第5話 どっちが挿れられる側になる?

「いや、まぁ、マジな話だけど」


 いつの間に飲み干したのか、ローテーブルの上に置かれたチューハイの缶から、やけに軽い音がする。


「ぶっちゃけ、おれは高月なら抱ける自信がある」


 突然のカミングアウトである。

 いやまぁ、結婚しようぜ、って話になったわけだから、その辺の役割は重要なんだが。


 どっちが『女役挿れられる側』になるのか、という点は。


「直球で来たな、阿島よ」


 思わず座り直して距離を取る。俺のヴァージンが危ない。


「いやいや、そんなに警戒するなよ。違うって。お前と結婚するはするけど、おれはそもそも恋愛対象は女なんだし。ただ、もし、いつかそういうことをするってなったら、おれはお前を抱けるぞ、っていう」


 違わねぇよ、この場合。

 近い未来か遠い未来かの話だろ?


「いいや、阿島よ。俺だってな? 恋愛対象は女だわ。だけど、俺だって全ッ然抱けるからな、お前のこと」

「はぁ? マジかよ。おれ、お前より身長あるじゃん」

「おっ、そこを突いて来たかちくしょう。確かに背はな、お前の方がでけぇけどさ、俺の方が筋肉あるじゃん」

「ぐぅっ……!」


 阿島はよく言えばモデル体型、悪く言えばガリガリだ。シュッとした服を着ていれば恰好良いが、脱ぐと貧相なもやしっ子である。

 それに対して俺はというと、身長は阿島よりも五㎝ほど小さいが、大学でラグビー部に所属していたことと、いまの職場が結構な力仕事(家電量販店)ということもあって、まだまだ身体の厚みは現役並だ。


「絵的にもさ、絶対俺だろ」

「何だよ絵的に、って。高月は確かにガタイは男らしいけどさ、女顔じゃん」

「まぁ、母さん似だからな。だけど阿島はほら、繊細な眼鏡君って感じで、もうどう見ても女だろ」

「どう見ても男だよ。胸ないじゃん!」

「俺だってねぇわ!」

「高月はあるだろ、筋肉が!」

「筋肉じゃん! それは女のやつとは違うじゃん!」

「違うけども、絶対それAカップくらいはあるって! おれ、貧乳の方が好きだし!」

「マジかよ! 俺もだわ!」

「高月! やっぱりお前は話の分かる男だ!」

「阿島! やっぱり親友だなっ!」


 とりあえずその日は一旦話し合いを中断して、互いに所持しているアダルトな映像作品を交換するにとどめた。ただ偶然にも、同じものを持っていたりもして、そんなところでも運命を感じ、やはり結婚相手はお前の他にいない、などと愛(?)を確かめ合うプチイベントは発生したが。

 

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