第4話 そんな運命の再会を経て

 言い回しは微妙に違ったが、内容としては同じことだ。


 すなわち――、


 Will you marry me?私と結婚してくれませんか?


 という。


 俺達は小学校からの付き合いで、自他共に認める親友だ。

 俺達の地元は田舎で、小学校と中学校は一つずつしかなかったし、クラスも一つしかなかった。だから九年間同じクラスだった。


 さすがに高校では離れるかと思ったが、そんな小さな町に高校がいくつもあるわけもない。そして俺達は何の打ち合わせもせずに同じ高校に進学し、当然のように三年間同じクラスで過ごした。ちなみに高校は三クラスあった。


 けれどさすがに大学進学アンド就職で離れ――たかに見えた。


 確かに大学は別だったし、就職先でばったり、なんて奇跡もなかった。ただ――、


 アパートの部屋が隣同士なんて奇跡が起こるとは思わないじゃないか。


 入居のタイミングこそややズレたため、まさか親友が壁一枚隔てた向こうにいるとは思わず、最近どうよ、などというメッセージのやりとりをしていたものである。壁の薄さが自慢の賃貸アパートだったので、送信するとほぼ同時に受信音が壁の向こうから聞こえてくるのだ。すげえ、こんな偶然あるんだな、なんて思っていたある日のこと。


 阿島あしまから電話がかかって来たのだ。


「ヤバいんだよ。財布落としちゃってさ、今月マジピンチなんだよね。頼む、金貸してくんねぇ?」


 これが橋田レベルの友人だったら「知らねぇよ」で切るところだが、他でもない、親友の阿島である。親友のピンチとあらば、俺はもう二つ返事だった。


 が。


 おかしいのである。


 電話口から聞こえてくる阿島の声が、壁の向こうからも聞こえてくるのだ。向こうも何か感じ取ったらしく、「え? 何か、声? え?」と混乱している。

 けれどもまさかそんな偶然があるだろうか。

 互いにそう思ったはずだ。

 けれども、もしかしたら、もしかするかも!


 そんな思いで、「ちょっと確認するけど、お前のアパートって、『ブッシュドノエル・柏泊かしわどまり』?」

「そうそう、クリスマスケーキみたいな名前のやつ。えっ、ちょ、まさか高月たかつきも……?」

「ああ、そうだ。クリスマスケーキみたいなやつな。そんであれだろ、201だよな?」

「てことは高月が202なのかよ! おい、マジかよ!」

「こっちの台詞だ馬鹿! とにかくこっち来い、金貸してやるから!」

「すまん! ありがとう!」


 とまぁ、そんな感じで思いがけない再会を祝いつつ、なけなしの二万円を貸したわけである。


 それから、互いの部屋を行き来するようになって数年、更新の時期になってどちらからともなく切り出したのだ。


「いっそのこと一緒に住んだ方が金も浮いて良くねぇ?」と。


 そうしていまのいままでやって来た。


 親友との共同生活というのは、同性ということもあり、かなり楽である。トイレの便座がどうだとかで争うこともないし、それぞれ家事の得意分野がきっちりわかれているため、片方だけに負担が大きいなどということもない。ここまで平和に暮らせるのは稀かもしれないが、本当に快適に暮らしてきたのである。


 どう考えても、これ以上のパートナーはいない。

 お互いにそう確信した。


 ただ、一つ問題がある。

 

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