第5話 40年の2週間
ある街があった。その街はよく働く民とただ怠け酒を飲むだけの兵士たちで成り立っていた。何も変わらない日常。いつも通り、昼間から兵士は酒を飲み、それを横目に民はせっせと働く。そんな日常が続く予定だった。
次の日、その街に人は一人もいない。それどころか生物が存在しない。まるで古代遺跡か何かのように町中の建物は破壊され、あたりには血の跡と不快な匂いが立ち込めている。
申し遅れたが、私は『神』である。『豊穣の神』と名乗っている。私はたまたま目撃した。昨日の惨劇を。人々の叫び声を上げる時間も与えず殺していく、眩しいほどに輝く白髪に血のような
しかし今回は次元が違う。厄災というにふさわしい。いや、そんな言葉では事足りないような力をあれは持っている。幸い復讐の三神のうち、二神しかまだ加護を与えていないようだ。おそらくあいつは与えていないのだろう。滅多なことがない限りあいつは加護を与えないからな。
とりあえず、早くあれを見つけたことは幸運だった。早く他の神にこのことを伝えなければ、協力しなければあの厄災は止められない。世界中の加護を持つ者たちを集めよう。あの厄災は必ず止めなければいけない…………
俺が出てきた時、外は雨が降っていた。40年も暗闇で過ごしたのに外に出ると辺りは暗闇に入る前となんら変わらない様子に本当にここは2週間しか時間が経過していないことを痛感する。ちなみに暗闇でも歳を取ると思っていたが、暗闇の中では歳は変わらないらしい。とても変な感じだった。月日は経つのに見た目は変化しないということは。そのせいで僕は暗闇にに入る前の18歳のままである。中身は58歳のおじさんなのだが。しかし、暗闇の中では修行しかしていなかったため精神面の成長など一切なかったと言っていいだろう。
だが、あの日のことは忘れたことがなかった。燃える故郷、両親の死体、彼女の首。今でも鮮明に思い出すことができる。そのことを思い出すと、ついつい抑えている魔力が溢れ出してしまう。
「どうしたの?久しぶりの外に何か思うことでもあった?」
後から出てきたレイラが暗闇を閉じながら聞いてくる。
「いや、何も……… さあ……行こう……」
俺たちは歩き出す。王都に向かって…………
実は暗闇の中でレイラに魔術や神聖術を教えてもらうにあたって新しい契約を結んだ。俺の憎む王国兵を殺し尽くす。これが終わるまでは他の者達には攻撃しない。そういうものだった。もちろん俺は却下したがそれなら修行はつけないと言われてしまってはしょうがない。レイラなりに何か考えがあるのかもしれないし、仕方なく俺は受け入れた。
暗闇から出て二日間歩いて街に着いた。この街は一見すると発展していて、市場には賑わいで溢れている。街を歩くと、そこらじゅうで酒を飲む兵士達がいるがそれは平和の証というものだろう。それにレイラとの契約で王国兵以外であるこの街の兵士に攻撃はできない。
「もう日も傾いてきていることだし、今日はこの街に泊まりましょう。」
レイラの提案に俺は本当は野宿の方がいいのだが、レイラがシャワーを浴びたいと駄々をこねるので仕方なく了承する。まったく生霊の癖に小洒落たことしやがって。
レイラがシャワーを浴びている間、俺はこの街を見てまわることにした。市場につくと昼間と同じかそれ以上の賑わいを見せている。人々は笑顔で商品の売買をし、時には笑い声も飛び交う。まるで生まれ故郷の村を思い出す。あの村でも市場は、いつも活気と笑顔で溢れかえっていた。こんな光景に一瞬だけ心が和む。
「お……願い………します……助けて……」
ふと声が聞こえる。横の路地からだろうか。俺は気になって路地に足を踏み入れる。
そこであっていたのは大人が子供を複数人で殴っている現場である。ただ一方的に。ぼこぼこという効果音と大人達の声が路地裏に響いている。
「お願いします。やめてください。」
「うるさい!お前ら孤児は何の役にも立たないんだから俺たちのサンドバックになってればいいんだよ!」
「そうよ!あんた達なんか死んじゃえばいいのよ!」
なるほど平民達があんな風に笑顔で市場を
孤児が離れたところに立つ俺に気づいたようだ。助けを求めるような顔でこちらを見てくる。だが、俺には関係ない。そもそも俺の目的は復讐だ。こんな奴らに構っている暇はない。それに契約があるから王国兵以外に攻撃はできない。
「いいわよ。やっても」
気づくと俺の後ろにはレイラがいた。いつもの真っ黒な衣装に身を包んだレイラの灰色の髪は
「いいって……何が?」
「あなたもこんな街は早く潰したいんでしょ?それに私が王国兵以外を殺すのを禁じた理由はあまり大きな戦いをしたくないからよ。いかにあなたといえど王国全ての兵士と加護を持った四方守護者を相手にするのは厳しいわ。だから早くにあなたのことを知られるわけにはいかなかったのよ。」
なるほど、そういう意図があったのか。
「でもこんなところを見てあなたも胸糞悪いと思ったでしょう。私は思ったわ。だからあの契約は破棄ね!全面戦争持ってこいよ。」
「お前先のことを考えてるのか、考えてないのかよくわからないやつだな。」
「ふん 40年も一緒にいたんだからあなたも気づいてるでしょ?」
ああ、そうだった。こいつはそういうやつだったな。俺は腰に刺してあった黒く輝く剣を抜く。
剣の名は『ミュルグレス』。
その片刃剣を平正眼に構える。まだ孤児を殴る輩は俺に気づいていない。
「こんな奴らで試し切りはしたくなかったが、40年の成果を見せてやろう。」
そう意気込んだ俺は地面を強く蹴る。
次の瞬間、首が地面に落ちる音が鳴る。
「さあ、殺戮の始まりだ。」
日は沈み、辺りは暗く染まっていた。
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