第4話 力

 まるで踊る様に俺たちは死体人形の攻撃を避けながら斬撃を繰り出す。細部に至るまで動きがシンクロした様子はまるで相手が自分の一部であるかのようだ。実際に俺は精霊であるレイラと契約したことでレイラとのつながりというものを感じる。


死体人形の周りをくるくると周りながら敵に斬撃を入れる。息のあったコンビネーションで俺たちは相手を翻弄していく。いつしか死体人形の動きも鈍くなってきた。


「オズ!そろそろ決めるよ!」


なぜか勝手に愛称呼びになっているのは今は無視して俺は振る力にありったけを込める。


「ふん!」

「はっ!」


胴体を平行に切断し、三等分になった死体人形はピクリとも動かなくなる。


「勝ったのか?」


いつの間にか渦を巻いていた暗闇はなくなり、俺たちは神秘的な空間に立っている。


「どうやらそうみたいね…………それにしてもあなた弱すぎない?その加護があるのにどうしてもっといい戦い方をしないの?」


この女は……いや、この精霊は何を言っているんだ?俺は昔とは見違えるように動きが良くなっていたはずだ。俺だからあの死体人形の攻撃を避けれたと暗闇の中で言っていたではないか。


「本来、あなたの加護なら避ける必要なんてなかったはずよ。攻撃を食らっても相手にも同じだけのダメージを食らわせられるんだから。それに自分は神聖魔法で回復すればいいでしょ?」


「神聖魔法…………使えない……」


「え?………………あなた加護持ってるのよね?加護を授かるということは神に愛されるということでそれは神を信仰している者しかいないはずよ。」


それはおかしい。俺はこれまでの人生で一度たりとも神に祈ったことなどない。それどころかどちらかというと加護を授かるまで神は信じていなかった。


「じゃあ、使おうと思えば神聖魔法を使えるのか?」


「ええ………それどころか魔法も使えるし、剣術に必要な体力も強くなっているはずよ。あなた何も知らないのね。」


「それは加護の力なのか?すまない。つい数日前に加護を授かったもので。」


「え…………………」

(おかしいわ 加護を授かって数日でこの強さってどれだけ過酷なことがあったっていうのよ。正直この強さになるのは同情するレベルのことがあったとしか思えないわ。あんまりそこには触れない様にしてあげましょう。)


「ところでレイラはなぜ俺の加護を知っているんだ?」


「え!!………ああ それは……精霊は加護を持っている人とその加護が何かまで分かるのよ。まあ、あなたには多少同情するけどね。」


「ん?どういうことだ?」


「あ!いやなんでもないわ!こっちの話よ。それより今後の話をしていいかしら?」


「これから?これからはまず俺の復讐を実行する。お前の復讐はその後だ。それでいいな?」


「それでいいけど。そうじゃないわ。今はそんな実力で王国に乗り込んでも時間がかかりすぎるのよ。あなたは加護によって死ぬことはないし、いつかは達成できるかもしれないけど絶対に殺せない奴らがいるのよ。」


「倒せない奴ら?僕でもか?」


「ええ そいつらは王国で四方守護者と呼ばれているあなたと同じ加護を持った人間よ。あなたみたいに2つも加護を持っている人はいないけど皆それぞれがそうとうな手練れよ。今のあなたじゃ叶わないわ。」


「………そうか……じゃあどうすればいい?何年かかってもこの復讐は成し遂げる。だからその方法を教えてくれ。」


「いい覚悟ね。加護が宿っただけあるわ。まずあなたには神聖魔法、魔術、剣術、これらを最高レベルまで高めてもらうわ。私が教えるから心配しないで。」


「でもそれってかなり時間がかかるよな。それに魔力も神力も俺はあまり持っていないと思うんだが。」


「あら、まだ気づいてないの?あなたの加護は憎しみや憎悪、失ったものや流した涙の分だけ力を増幅させるのは知っているわよね?じゃあその力ってなんだと思う?」


「筋力とか体力じゃないのか?さっきの死体人形との戦いでそう感じたぞ。」


「ええ 半分正解ね。でも本当は力っていうのは全てののことよ。つまり、魔、神、体、筋、生命、思考までありとあらゆるが強化されているわ。」


それ反則じゃないのかと言いたくなるような能力にそれへの代償が一切ないことが都合が良すぎる様な気もするが、この加護があれば完璧に復讐を成し遂げられる。そんな理想が現実へと変わった様な気がする。


「それに時間なら気にしなくていいわ。本来なら全てを最高レベルにするには40年はかかるわ。でもさっきの暗闇の中は時間の経過が1000分の1なの。」


「ということは」


「そう。40年の修行を2週間で終わらせられる。」


見えてきた。レイラと出会うまでは野望を口にするだけだった俺がレイラと出会い、レイラと契約して全てが現実味を帯びる。あの日のことを思い出すと耐えられない憎悪が心臓で唸る。今でもあの日の燃える村の色は瞳の奥にこびりついて片時も忘れたことはない。


 それへの復讐への道のりが見えた。これからは暗闇で修行の日々が始まるのだろう。40年長い年月だが、この憎悪を忘れることはないだろう。


「それじゃあ行こう。」


「あら、もう行くの?準備とかは大丈夫?持っていくものとかないの?」


「そんなものはない。この剣とこの気持ちがあれば40年なんてすぐだ。」


「そうね。じゃあ、いきましょうか。」


そう言うと、レイラは手から暗闇を放出し、その暗闇が俺たちを飲み込んでいく。


「次に俺が出てきた時がお前たち王国の最後だ。」


そう呟くと同時に完全に姿を消した。


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