第6話 殺戮の始まり
「さあ、殺戮の始まりだ。」
そう呟き俺は高く飛び上がり、この街でおそらく一番高いであろう時計塔のてっぺんに着地し、街中を見渡す。加護により、視力が強化された俺はもはや千里眼の域にある。この街の中央にある時計塔から半径が3キロはありそうな街の端までしっかりと見える。それどころか街中を見渡すと建物の中にいる奴らまで全てが見える。
「およそ1万人と言ったところか。」
だいたいのこの街の人口を把握すると、俺は一度レイラのところに戻る。
「おそらくこの街の人口は一万ほどだ。すぐに終わらせるからお前は待ってろ。……ん?」
先ほどの場所に戻るとレイラは大人に暴力を振るわれていた少年と一緒にいた。どうやらレイラが神聖魔法で治療したらしい、傷はすっかり消えている。
「オズ、この子はどうするの?」
俺は茶色の髪に茶色の瞳を持った少年を見て誰かの面影を見た。しかし、邪魔だ。生きていても足手まといにしかならない。
「………殺す。坊主、動くなよ。一撃で終わらせてやる。」
ミュルグレスを平正眼に構え剣を持つ手に力を込める。
「待って!…………僕に殺させて!」
急に少年が口を開く。
「この街がこんな風になってしまったのは領主のせいなんだ。ある日、領主が税を上げる代わりに孤児をサンドバックにして良いなんて言い出したんだ。そのせいでこの街の孤児はみんな死んじゃって、残ったのは僕一人……だから、領主だけは僕に殺させてほしい。」
「…………お前は領主だけが悪いと思っているのか?」
「そんなわけないじゃないか。それに従ったこの街の人たちの方がクズだ。人間なんてそんなもんだよ。人間なんて滅べばいい。」
俺はわかった。この少年に見た面影の正体が。これは自分だ。40年前……いや、2週間前の自分だ。世界を憎み、人間を憎み、復讐を豪語するがそれに伴う実力がなかった時の。しかし俺はレイラに出会ってそれが現実味を帯びた。
ならば、この少年には俺が手を差し伸べてやろう。
「よし分かった、じゃあお前はレイラとその領主の家の前で待ってろ。」
「うん」
少年は強く頷く。憎悪に満ちたいい目をしている。おそらくかなり人間を恨んでいるようだ。俺もあんなだったのか?まあいい。
「坊主!名前は?」
「ジェームズ!」
ニヤリと笑うと俺は走り出す。この世の誰よりも何よりも早く。そして先ほどの時計塔までくる。この時計塔は円形の街のちょうど真ん中に位置している。そしてさっき千里眼で見た様子だと領主の屋敷は北の一番奥だ。あそこだけは攻撃しないように注意しなければいけない。ジェームズとの約束だからな。
「さあ、始めよう。魔力解放」
押さえつけていた魔力が一気に解放され、魔力が溢れ出す。ミュルグレスを抜き、平正眼に構え、詠唱を開始する。
「我、復讐の加護を賜りしものなり。我、精霊と契約を結びしものなり。我、風の断りを知るものなり。我、風の脅威を知るものなり。我の力を代償とし、我に力を与えたまえ。」
詠唱が進むにつれミュルグレスに魔力が集まる。
『死の
地面と並行に振った剣は、詠唱を受けて魔術に代わる。鋭い風の斬撃と共にあたり一体を全て吹き飛ばした。
そう。それは殺戮とはいえない。それはもう完全な厄災である。ちょうどうまい具合に領主の屋敷は避けれたみたいだ。辺りを一度千里眼で確認する。ちらほら生き残りがいるようだがそれも瀕死の状態だ。じきに死ぬだろう。
あとはジェームズの復讐を残すだけだ。俺は急いで屋敷に向かう。
どうやら急がなくてもよかったらしい。屋敷に着くと既に警備の兵士たちは倒され、ジェームズが領主にとどめを指すところだった。兵士はレイラがやったのだろう。
「やめてくれ!頼む!命だけは!なんでもやるから!金か?!金ならやるから!命だけは!」
豚がブヒブヒ鳴いているがジェームズはそんな言葉はいっさい聞かず、もっっているナイフを振りかざす。
!!!!
鈍い音と共に領主の心臓から血が流れ、動かなくなった。
これでジェームズの復讐は終わった。こいつは一つの目的を果たしたのだ。しかし、目的を果たしたならそのあとはどうなるんだ?
「ジェームズ、お前は復讐の終わった。これからお前はどうするつもりなんだ?」
「何を言ってるんですか。僕は決めたんです。あなたについていくと。」
「は?!お前は俺がやろうとしている事が分かっているのか?」
「はい!さっきレイラさんに聞きました。ぜひお供させてください。」
この少年の眼には、一つの目的を果たした達成感。そして、更なる覚悟が宿っている。これは諦めそうにないな。
「分かったよ。でもその代わりにお前には強くなってもらう。俺までとはいかなくてもレイラと渡り合えるぐらいまでは強くなれ。足手まといだと分かったらすぐに切り捨てるからな。」
「はい!」
やれやれだ。レイラとジェームズがハイタッチを交わしている。どうやら俺はレイラに
廃墟になった街を去りながらそんなことを考える。
王都まではまだ遠い。しかし、憎悪がこの心から消えることはない。復讐まではまだ時間がかかるだろう。しかし、俺は必ず復讐を達成する。
しかしこの時の俺は知らなかった。もうすでに神の刺客が送られてきていることに。
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