第3話 復讐の精霊 そして覚醒
どこからか声が聞こえる。いや、聞こえるわけではない。頭に直接響いてくるのだ。なぜだろう。さっきまでは早く帰ることばかり考えていたのに無意識に体が声の方へ向いてしまう。すごく心地いい声だ。
いつしか僕は家とは逆の方向へ歩いていく。そこは霧に包まれたとても幻想的で神秘的な場所だった。長くここに住んできたのにこんなところに来たのは初めてだった。あたりは緑の木々で囲まれてはいるものの葉の隙間からは日光が差し込んでいる。地面には苔が生い茂り、ここがどこなのか分からなくなりそうだ。しかし、僕はどこか違和感を覚えた。その光に満ちた空間の中央に一つ……いや一本……いや一振りの剣が突き刺さっている。黒く、禍々しいオーラを放つ剣はどこか既視感が否めない。しかし、僕はその剣が……その何もかもを吸い込んでしまいそうなほど黒く輝く剣が美しいと感じてしまう。僕は静かに剣に近づく。まるでそこにいる誰かに見つからない様に。
そして剣の
その剣には片側にしか刃がついておらずいわゆる片刃剣なのだろう。黒い刀身はどんな物でも切り伏せてしまえそうなほど冷たく光り輝いている。柄は骸骨の装飾が施されており、不気味と言わざるを得無いオーラと共に時間を忘れて見入ってしまうほどの美しさがある。
しばらくの間、僕はその剣に見入ってしまっていた。惚れ惚れとするほどの美しさに僕は辺りの変化に気づくことができなかった。気づくとさっきまであったはずの幻想的で神秘的な空間はどこかに消え失せており、代わりに不気味の塊といえるような暗闇がそこにはあった。暗闇は渦を巻いている。もうすぐこの中から何かが出てくる。そんな未来が見える気がする。そんな暗闇がこちらを向いている。
次の瞬間、暗闇から何かが飛び出す。反射で顔を隠しそれを回避する。出てきたものの正体を確認した僕は硬直する。そこにいたのは………死んだはずの父親だったのだから。
正確にいうならばそれは首のない姿の父である。しかし、その身長、体格、そして幼い時に僕を庇っておった火傷の跡が腕に刻まれている。
なんで?どうして?誰が?どうやって?そんな疑問が次々に浮かんでは消えていく。その間にも首のない父は攻撃を仕掛けてくる。誰かに操られているのだろう。死体人形となった父は生前では考えられないような動きで僕を攻撃してくる。僕はただ攻撃を交わすので精一杯である。加護を授かってもそれを使いこなせ無いと意味がない。そう痛感する。このままではジリ貧だ。僕は攻撃を交わしている間、ずっと持っていた剣を見る。
「やってみるか………」
僕は剣を振り上げた。その時である。
剣から何かが噴き出る。その吹き出たものが辺りをさらに別の暗闇で包んでいく。死体人形が出てきた暗闇とは別の小さな暗闇が。ああっ!と小さな叫び声をあげ、僕は暗闇に飲み込まれた。
目を開けるとそこは暗闇の中だった。根拠はない。ただただひたすら暗い。なのに自分の姿は見える。空間の広さも分かる。そして目の前には………一人の女が立っている。
いや、女なのか女の子なのか見た目だけでは判断が難しい。そこにいたのは身長は160前後で肩甲骨あたりまで伸びた灰色の髪をふわふわと揺らし、真っ青な碧眼を持った女の子。灰色の髪を際立たせるきめ細かくて真っ白な肌にスラリとして
真っ黒な衣装に包まれた女はまるで
「やっと会えたね……ずっとこの時を待ってたよ……私と契約してくれるかな?」
「………契約?」
そういって女は手を差し伸べてくる。彼女は心地いい声で僕に契約を持ちかけてくる。
「私は精霊よ。名前はレイラ………ずっとあなたがくるのを待っていたの。あなたの復讐に協力するからあなたも私の復讐に協力して」
「意味が分からない。ちゃんと説明してくれないと。」
「説明は後よ。早くしないとこの空間が破られる。あの死体人形はかなりの強さに設定されているのよ。あなたは加護のお陰で身体能力が上がっているから避けられていたけどあれは王国の中隊規模の騎士たちが戦ってやっと勝てる様な強さよ。」
やはり意味が分からないことがいろいろあるが、僕は強くなっているのは分かった。このままだとこの暗闇も溶けてしまうということも。それでも確認しないといけないことがある。
「一つだけ答えろ、レイラ………お前の復讐の相手はなんだ?」
「……………人間……魔族………そして………神……」
ゆっくりと、はっきりと言ったレイラの碧眼の目には何か僕と通ずるものがある。僕は一度大きく深呼吸をする。そして、
「俺の名はオズワルド・モリス。 レイラ!お前は俺の復讐の道具だ。その代わり俺もお前の復讐の道具になる。」
そうやって差し出されていた手を握る。その瞬間、触れた手から暗闇の中に真っ白な閃光が走る。
気づくと俺とレイラは背中合わせで死体人形と対峙している。俺の手には黒く輝く剣が、レイラの手には精霊の力なのか白く輝く光の剣が握られている。
「行きましょう!」
「ああ!」
その言葉を合図に俺たちは走り出した。
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