘……王女が魔族に攫われた。魔族側は勇者を差し出せば王女を解放する。そう言ってきたわ。もちろん国のお偉いさん方は勇者である私を魔族に差し出すことを反対した。それは国王もだったわ。でも民衆はそうはいかなかった。王女の代わりに生きる私を民衆はののしった。ものを投げつけた。挙げ句の果てに私の家族は王女を慕うものたちに殺されたわ。収拾がつかなくなった王は私を殺す決断を下したわ。加護は死んだら誰かに受け継がれるから私はもういいと思ったみたいね。」


そこまで言って、レイラは一度深呼吸をし、息を整える。


「人間を呪ったわ。これまでの私のやってきたことはなんだったのか。そんなことまで思った。そして処刑の日、私は処刑台に登った。その時見た光景は今でも鮮明に思い出せる。…………それは……人々の笑っている顔だったわ……」


 そんな事があったのか……かける言葉が見つからない。だからレイラは人を人類を恨むのか。しかし、それではまだ不十分だ。最初にレイラは人間、魔族、そしてに復讐をしたいと。そう言っていたはずだ。今ので人間と魔族に復讐する理由はわかったが神への復讐の理由がわからない。それになぜ今は精霊なのか。そこもあやふやだ。


「ならばなぜお前は神にも復讐しようとする?」


「それは……」

(ヒューッ)

 

空気を切り裂く音が聞こえた。慌てて俺たちは剣を抜き、立ち上がる。徐々に音が近づき、数も増えてくる。暗闇の中、千里眼で確認した。


音の正体は真っ暗な空から降る、大量の矢だ。


「奇襲だ!!起きろ!!」


そしてその矢の雨の中あの男が現れる。


「また会ったね……オズ………」



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